【】新連載「FACES」第1回:ジュール・ビアンキ

8月4日

「ミハエルはカートで走るのが大好きだったから。モナコGPの前で、きっとブリニョルから遠くないところにいたんだと思う。それで近くに走れるコースがないか探して、たまたま両親のカートコースに来たんだと思うよ。予約だとか、入っていたわけじゃなかったから」

 父フィリップさん、母クリスチーヌさんにとっても、それは大きなサプライズ。カートレースを始めたばかりの息子にとって、ミハエル・シューマッハーは最も尊敬する憧れのドライバーだったから──小学生のジュールは、まだF1を夢見ることすら知らない、純粋にカートを楽しむ少年だった。それでも「最初からずっと」シューマッハーのファンだった。

「なぜかって言うと、単純に、完璧なドライバーだったから。すべてにおいて最大限を尽くす、お手本のような存在だった」

 そんなヒーローが、我が家のコースに舞い降りた。少し離れたところからすべての神経を集中してチャンピオンを見守り、それから自分のカートを探しに行き、控え目に一緒に走り始めた小さなビアンキの姿が目に浮かぶ。シューマッハーは、とても優しかった。サインも貰った──。

 そんな微笑ましいエピソードのなかで、いちばん胸に残ったのはジュールが最後に口にした、こんな言葉だった。

「友達には、すぐには話さなかったよ。しばらく経ってから、少しだけ(笑)」

 F1にデビューしてからも、彼のこんな特質は、まわりのみんなを惹きつけた。コース上で見せる煌めくような才能、狙いを定めたときの攻撃性と、ふだんの控え目な様子が見事なコントラストを成していたからだ。