【】ドライバーアシストが禁止されると、スタートはどうなる?

7月19日

xpb

 後半戦のベルギーGPから無線によるドライバーへのアドバイスが全面的に規制されることとなり、スタート手順も全てドライバーが自身で行なわなければならなくなり、波乱の要素が増えるのではないかと言われています。では、自動化されていると言われている現在スタートではドライバーは全く操作を行なっていないのかといえば、そうではありません。

 まずドライバーは決勝のスターティンググリッドに向かう際にピット出口でスタート練習を行ないますが、これはドライバーだけでなくエンジニアにとっての練習でもあります。前もってバイトポイントファインダーという機能を作動させて、クラッチがどのように繋がるかをセンサーで測定します。カーボン製のクラッチは摩耗と熱膨張によって常に厚みが変化するため、クラッチがつながるタイミングが微妙に変化します。

 それに合わせて最適な“半クラッチ”状態を作り出すことのできるクラッチマップを用意するのが、エンジニアの仕事です。クラッチマップとは、ステアリング裏のクラッチパドルの操作に対して、実際のクラッチをどのように動かしつなぐかを記録したもので、トルクマップと呼ぶチームもあります。

 グリッドに向かう前にピットレーンをスルーして1〜2回のスタート練習を行ない、ドライバーはクラッチのつながり具合とホイールスピンの具合がどうだったかをエンジニアに報告し、それを元にエンジニアはおおよその目星を付けてクラッチマップを何種類かに絞り込んでおきます。なお、ステアリング上の1つのロータリースイッチには12種類のパラメータを割り当てることができるので、クラッチマップのロータリースイッチには最大で12種類まで保存しておくことができますが、通常はスタート用のマップはこの時点で数種類まで絞り込まれているそうです。

 そして決勝直前のフォーメーションラップの際にもスタート練習を行ない、実際にスタートするその場所の路面のグリップレベルを測定するとともに、最終的なクラッチマップの絞り込み作業に入ります。フォーメーションラップの終盤には再びバイトポイントファインダーを作動させて最終的なクラッチの状態も測定した上で、スタート本番で使用するクラッチマップを決定。先ほど測定したタイヤと路面のコンディションを元に、グリッドに向かう直前にドライバーに対してタイヤをウォームアップさせるためのバーンアウトの回数とクラッチマップの選択が指示されます。

 ドライバーはレッドシグナルが灯り始めたらクラッチパドルを引いてクラッチを切った状態で1速に入れ、スロットルペダルを踏み込んでエンジンを指定された回転数に合わせます。この時、片方のパドルは100%、もう片方は半分だけ引いておいて、シグナルが消えた瞬間に100%引いていた方のパドルを離すと半分だけ引いていた方だけが残り、このパドル量に対して最適な半クラッチ状態になるようにクラッチマップが設定されているというわけです。
 これを“フェイズ1”と呼ぶチームもあります。ドライバーは数秒間この状態で発進加速をして、クラッチを完全に繋げても大丈夫だと感じたらもう片方のパドルも離すと同時にスロットルを全開に踏み込みます。これが“フェイズ2”。

 さて、スタートの裏側ではこれだけの作業が行なわれているのですが、クラッチマップの選択指定が禁止されたら、スタートでドライバーの腕の差が出たり荒れたりするのでしょうか? それとも何も変わらないでしょうか? パドックでは懐疑的な見方が多いようで、結局のところ優れたチームはなんらかのかたちで事前の準備を上手くやるだろうと見られているようです。