【】浜島裕英のF1人事査定 第十一回査定:ロズベルグを苦しめる“ハミルトンの呪縛”

7月29日


第十一回査定:ロズベルグを苦しめる“ハミルトンの呪縛”
こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

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 ハンガリーGP。夏休み前のこの一戦を迎えたドライバーたちの心中は、複雑であったろう。皆様もご存じのように、このグランプリの前の週の7月17日、昨年の日本GPで重傷を負ったジュール・ビアンキ選手(元マルシャ)が帰らぬ人となったからだ。安全対策の重要性が再認識された出来事であった。マラネロのファクトリーで会うたびに、「ハミー、ステファノ(ドメニカリ:元スクーデリア・フェラーリ チーム・プリンシパル)に、僕の速さをアピールしといてね!」と人懐っこい笑顔で話しかけられたのが、彼との大切な思い出です。ご冥福を祈ります。

 そんな中、2017年からのタイヤサプライヤーとして、ピレリとミシュランが候補に名乗り出て、両社ともにホイールの大径化を希望している、という話が伝わってきます。その大きな理由は、現行のF1タイヤのホイールが13インチであり、一般乗用車ではほとんどと言っていいほど、使われていないサイズだからでしょう。

 しかし、もちろんタイヤの大きさの新レギュレーション次第ですが、今後も現行ルールと同じと仮定すると、大径化によってホイールの重量は明らかに上昇します。また、タイヤの重量もビード・ワイヤーの重量が増すはずなので、サイドウォール部分の重さが減ったとしても、微増することになると考えられます。

 タイヤのエアボリューム(空気容量)も減少するので、耐久面を考えればタイヤの空気圧も上げる必要が出てくるはず。こうなると、万が一タイヤがクルマから外れて何かに当たった場合には、その衝撃が増大することになりますので、クルマに繋ぎ止めておくテザーの強度アップが必要となり、タイヤ交換に関わるメカニックたちへの肉体的な負担も増えることになります。この辺りも考慮すべきでしょう。いずれにしても、安全上の対策をきちんと立ててから、タイヤサイズの決定をして欲しいものです。

 さてレースの方は、予選までの流れから考えて、メルセデスAMG、特にルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)の圧勝かと思われていましたが、フェラーリのセバスチャン・ベッテルが優勝し、これにレッドブルのダニール・クビアト(2位)とダニエル・リカルド(3位)が続き、メルセデス勢が存在しない久々の表彰台という、大番狂わせが起きた一戦でした。

 この結果の主要因は、もちろんメルセデスAMG勢のスタートの悪さにありました。ハミルトンが良いスタートを切っていれば、まず間違いなく優勝は彼の手中にあったことでしょう。しかしフェラーリ2台に先行され、僚友であり最大のライバルである、ニコ・ロズベルグにも前を塞がれたことで、大波乱の幕開けとなったのでした。ベッテルのスタートも素晴らしかったですが、キミ・ライコネン(フェラーリ)のスタート、そして1コーナーからのメルセデスAMG2台との攻防も、流石ベテランと思わせる、見応えのあるものでしたね。

「今回はフェラーリの1-2になるのかな」、と思い始めたレース中盤も過ぎた42周目。ストレートエンドでニコ・ヒュルケンべルグ(フォース・インディア)のフロントウイングが脱落し、そのまま真っ直ぐにタイヤバリアにクラッシュ。破片が1コーナー手前に散乱し、即座にバーチャル・セーフティカー(VSC)状態となりました。すると各車一斉にピットインしてタイヤ交換。その後、清掃作業のためにセーフティカー(SC)が導入されました。

 ここで、ロズベルグが選択したのは、ミディアムタイヤ。ロズベルグは、スタートでソフトを使い、第2スティントでミディアムタイヤを消化していたので、タイヤ選択は自由な状態でした。普通に考えれば、クラッシュの状況から見ればSCが導入されるのは明らかで、そうなれば上位とのギャップはなくなり、前を行くフェラーリ勢を仕留める千戴一遇のチャンスが訪れることになる、と判断するでしょう。しかし、ここで彼(ロズベルグ)が一番に考えたのは、自分の直後にまで順位を上げてきたハミルトンの前でフィニッシュすることであり、優勝ではなかったと推察されるのです。彼の心の中は、恐らく、『ハミルトンと同じ条件で残り周回数を走れば、ポジションを確保でき、チャンピオンシップポイントを詰めることができる。残り周回数はまだ26周もある。ソフトを履いたら、レース終盤にミディアム装着のハミルトンに攻めたてられ、逆転されるかもしれない』ということだったのでしょう。

 一方のハミルトンはスタートで出遅れ、追い上げるために、スタートでソフト、第2スティントでもソフトを選択していたので、最後のスティントではミディアムをチョイスするしかなかった。そしてレース再開。ロズベルグはベッテルの背後まで迫るのですが、DRSゾーンに入ることができません。ベッテルを攻めあぐねているうちに、ソフトで活き活きと走るリカルドに追い付かれ、彼の攻撃に遭い、ついには1コーナー出口で接触して左リアタイヤをパンクさせてしまったのでした。万事休すです。

「…だっタラ」、「…レバ」はレースの世界にはないのだけれど、あの時“速く走る事”そして “優勝”を目指してソフトタイヤを選択していれば、ミディアムで必死に逃げるベッテルを攻略できただろうし、リカルドに攻めたてられることもなかった、と考えられます。

 私は約30年にわたり、何十回もこういう状況を見て来ました。そして、自信をもってこう言うことができます。

「守りに入った途端、勝負に見放される」

 この夏休みの時間を使って、ロズベルグには、自分が何をすべきか、しっかりと見据えてもらいたいものです。

 と言うことで、今回はメルセデスAMGのドライバー、ニコ・ロズベルグ氏に、5段階評価で1を進呈したいと思います。トップレーサーとして後半戦、ハミルトンと渡り合ってもらいたいものです。“ハミルトンの呪縛”から解き放たれない限り、ロズベルグがチャンピオンに輝くことは決してないでしょう。

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 そういえば、トト・ウォルフ氏(メルセデスAMGのCEO)が、「ロズベルグのピットイン時にソフトが用意できていなかったから、ミディアムで行ったのだ」というような発言をされたようですが、もし本当なら、トップチームとしてあるまじきオペレーションですね。しかし、ピットイン直前の無線の交信では、ピットウォールはロズベルグに「ソフトを着けさせたい」と言っていたようです。ウォルフ氏が本当にこのように発言したとするなら、事実とは反するはずで、メカニックやエンジニアに対して大変失礼なことだと思います。

(浜島裕英)