前を走るチームメイトを逃すために鬼ブロックで後続を抑え込むマグヌッセン

【】【F1第2戦決勝レースの要点】1点をもぎ取った小松ハースの鬼ブロック指令。マグヌッセンの献身と見事なチームワーク

3月10日

 F1第2戦サウジアラビアGPの決勝レース、今季はチーム間のマシン戦闘力が去年以上に拮抗しているのに加えて、トラブルもほとんど出ない(開幕戦は全20台完走。第2戦もトラブルによるリタイアはアルピーヌのみ)。それだけに、中団チームがたとえ1ポイントだけでも獲得するのは、かなり難しい使命になっている。

 そんな状況下、ハースは小松礼雄新代表の意表をつく采配で、貴重なポイントをもぎ取った。

 超高速市街地サーキットを舞台に戦われるサウジアラビアGPでは、些細なミスがクラッシュに直結する。そのため過去3回の開催でのセーフティカー(SC)出動率は100%、毎回SCが出ていた。今回も、その可能性は十分にある。そこでチームはSCが出た際には、2台で戦略を分けることを決めた。

 そしてレースでは序盤7周目にランス・ストロール(アストンマーティン)がターン22でクラッシュを喫し、今年もSCが導入された。この時点でハースのケビン・マグヌッセン11番手、ニコ・ヒュルケンベルグは13番手の位置にいた。チームは前にいたマグヌッセンをすぐにピットに入れ、ヒュルケンベルグはステイアウトさせる戦略を取った。

 その結果、マグヌッセンは13番手に後退。ヒュルケンベルグは8番手に順位を上げた。その後ヒュルケンベルグはジョージ・ラッセル(メルセデス)、オリバー・ベアマン(フェラーリ)に抜かれて21周目には10番手まで順位を落としていた。背後に迫る周冠宇(キックザウバー)以下の8台は、ほぼテール・トゥ・ノーズ状態。ここでピットインをこなせば、最下位転落は必至の状況だった。

 そこでチームは12番手のマグヌッセンに、「周回ペースは落としつつ、すでにピットインを済ませた後続勢を抜かせない」走りを指示した。この時点でマグヌッセンはアレックス・アルボン(ウイリアムズ)との接触やコースオフしながら角田裕毅(RB)を抜いたことで、計20秒のペナルティを受けていた。

 「ケビンに入賞のチャンスはない。そこで彼に目標タイムを示して後ろを抑えてもらい、その間にニコを逃す作戦を決断しました」(小松代表)。

 それまで1分35秒台前半で走っていたマグヌッセンは、1分35秒台後半〜36秒台にペースダウン。背後の角田はマグヌッセンの0.5秒前後につけるものの、抜くことができない。フィニッシュラインでの最高速は、マグヌッセンと角田では時速1kmも違わない。ただし角田の最高速はDRS使用時のもので、これでは抜くのは難しい。

 一方、ヒュルケンベルグは1分34秒台で周回を重ね、マグヌッセンに20秒以上のギャップを築いた33周目にピットイン。コース復帰時に周に先行されて11番手に後退したものの、周もステイアウト組であり、41周目の周のピットインで10番手に復帰。そのまま逃げ切って、チームに貴重な1ポイントをもたらした。一方、11番手でチェッカーを受けたマグヌッセンは、20秒ペナルティで最終結果は15位完走となった。

 もしマグヌッセンにブロックされなければ角田のポイント獲得もあり得たRB陣営は、「あきらかにスポーツマン精神に反する行為で、FIAと話し合うべき」と、レーシングディレクターのアラン・パーメインは憤まんを隠さなかった。とはいえマグヌッセンは規約に違反する走行をしたわけではない。限られた戦闘力を戦略でカバーした、小松ハースの技ありの勝利というべきだろう。



(Kunio Shibata)