【】【F1イタリアGPの焦点】ティフォシの興奮とメルセデスの攻撃の狭間で、未知の自分と対峙していたルクレール

9月10日

 スタートではメルセデスの2台を抑えることに成功し、首位を守って第1スティントを走り始めた。しかしハミルトンを引き離すことは難しく、スリップストリームを与えながらDRS圏外に保つのが精一杯。ただし見方を変えると、ルクレールが絶妙のペースコントロールをしていた、と考えることもできる。

XPB Images

 頼みのベッテルは6周目のアスカリでスピンを喫し、後方に沈んでしまっていた。メルセデスの1台がアンダーカットに挑めば、ルクレールは次の周回に必ずカバーしなくてはならない。彼らのアンダーカットを成功させないためには、インラップでペースを上げる余力を残しておくことが必須だ。ピットインのタイミングを決めるのはメルセデスなのだから。

 第1スティントのルクレールは、一貫して1分24秒後半〜1分25秒のペースを守り続けた。ハミルトンを真後ろに引きつけることによって、彼のタイヤを性能低下させることにも成功した。「リヤが落ちてきた」と先に訴えたのはハミルトン。19周目にメルセデスがピットインするとフェラーリも次の周回でタイヤ交換に入ったが、インラップのタイムはルクレールの方が0.6秒速かった。ピットイン前の1秒の間隔と、インラップの速さと、スムーズなタイヤ交換で得た0.3秒。ポジションを守るには十分だった。

 ただし課題は、すでにウォームアップを終えたミディアムで攻撃してくるハミルトンを、履き替えたばかりのハードで抑えること。アウトラップのペースはフェラーリの方が1秒遅く、ハミルトンはすぐにフェラーリのDRS圏内に入ってきた。幸いだったのは、ステイアウトしていたルノーのニコ・ヒュルケンベルグが2台の目の前を走行していたこと──。22周目のパラボリカでルクレールはルノーのイン側から前に出たが、手前のDRS検知ポイントでルノーが前にいたことによってDRSの権利を得ていた。2台のスリップストリームを活かして迫ってくるハミルトンを相手に、ルクレールもDRSを開いて身を守ることができた──。

 しかしその後もハミルトンの攻撃が弱まることはない。直後のロッジア入り口ではフェラーリの右側にメルセデスが並び、対するルクレールは「ぎりぎり1車幅分を残して」ハミルトンを右に追いやっていく。

「もちろん、ルイスが右側にいることは知っていた。彼はほんの少し早くブレーキングしたけれど、それはおそらく、アウト側に並んでシケインに入りたくなかったからだと思う。映像は確認していないけれど、僕は1台分の幅を残していたはずだよ」

 縁石を含めて“1台分”のスペースはハミルトンには厳しく、メルセデスは接触を避けるためシケインのエスケープゾーンを通ることを選んだ。
「押し出された」と無線で伝えるハミルトン。ブラック&ホワイトのフラッグで警告を受けるルクレール。しかし2台の戦いは激しさを保ったまま、その後も続いた。

「ハードタイヤを管理するのはすごく難しかった。最初の3〜4周は良かったけれど、その後は4輪の性能が揃って低下した。最初はフロントがロック気味になるのに苦労し、終盤は特に左リヤのグリップを失っていた。でも、最悪の状態だったわけじゃないから、まだ多くの周回を走れる状態だったと思う」

 ルクレールの攻撃的なディフェンスは、フェアとアンフェアの境界線──。見る人によって判断は異なってくる。しかしオーストリアGP以降“攻撃性の程度に関して考えを変えた”というのは、彼が何度も明言してきたこと。大切なのは、守る際も攻める際もより攻撃的なアプローチを取りながら、ルクレールがそれによって破綻していない点だ。