【】浜島裕英のF1人事査定
第八回査定「痛恨のスピン」

6月11日


こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

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 カナダGP。速度が高い上、コンクリートの壁が迫るこのレースでは、クラッシュによるリタイアがつきものだったが、今年は珍しくそういった事故がなかった。

 さて、モナコGPでのあまりにも惨い敗戦から、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンがどのように立ち直るのかが注目されたが、カナダGPでも彼には追い打ちをかけるようにトラブルや不運がFP3まで降りかかった。
 しかし予選では、しっかりとポールポジションを奪い、レースでもスタートから集中して、1周目終了時点で2番手の僚友ニコ・ロズベルグに対して1.030秒、2周目1.313秒、3周目1.716秒の差をつけ、ギャップ1.0秒以内でのDRS使用を封じた。ここカナダでは、ヘアピン後のストレート、そしてメインストレートでのDRS使用は非常に効果的なので、ハミルトンが序盤にロズベルグに対して差を築いたのは、レース戦略上きわめて有効であったと言える。

 しかも、第1スティント24周終了時点でロズベルグに対して4.484秒まで開いた差を、第2スティントでは概ね1.2秒程度にコントロールしていた。ハミルトンは燃料やブレーキに非常にきついこのサーキットで、クルマを非常に労わっていたと思われる。最も接近された52周目でも、1.022秒差であったのは見事としか言いようがない。

 ロズベルグはレース後のコメントで、「作戦がハミルトンに筒抜けで、奇襲することができなかった」などと言っていたが、ハミルトンがミラーで後方を入念にチェックしていたのに気付かなかったのだろうか? 彼にはとにかく、スペインGPの時のように、クルマを速く走らせることに集中してもらいたいものだ。

 今回のレースでは、ウイリアムズのフェリッペ・マッサとフェラーリのセバスチャン・ベッテルにパワーユニットのトラブルが発生し、Q1敗退という番狂わせがあった。もっともそのお陰で、マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソはQ2進出が果たせたわけだが……。

 それはともかくとして、決勝でのラップタイム推移をみると、彼らは上位で戦えただけに残念な結果だった。特にベッテルは、ハミルトンをも苦しめることができるタイムを刻んでいたので、小さなトラブルがいかに大きな代償を払うのか、ということを思い知らされた、よい例だろう。

 ところでフェラーリ勢は、昨年に比べれば燃費も良くなり、最高速も出て、抜かれるシーンを見ることはなかった。しかし、そこそこ速いウイリアムズやフォース・インディアのクルマを抜くためのポテンシャルが低いように見えた。DRSのディテクション・ラインからヘアピン進入までは、テール・トゥ・ノーズなのだが、ヘアピンを立ち上がってDRSを使用できる領域に達するまでに引き離されてしまい、DRSを使用してもなかなか追い越せない……という場面を目にした。

 以下に示すのは、キミ・ライコネン(フェラーリ)とバルテリ・ボッタス(ウイリアムズ)のヘアピンを立ち上がってからのストレートエンドにあるスピードトラップの最高速度とフィニッシュラインの速度、そして両者の速度差を示したデータだ。ちょっと乱暴ではあるが、この比較データを基に、考察を加えてみた。

QFQFRaceRace
Speed TrapFinish lineSpeed TrapFinish line
RAI335.4299.1326.8283.9
BOT337.7301.7329.5290.4
BOT-RAI2.32.62.76.5
RAI:ライコネン
BOT:ボッタス

 スピードトラップでの速度差は、予選で2.3km/h、決勝でも2.7 km/hと大きな差はない。しかし、フィニッシュラインでの速度差は、2.6km/hから6.5 km/hへと大きく拡大している。これは、ライコネンの加速が決勝時には悪くなっていたことを示唆しているのではなかろうか? しかも、3位確実と見られたライコネンは、ピットアウト直後のヘアピンでスピンを喫し、翌周にピットインしたボッタスにかわされてしまって4位に転落。初戦から続いていたフェラーリ勢の連続表彰台獲得記録が途切れることになってしまった。名手ライコネンは、なぜあそこでスピンしてしまったのだろうか?