【】浜島裕英のF1人事査定 第十三回査定「唯我独尊」

9月9日

こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

xpb
第十三回査定「唯我独尊」
 イタリアGP。レースの方は、燃焼系を大幅に改善した新エンジンを搭載したルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)がブッチギリで優勝、2位セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、3位フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)と言う結果でした。ハミルトンを追撃しなくてはならないニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)は、FP3でこの新エンジンにトラブルが発生し、5レース(も!)使用した旧型エンジンで予選と決勝を戦うことになりました。2位ベッテルをレース終盤追い上げたものの、あと3周というところでエンジンの息が絶え、今季初のリタイアとなってしまいました。チャンピオンシップを考えると、ロズベルグは非常に厳しい状況に追い込まれたことになったわけですが、彼の今後の奮闘に期待したいものです。

 さて、前回ベルギーGPで起きたタイヤのトラブルに関しての解析結果が、ピレリから発表されました。解析の結果は、“構造上の問題は全くなく、トラック上のデブリ(破片など)と入力の厳しいサーキットで長時間使用されたタイヤの例外的な複合効果によって、トラブルが生じた”という結論でした。ベルギーGP直後のピレリの発表では“偏摩耗”だと言っていたのが上記のように変わったのは、調査で30%のトレッドゲージが残っていたのが分かったからなのでしょう。やはりよく調べてから、問題の原因を結論付けるべきですね。

 ところでこのベルギーGPの問題は、構造上の欠陥ではない、としながらも、ピレリは超高速のイタリアGPが行われたモンツァに揃ったチームに対し、タイヤの最低内圧とキャンバー角の制限をこれまでに比べて厳しくしてきました。その理由としては、シーズン後半に向けてクルマの開発スピードが上がり、ダウンフォースや速度が増すためだとしています。

 タイヤの空気圧を上げると、走行時のタイヤの変形量が減少し、タイヤの構造と材料への負担が軽減されますし、タイヤのバネとしての硬さが増すためにスタンディングウェーブ現象(タイヤが路面から離れる際に、波打つように変形してしまう現象)が発生する速度が上がるので、タイヤの耐久性は向上します。

 しかし、逆にタイヤの接地面積が減少することと、タイヤのバネ常数が上がるというデメリットも生じます。少ない面積で路面からの入力を受け止めるためにコンパウンドの負担は増すため、性能劣化(デグラデーション)が起きやすくなりますし、バネ常数が上昇することで操縦安定性が悪化、とりわけグリップ限界からのクルマの滑りの挙動を急激にしてしまいます。

 このような理由から、ドライバーは内圧を上げるのを基本的には嫌います。タイヤメーカーは安全確保の観点から空気圧を上げたがるのですが、チーム側は出来るだけタイヤのグリップが上昇し操縦安定性も上がる低い内圧でタイヤを使用したい。タイヤの内圧に対する両者のせめぎあいは昔から続いていて、将来も続くことは間違いないでしょう。

 今回ピレリは、フロントの最低内圧を、21.0psi(ポンド スクエア インチ)、リヤのそれを19.5psiとしました。これがレース終了後に物議を醸すことになるとは、だれも想像しなかったでしょう。レースの終盤、メルセデスAMGのピット内でトト・ウォルフ氏が何やら慌てている様子が映し出されたのを、皆さんは記憶されているでしょう。また、無線でハミルトンにペースを上げるよう指示が飛んだのも覚えていらっしゃることと思います。これら一連の出来事は、次のことに起因していたのです。

 フォーメーションラップのスタート直前に、FIAの技術員がハミルトン、ロズベルグ、ベッテル、キミ・ライコネン(フェラーリ)の左リヤタイヤの内圧を抜き打ちで測った結果が下表です。フェラーリの2台は規定以上の内圧が入っていたのですが、メルセデスAMG勢は規定以下だったのです。

 このことでチーム内は騒然となったようで、ペースアップの指示は、タイムペナルティを受けた場合の事を想定していたのでした。そしてレース終了後、メルセデスAMGのテクニカル・ディレクターであるパディ・ロウ氏はスチュワードに事情説明のため、呼び出されたのでした。

 結局、今回、ハミルトン、ロズベルグともにペナルティを受ける事はなかったのですが、その理由は、こうです。

「タイヤをクルマに装着した際、ピレリによって推奨された最低内圧であった。FIAがタイヤの内圧をグリッド上で計測したとき、タイヤウォーマーは、通常の手順で電源から切り離されており、そして、タイヤ(の温度)は、規定されたタイヤウォーマーの最高温度に比べて極めて低いものであった」

 要するに、グリッドで内圧を測った時にはタイヤ温度がかなり下がっていたから、内圧が低かったのは致し方ない、としたわけです。しかし、通常チームはタイヤの温度を下げないように必死の努力をしているので、この裁定理由にはかなり無理があるように思えます。実際問題、フェラーリ勢にしても内圧は出来るだけ低くしたいわけですが、彼らは、内圧の規定を守っています。ちなみに、ボイル-シャルルの法則(P/T=P'/T':P;圧力、T;絶対温度)が適用できると仮定して、ある計算をしてみました。上の表の一番右の欄は、タイヤがタイヤウォーマーで110℃に完全に暖められた時の内圧が19.5psiだとして、計測された内圧まで下がった場合にタイヤは何度になっているのか……というのを算出した数値です。
 ハミルトンの温度は許容できるとしても、ロズベルグの温度は考えられぬほど低いと言えるでしょう。と言うのも、タイヤが冷えてホイールも冷え、タイヤの中の空気が冷えて内圧が下がるには、それ相当の時間がかかるからです。

 彼らが意図して左リヤタイヤの内圧を下げていたかどうかは別にして、トップチームがこのような疑いを持たれるようなことをすべきではありません。と言うことで、今回は、メルセデスAMGのパディ・ロウ氏に、五段階評価で3を進呈したいと思います。余談ですが、GP2の予選では、この内圧規定違反で失格したドライバーがいました。もしかしたら、ハミルトンが失格することを望んでいた人が、チーム内にいたのかもしれませんね。

(浜島裕英)