【】浜島裕英のF1人事査定
第三回査定「コミュニケーション」

4月1日

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 第2戦マレーシアGP。フリープラクティス2のロングランが行われた後、フェラーリのタイヤのデグラデーションが、オーストラリアGP同様、メルセデスAMGを含む他チーム対比で小さく、しかもタイヤの“もち”も良いことが分かりました。しかしそれでも、一発の速さでは、メルセデスAMG勢が優位に立っていたのは事実なのです。

 このデグラデーションの差は、何から来るのでしょうか。皆さんは、“閾値(しきいち)”という言葉をご存知でしょうか? 大辞林によれば、「一般に反応その他の現象を起こさせるために加えなければならない最小のエネルギーの値」とあります。

 例えば、新品の消しゴムを思い浮かべてください。あなたがこれを曲げたり戻したりした、としましょう。小さな曲げ(変形)、すなわち小さな力(入力)の時には、消しゴムは元に戻って、何事も無かったかのように新品のままですよね? ところが、ある一定値以上の変形、すなわち大きな力(入力)で曲げると、ヒビが入り始めます。このヒビが出始める入力の値が、消しゴムを破壊する“閾値”なわけです。

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 レースタイヤにも同じことが当てはまる部分があります。タイヤへの入力、例えば、トレッドコンパウンドを変形させる力が、メルセデスAMGとフェラーリで微妙に違っていて、メルセデスAMGの方が少し大きかったとしましょう。分かりやすくするために、例えば、メルセデスAMGが100の入力でフェラーリが90だとします。
 今回のレースで使った、ハードのコンパウンドが、劣化していく閾値が99で、ミディアムが91だったと仮定しましょう。すると、メルセデスAMGの場合、ハードでもミディアムでも、入力が閾値を超えているため、劣化していってしまうわけです。勿論、閾値を大きく超えたミディアムの方の劣化がハードよりも大きくなることは容易に想像できますよね?
 一方のフェラーリはどうでしょう。ハードでもミディアムでも、その閾値を超えることはありません。したがってフェラーリには、コンパウンドの劣化(デグラデーション)が起きないことになるわけです。今回のレースでは、この差を上手く活かしたフェラーリのセバスチャン・ベッテルが優勝できたのだろうと考えられます。

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 チームメイトのキミ・ライコネンに関しては残念ながら、昨年からの不運が続いていますねぇ〜。第1戦では、1回目のピットインで左リヤタイヤの装着時間に手間取り、2回目には同ポジションの装着不備でリタイア。今回は、今にも雨が降って来そうな状況下でのQ2開始に対し、ベッテルが先頭でコース出口に並んでフロントロウを得たのに対し、ライコネンの方は、何らかの理由でやや出遅れ、中段グループと走ったためにトラフィックと計測ラップの最終コーナーで雨にたたられ、Q3進出ならず……という結果になってしまいました。
 このグリッド順位が遠因となり、レーススタート直後の最終コーナー出口でザウバーのフェリペ・ナッセにフロントウイングを、またしても左リヤタイヤに当てられ、タイヤがパンク。結果、最後尾から追い上げる羽目になりました。今回はウイリアムズやレッドブルなど他チームがタイヤのデグラデーションに苦しんだ結果も大いに寄与し、幸運にも4位となったものの、3位から41秒遅れでした。

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 さて、昨年11月からフェラーリのチーム代表に就いた、マウリッツィオ・アリバベーネさんは、昨シーズンまではチームのビッグスポンサーである、フィリップモリス(タバコブランドのマルボロ等の販売元)の役員として、フェラーリと関わって来た方なのです。いつもダンディーな出で立ちで、レースを整った環境で“ご覧になる”立場の人だったのですね、実は。

 彼の名字のスペルは、Arrivabene。イタリア語で、arriva beneを直訳すれば、なんと「よく(bene)なる(arriva)」ですから、お名前の威力でしょうか、新生フェラーリを開幕戦第3位表彰台、そして第2戦では早くも優勝に導きました。

 それはさておき、彼は今シーズン、チーム代表としてガレージ内外でレースを“戦う”環境下で、チームのエンジニアだけではなく、メカニックの面々とも、事あるごとによくコミュニケーションを取っています。あの暑くて湿度の高いセパンでさえ、積極的に動き回って、チームの統制を図っている姿を見かけました(言いたくはありませんが、前任の代表にはこういった行動が一切なかったのですね)。

 チーム代表が、事あるごとに事情を聞きに来てくれる。担当としてはギョッとする場合もあり大変かもしれませんが、チームのトップが本気で状況を把握しチームを復活させようとしている姿勢というものは、ひしひしと確実にチームメンバー全員に伝わります。この努力が実っての今回の結果だと思いますので、このフェラーリのマウリッツィオ・アリバベーネ、チーム代表に五段階評価で四を差し上げたいと思います。

 一段階低くしたのは、ライコネンにトラブルが続いたためです。

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 ライコネンの方もよろしくお願いしますよ、新代表!