【】浜島裕英のF1人事査定
第四回査定「敗北直後の華麗なる“転身”」

4月15日

こちらのコラムはF1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムです。


 第3戦中国GP。例によって、メルセデスAMG勢の一発のラップタイムの良さはここ2戦と変わることなく、特にルイス・ハミルトンは図抜けた速さを示していた。しかし、フリー走行2回目のロングランでは、フェラーリ勢のデグラデーションがメルセデスAMG勢よりもほんの少し良く、しかも20周以上の連続走行を行い、しっかりとロングランをこなしていた。これに対しメルセデスAMGのハミルトンはソフトタイヤでのクリフ(急激なデグラデーション)を訴えており、再びフェラーリに勝利のチャンス到来かとまで想像してしまうという初日だった。

 メルセデスAMG勢とフェラーリのデグラデーションについつい目が行ってしまっていた、その最中におやっと思うことが起きた。それは、メルセデスAMGのふたりのドライバーのロングラン時のタイヤが異なっている、すなわちハミルトンがソフト、ニコ・ロズベルグがミディアムだったのだ。

 私の記憶が正しければ、昨年来彼らふたりはいつも同じプログラムで動き、ソフト側のタイヤだけを基本的にロングランしていた。言いかえれば、ピレリが投入してきたソフト側のタイヤ(今回の場合であればソフト)だけをふたりのドライバーで確認して、最初のスティントの長さをこのデータに基づいて計算し、ハード側(今回の場合であればミディアム)についてはピレリのデータなどを基にして、ピットストップの戦略を構築していたと想像される。それが出来たのも、彼らが他チームに対して、常に優位に立っていたからなのだ。

 ところが、あのマレーシアGPでの敗北を受けて、彼らは自分たちの行動を大幅に見直したと思われる。両方のタイヤのデータをロングランによってきちんと採取し、戦略策定にそのデータを活かすように変えたのであろう。

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 そしてその行動様式の変更は、さらにレース中にも起きた。彼らの場合、通常レース中のピットインに関しては、前を行くドライバーを優先してピットに入れていたのだが、3番手を走っていたフェラーリのセバスチャン・ベッテルが、30周目にロズベルグに対してアンダーカットを狙ってタイヤ交換に入ると、その動きをカバーすべく、2番手を走行していたロズベルグを即座にピットに入れ、フェラーリの動きを封じる作戦に出たのだった。
 ハミルトンがピットに入ったのは、この後のことである。その結果、メルセデスAMGによるワンツーフィニッシュが、開幕戦に続いて再び達成されたのだ。

 特に昨年、メルセデスAMG勢は他のチームに比べて突出した性能を誇っていたため、前述したとおり、ふたりのドライバーに対して同じ作業をさせ、かつ固定した戦略でレースに臨む事が出来たのだが、前回のレースでフェラーリが肉薄してきたことにより、それが叶わぬことになったようだ。敗因をしっかりと分析し、従来の方針をかなぐり捨て、何としてもレースに勝つ、という方向へと素早く転換したのだろう。
 これが今回の圧勝につながったわけで、メルセデスAMGチームCEOのトト・ウォルフ氏にこの変わり身の早さを評価して、五段階評価で四を差し上げたい。本来ならば五を差し上げたいくらいの高評価である。

 戦略面の変更により、ふたりのドライバーを同等に扱うことが難しくなり、今後のドライバー間の確執に関する調整が大変になることが容易に推察されるが、それを覚悟の上でのこの決断。チーム運営としては大切なことである。流石だ。