【】浜島裕英のF1人事査定 第十二回査定「セバスチャンの怒り」

8月27日

第十二回査定「セバスチャンの怒り」
こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

LAT
 ベルギーGP。この1戦からスタート前にクルマがガレージを出ると、ドライバーがスタートに関するアシストをピットから受ける事ができなくなるルールが適用され、ここに注目が集まりました。また、個人的には、ニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)が、夏季休暇前の悪夢のレースから立ち直っているかどうか、という点に興味がありました。

 ロズベルグはFP1とFP2ではトップに立ったものの、FP3とQ1ではルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)に先行されました。しかしQ2で何とか挽回し、その勢いでQ3へと望みをつないだのですが、最終的には大差をつけられて敗退してしまいました。(下表参照)



 しかもレースでは、スタートを失敗して大きく出遅れ、ハミルトンを捉える絶好のチャンスである1周目のケメルストレート(オールージュの先の長い直線)での勝負をフイにしてしまいましたね。このサーキットは、メルセデスのパワーユニットのパフォーマンスを十分に活かせる長いストレートがあるので、結果的には2位でフィニッシュ出来たわけですが、そうでなければハンガリーの二の舞になっていたかもしれません。とにかく、今後の彼の奮起に期待したいものです。

 さて今回のレースでは、後述するタイヤのトラブルが話題になっていますが、タイヤの珍事としては、ウイリアムズのピットが犯した、タイヤセットの混用という事例がありました。バルテリ・ボッタス(ウイリアムズ)が第1スティントを終えてピットインし、タイヤ交換を受けると、ソフトを装着予定だったようですが、なぜか右のリヤタイヤだけミディアムが装着されてしまったのです。あってはならないことが起きてしまいました。ドライバーには全く責任が無いのですが、ドライブスルーペナルティを受ける羽目になってしまいました。

 もっとも、この程度のペナルティで済んだのは、不幸中の幸いだったかもしれません。予選であったなら、タイム抹消となるでしょうから。
 これは、明らかに人為的ミスだと推察されます。普通タイヤは、ドライバー名、セットの番号、右前輪、左前輪、右後輪、左後輪が明記された名札がつけられたタイヤウォーマーにくるまれて準備されています。そしてレース中であれば、レースエンジニアの無線指示を受けてメカニックがタイヤを取り出し、ピットインしたクルマに素早く装着することになります。

 これらのレース用のタイヤは、土曜日の夕方にタイヤ担当のメカニックによってセットされます。そして日曜日のレーススタート3時間ほど前にスイッチが入れられ、暖め始められます。こうなると、タイヤの温度を既定の値にコントロールすることが大切ですので、タイヤ装着の時まで、タイヤウォーマーが開けられることはありません。したがって、今回の件は何らかの理由で、タイヤ担当メカニックが、間違ったセットを作ってしまったことになります(セットごとにしていますから、3輪ミディアムで、右リヤのみソフトというセットがあったはずですね)。これを防ぐには、誰かがダブルチェックして、ミスをする確率を極力低減するしかないわけで、ことレース用に関しては、私も自ら実施していました。

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 さて、話題騒然のタイヤトラブルですが、ひとつ目はFP2の時に、ロズベルグの右リヤで、ふたつ目はレース終盤に、フェラーリのセバスチャン・ベッテルの同じく右リヤに発生しました。原因はともかくとして、ビデオで見る限り、ロズベルグの場合はケメルストレート辺りから、トレッド下のカーカスを抑えているベルトを補強する糸が、トレッドを突き破って露出し始め、その後一気にベルトが吹き飛ぶ時に、カーカスと言う部分をも引きちぎっているように見えます。

 一方、ベッテルの場合はベルトの部分が一瞬にして剥離して飛び去り、その後カーカスと呼ばれるケース本体でしばら暫く走った後、それも破損しているように見えました。両方とも、いわゆるタイヤバーストと言えるでしょう。

 ピレリは、ロズベルグの件についてはタイヤにカットが入り、それによって生じたトラブル……と結論付けました。そしてベッテルの件は、偏摩耗から来るもので、走行距離が多すぎたのだ……としています。
 百歩譲ってロズベルグの件はそうだったとしても、ベッテルの原因についてはやや疑問が残ります。他の走行タイヤを調べる前に“走行距離が多かったからだ”としている点と、“2013年にプライムはレース距離の50%、オプションは30%を最大走行距離と提案した”と言っている点です。

 前者に関しては、こういったトラブルがあった時にはきちんとした詳細な調査をしてから結論付けるべきでしょうし、後者に関しては、コンパウンドの摩耗耐久性と構造の耐久性とを混同しているように見えてしまうからなのです。と言うのも、ベッテルのタイヤにクリフが訪れていたとは見えないからです。下のグラフは、今回トラブルを起こしたベッテルのタイヤのラップタイム(赤い線)とセルジオ・ペレス(フォース・インディア)の第1スティントのラップタイム(青い線)のグラフです。ベッテルのタイヤは、ペレスのような大きなクリフ(青い矢印)を迎えていたわけではないのが見て取れるでしょう。



 タイヤ1セットで予選と決勝を走らなくてはならないというルールだった2005年の時の経験ではありますが、構造の耐久性はレースの安全性を高めるためにことのほか重要な事項であることを、ピレリにはもっと認識してもらいたいと思います。
 と言うことで、今回はピレリのポール・ヘンベリー氏に、五段階評価で1を進呈したいと思います。
「タイヤは命を乗せている」。タイヤトラブルにもっと真摯に向き合って、トラブル撲滅に邁進してもらいたいと思います。今のような言い訳を繰り返せば、ベッテルが怒るのも無理はないのではないですか、ヘンベリーさん。タイヤへの入力が特に厳しい、モンツァ、鈴鹿、そして未体験のメキシコが待っているのですから。

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