【】浜島裕英のF1人事査定
第六回査定「アップデート」

5月13日


こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

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 スペインGP。ニコ・ロズベルグがルイス・ハミルトンを抑えて、ポール・トゥ・フィニッシュで今季初優勝。ハミルトンはというと、フロントロウ2番グリッドだったものの、スタートでホイールスピンを起こしてフェラーリのセバスチャン・ベッテルに抜かれ、前半3位での走行を強いられた。思い切って、3ストップに切り替えたり、第3スティントで猛烈な走りを披露したり、ベッテルをピット戦略でかわしたりして2位となったが、ロズベルグに追いつくには時すでに遅し、の状況だった。

 気になったのはフェラーリの2台だ。ベッテルは、新パーツを装着して走行したものの、タイヤのデグラデーションはメルセデス対比で劣り、しかもハードタイヤ装着時にはメルセデスに全く歯が立たない状況。一方のキミ・ライコネンは、古いパーツを使用したものの予選で精彩を欠き、スタートで順位を上げたが、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスを最後まで抜くことが出来ず、5位で終わった。

 3週間のインターバルを置いての開催となったヨーロッパ・ラウンドの幕開けスペインGPには、各チームがいろいろなアップデートのパーツを投入してくる。アップデートと聞くと、なんだかクルマが改善されて、速くなるイメージを持つ方が多いだろうが、なかなかそうはいかないのが現実だ。

 例えば、コンピュータ・シミュレーション上や風洞実験ではダウンフォースが増え、ラップタイムが向上する結果となっている新パーツを投入したとしよう。しかし、フリープラクティスで実車に装着してみると、期待された効果が得られなかったり、ドライバーのフィーリングが悪かったりすることが多いのだ。

 今回のフェラーリ、ライコネンが古いパーツに戻したのは、フィーリングが悪かったことが原因で、タイム的なアドバンテージが得られないと判断した、と考えて、ほぼ間違いないだろう。

 やはり、実車の走行条件というものは、数値で表すことが出来ない部分がまだまだ多いのだ。計算上は一定に設定されているが、温度や風向きなど微妙に変化するし、加速時、減速時、コーナリング時には、クルマの動きやタイヤの変形は非常に複雑なものとなっている。だからこそ、実車でテストをして、風洞などの結果と実車との相関性を地道に採り、蓄積する作業が非常に重要になるわけだ。

 ここでちょっと、アップデートに関する比較を、大胆にラップタイムで見てみよう。下のグラフは、フェラーリとウイリアムズの予選タイムが、対メルセデスでどれくらいの位置にあるかを開幕戦から表したものだ。マレーシアの予選は、雨がらみだったので省いてある。縦軸は、メルセデスの予選でのベストタイムから各チームの予選でのベストタイムを差し引いた値だ。

 ゼロに近づけば、競争力が接近していることになる。フェラーリは、対メルセデスでバーレーンまでは急速に近づいたが、スペインでは離されているようだ。また同様に、ウイリアムズも、フェラーリほどではないにしても、バーレーンに向かってメルセデスに接近したが、スペインでは引き離されている。

■フェラーリ&ウイリアムズの予選タイム 対メルセデス比較

■フェラーリ&ウイリアムズ ファステスト・ラップタイム比較


 次は上のグラフだが、同じようにして、レース中のファステスト・ラップタイムで見てみた。予選同様、今回のスペインでは、両チームとも引き離されているようだ。

 これらふたつのグラフから、メルセデスのアップデートが他の2チームより相対的に上手くいった、ということが出来そうであり、しかもフェラーリに至っては、ウイリアムズの接近を許してしまった、ということを示している。まぁ、かなり乱暴な見方ではあるが、大きくは間違っていないだろう。

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 さて、今回の査定の対象は、ザウバーだ。シーズン初め、契約問題でゴタゴタしていたところは、新人のフェリペ・ナッセやマーカス・エリクソンがオーストラリアと中国で、素晴らしい走りを見せ、得点をゲットする活躍に免じて目を瞑るとしても、ここにきての完全な失速状態は、「情けない」、の一言だ。しかもこの、凋落していくパターンは、毎年のように繰り返されていることが明白。勿論、資金が潤沢でないチームの運営が非常に大変なことはわかるのだが、そこをなんとかするのがマネージメントだろう。

 中堅チームが上位チームと同じようなスケジュールでアップデートを投入していたら、ただでさえ少ない資金が薄まり、効果が出ないだろう。得手、不得手のサーキットを分析し、得意なサーキットに対して集中的にアップデートのための投資をするとか、効果の大きなパーツに絞って開発を進めるといった、これまでにない大胆な発想転換が必要なように思う。今回のフェラーリのように大きなアップデートを入れ、失敗する余裕など、今のザウバーにはないのだ。

 スペインGPでここまで順位を沈没させてしまったザウバーのチーム代表モニシャ・カルテンボーンさんに、このことを評価して五段階評価で2を差し上げたいと思う。ルノーのパワーユニットが息を吹き返して、トロロッソなどが迫ってくる前に手を打ってほしいものである。