【】ディプロイメントって何?

9月12日

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 高速サーキットではマクラーレン・ホンダが大苦戦を強いられましたが、その要因のひとつが“ディプロイメント”にあったと言います。最近よく耳にするようになったディプロイメントとはどういうものなのでしょうか?

 現在のF1マシンは非常に複雑なパワーユニットを搭載していて、エンジン本体にターボチャージャー、そしてMGU-KとMGU-Hという2つのエネルギー回生システム(ERS)を組み合わせて走行しています。

 1.6リッターV6のターボエンジンは、それ単体で約700馬力のパワーを発生します。2013年までの2.4リッターV8エンジンは800馬力を超えるパワーを持っていましたから、ターボが加わったとはいえ排気量が小さくなったエンジン単体では従来のパワーを超えることはできないのです。

 しかし、2014年からのレギュレーションでは、MGU-KとMGU-Hによって最大120kW(約160馬力)のエネルギー回生が可能です。これがディプロイメントと呼ばれるもので、これを加えればパワーユニット全体で850馬力以上のパワーを絞り出すことができるのです。

 ただし、バッテリーから放出できるのは1周あたり4MJと制限されており、120kWのアシストは1周あたり33秒ほどしか使用できません。さらに、ブレーキング時に発電するMGU-Kからバッテリーに充電できるのは1周あたり2MJまで。2周以上かけてバッテリーを充電しても、1周のうちたったの33秒しか使用できないのです。

 では、1周のラップタイムが1分30秒のサーキットなら、残りの約1分間はどうすれば良いのでしょうか?
 ここで活用されるのがMGU-Hです。排気ガスで回るターボチャージャーの回転軸につないでモーターを回し発電するMGU-Hの電気エネルギーは、バッテリーに充電することなくダイレクトにMGU-Kのモータージェネレーターユニットを回して120kWのディプロイメントをすることが許されています。これには時間も容量も制限はなく、発電ができる限りディプロイメントが可能なのです。

 ただし、MGU-Hを回せばターボのパワーが低下するため、ターボを活用したいストレートではMGU-Hの発電が充分にできません。すると、ディプロイメントが足りなくなるという現象が起きるのです。

 ターボとMGU-Hの性能が高ければ、効率よくターボを回しながら発電することもでき、ディプロイメントを長く機能させることができます。しかしホンダのようにMGU-Hが充分に熟成できていないと、MGU-Kでカバーできない時間にディプロイメントが切れてしまうのです。これは新パワーユニット初年度の2014年には多くのメーカーが経験したことであり、彼らは1年間の実戦データと研究を元に開発を施してきたからこそ、2年目の今季は充分なディプロイメントが可能になっているのです。ホンダも今後の開発でこの問題が改善できれば、実戦での競争力向上に繋がってくるはずです。