【】浜島裕英のF1人事査定
第二回査定:運命のラップ21
3月18日
2014年チャンピオンのルイス・ハミルトンが優勝、僚友のニコ・ロズベルグが2位となり、予想通りメルセデスAMG勢のワンツーで終わった、2015年F1開幕オーストラリアGP。改善著しいフェラーリとウイリアムズ間の熾烈な3位争い、そして新人ドライバーの頑張りも注目を集めました。マクラーレン・ホンダに関しては、レースが出来る状況とは言い難く、長い目で見る必要がありそうです。
表彰台を争ったフェラーリとウイリアムズですが、両チームともに課題を抱えているように思えます。フェラーリに関して言えば、キミ・ライコネンに起きたピットストップでのトラブル。今回は左リヤホイールのナットの問題でしたが、昨年にもジャッキが故障するというミスを起こしています。
フェラーリはピットストップ作業全体の抜本的な改善をしないと、折角良くなってきたパワーユニットやマシンのハンドリングを活かせないことになってしまうでしょう。
一方のウイリアムズは、昨年も理解し難い作戦を披露したりしましたが、今回のレースではピットストップのタイミングを間違えて、フェリペ・マッサの3位表彰台を失ったのは明らかだと思います。
マッサがピットインする1周前の20周目、上位争いの状況はこうでした。メルセデスAMGの2台が3番手以下の車を10秒以上引き離す中、マッサ3番手、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が4番手でマッサの約1.5秒後ろを走行していたのです。その後ろ約14秒離れてルーキーのフェリペ・ナスル(ザウバー)が5番手、さらに4秒後方、すなわちマッサから20秒遅れてダニエル・リカルド(レッドブル)が走っていました(下表のマッサからのギャップを参照してください)。
ピットインに要する時間は、トラブルを起こしたライコネンは27.5秒掛かかりましたが、通常であればここメルボルンでは、タイヤ交換の停止時間約3秒を含め、合計23秒弱といったところでした。これが意味することは、ピットインしてタイヤを交換すると、それまで23秒後方にいたクルマの所でコースに復帰するということです。ではここで、マッサがピットインした21周目前後の、マッサ、ベッテルそしてリカルドとのラップタイムとギャップを下表で検証してみましょう。
Laps | F.マッサ | S.ベッテル | D.リカルド |
---|---|---|---|
16 | Gap:― (3位) Time:1'33.247 | Gap:+1.589 (4位) Time:1'33.173 | Gap:+13.236 (6位) Time:1'34.082 |
17 | Gap:― (3位) Time:1'33.159 | Gap:+1.659 (4位) Time:1'33.229 | Gap:+14.347 (6位) Time:1'34.340 |
18 | Gap:― (3位) Time:1'33.245 | Gap:+1.560 (4位) Time:1'33.146 | Gap:+16.164 (6位) Time:1'34.963 |
19 | Gap:― (3位) Time:1'33.195 | Gap:+1.533 (4位) Time:1'33.168 | Gap:+17.452 (6位) Time:1'34.456 |
20 | Gap:― (3位) Time:1'33.141 | Gap:+1.537 (4位) Time:1'33.145 | Gap:+18.595 (6位) Time:1'34.288 |
21 | PIT (5位) Time:1'51.561 | Gap:― 順位↑ (3位) Time:1'32.859 | Gap:+20.424 (6位) Time:1'34.688 |
22 | Gap:+23.805 (6位) Time:1'38.947 | Gap:― (3位) Time:1'32.307 | Gap:+22.766 順位↑ (5位) Time:1'34.649 |
23 | Gap:+25.696 順位↑ (5位) Time:1'34.555 | Gap:― (3位) Time:1'32.664 | PIT (10位) Time:1'53.800 |
24 | Gap:― (5位) Time:1'32.072 | PIT (3位) Time:1'51.263 | Gap:+25.945 (9位) Time:1'39.811 |
25 | Gap:+1.004 (5位) Time:1'33.042 | Gap:― (4位) Time:1'38.543 | Gap:+27.743 (10位) Time:1'33.836 |
ご覧の通り、ピットイン前のマッサは、リカルドを1周あたり約1.2秒ずつ引き離していることがわかります。しかし、20周目時点のギャップはまだ20.1秒。21周目にピットに入らず、そのまま走っていたとしてもギャップは21.3秒程度に広がるだけであり、ピットインしてリカルドの前で戻るには、まだ1秒ほど足りないのです。
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マッサは何故ここでピットインしてしまったのでしょうか? 結果として、タイヤ交換を終えたマッサはリカルドの後ろでコースに戻ってしまい、せっかくの新品ミディアムタイヤでペースを上げることが出来ませんでした(22周目、23周目)。タイヤ交換をあと2〜3周待てば、確実にリカルドの前に戻れたはずなのにです。
一方のベッテルは、マッサがピットインすると、マッサとの差1.5秒を埋めるべく、しかも前が開けたことで、ピッチを上げています(1分33秒台→1分32秒台)。しかし本来ならば、それでもマッサのアンダーカットを防ぐことはできなかったと思います。というのは、マッサはリカルドがピットインし前が開けた時に、1分32.072秒を刻んでいるからです。このタイムは、ベッテルがペースを上げた時のタイムよりも約0.3秒(22周目のベッテルと、24周目のマッサのタイム比較)速いモノ。マッサがリカルドに引っかからなければ、ベッテルはマッサの前には出られなかったということになります。
恐らくウイリアムズ陣営は、ベッテルにアンダーカットされることを恐れたのでしょう。しかし、少なくとも22周目までは、ベッテルがアンダーカットを狙ってマッサよりも先にピットインしたとしても、リカルドの後ろにつく羽目になったはずで、焦る必要などなかった。したがって、この作戦は大失敗と言わざるを得ません。
このようなミスの要因として考えられるのは、前述しましたが、ベッテルのアンダーカットを極度に恐れていたということ。そして、リカルドの後方約23秒にいたライコネンが追い上げていたため、それをターゲットと考えたリカルドが、ライコネンよりも前に出るためにピットインすると判断した、と考えられます。
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リカルドのタイヤには、デグラデーションの傾向も見てとれました。しかし、ライコネンはその時点ではソフトタイヤを履いていたので、少なくとももう一度はピットインしなくてはならなかったのですが……。このように、ウイリアムズがリカルドの動向を読み間違ったということが考えられると思います。
ということで、ウイリアムズの戦略担当者(ストラテジスト)に対し、五段階評価で1を差し上げたいと思います。今後の奮闘に期待したいと思います。
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