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第五回 ライコネン運命の第2スティント

4月23日


こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。

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 バーレーンGP。昨年からトワイライトレースと称して日没直前のレーススタートとなった。日中とは違い、気温が大幅に下がることで、サーキットにお越しになるお客様、そしてオペレーションする人たちにとっても、このこと自体は肉体的にありがたいものなのだ。

 思い起こせば、この地でレースが開催されることになった2004年、ブリヂストンのエンジニアだった私は、パドックを歩いている時に、ヘアドライヤーの空気を直接吸い込んだ時のように、肺がパリパリに乾きそうになった(個人の感想です)。

 しかし一方で、この時間帯のスタートは、チームのレース戦略策定部隊にとっては悩ましいものとなるのだ。何故か。その原因は実は、ピレリがここバーレーンに持ち込んだスペック、ソフトとミディアムのコンパウンドの作動温度領域の設定の違いである。

 タイヤメーカーがレースに2種類のタイヤを持ち込む場合、その設定は使い勝手の観点から、

・タイヤの作動温度領域は同一で、柔らかいものと硬いもの
・柔らかいものの作動温度領域を低くし、硬いものは、それよりも高く

 というのが一般的だ。こうすれば、暑かったり、摩耗が厳しかったりすれば、硬い側がその性能を発揮し易くなるので、選択する基準が至って単純になる。

 ところが、ピレリの設定は、ソフト(柔らかいもの)は作動温度領域が高く、ミディアム(硬いもの)は作動温度領域が低く設定されている(うーん、イタリアン・フィロソフィか!!!)。こうなると、温度が急激に低下していくこのレースでは、ソフトでスタートすることは、予選Q2ベストタイム計測時のタイヤをスタートでも使わなければならないという制約がなくても、当たり前のこととなる。

 しかし、頭を悩ますのは、次のスティントをどうするか。第1スティント終盤に、第2スティントでミディアムが作動するほど温度が低下しているか、その見極めが重要になるからなのだ。昨年のレース終盤では、ハミルトンとロズベルグが異なるスペックを装着し、熾烈な戦いを演じていたのをご記憶の方も多いだろう。

 ここを思い切ってミディアムにしたのが、今回のキミ・ライコネンのレース戦略では大きかった。ミディアムタイヤで良いラップタイムを刻んでメルセデスAMG勢に食いついて行き、これが功を奏して、ソフトタイヤに交換した後のレース終盤にロズベルグを捉え、ハミルトンの後方に迫る2位表彰台を獲得することが出来たのだ。
 ただ、結果論ではあるが、レース中にもうひとつの決断をしていれば、ハミルトンの優勝をも脅かすことが出来たのではないだろうかと、私は思っている。

 ここで、ライコネンの第1スティントのラップタイムを検証してみよう。

■ライコネンの第一スティント

LAP TIME
1:スタート
2:1'39.882
3:1'39.852
4:1'42.277
5:1'40.262
・・・
・・・
15:1'40.973
16:1'40.898
17:ピットイン


 上記のラップタイムの表から判るとおり、ライコネンの第1スティントのタイヤは、レースで17周し、前日の予選での3周を加えると全部で20周しているわけだ。第1スティント終盤16周目のタイムは、スタート直後のラップタイムからは約1秒タイムが悪くなっているものの、5周目と比べれば約0.6秒の落ちであり、いわゆるクリフ(「崖」の意味:タイヤの性能が大幅に低下し、ラップタイムが急激に悪化する状況)を迎えてはいない。
 ということは、ソフトのタイヤのライフは、少なくとも20周はあると見ることができる。もし、後半のスティントで再びソフトを履くならば、新品タイヤでレース終盤の燃料が軽くなったクルマであることも考慮すると、ライフはもう数ラップ伸びると考えられる。