【】浜島裕英のF1人事査定
第七回査定「勝利の女神」

5月28日

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 上の写真をご覧になると分かるように、現在のF1では、空力効果を高めるために、ブレーキ全体をカーボンファイバーのカバーで覆っている。しかしよく見ると、ブレーキディスクの付近にスリットがあるのが分かるだろう。このスリットは、ブレーキディスクの放射熱をホイールに当て、タイヤの内部の空気を暖め、タイヤの温度をほんの数度でも上昇させ、トレッドコンパウンドを作動温度領域に入れ、グリップを少しでも得ようとするためのものだ。もちろんタイヤの暖まりに問題のないサーキットでは、空力効果をより良くするために、このスリットは塞がれている。こういった、細々とした工夫の積み上げにより、他車との差をつけようと、チームの面々は日夜努力しているのだ。

 話をあの事件に戻そう。ハミルトンが64周目に入った数十秒後、周回遅れのロマン・グロージャン(ロータス)とマックス・フェルスタッペン(トロロッソ)が1コーナーで接触し、フェルスタッペンがアウト側の緩衝材に突っ込み、バーチャルセーフティカー(VSC)が導入された。しかし、車両の除去と緩衝材の修復に時間がかかりそうなことが分かったためか、実際のセーフティカーの出動と相成った。

 事故が起きる前の周である63周目終了時点で、ハミルトンと2番手ロズベルグとの差は19.196秒だった。VSC導入後の64周目終了時点には、VSCモードに入った時点でハミルトンはコース上先行していたため、その差は25.727秒差に拡がっている。つまり、ピットインしてタイヤを交換して約20秒費やしても、先頭に戻ってお釣りがくるだけの十分な差があったということだ。

 しかし65周目のセクター2で運悪く、ハミルトンは本物のセーフティカーに追い着いてしまった。これにより彼は、9秒近くリードを失い、さらにピットでザウバーのフェリペ・ナッセの通過待ちで約1秒を失ってしまった。このため、ピットアウトした時には、“セーフティカーライン2”を3番手で通過することになってしまったのだ。

LHNRVTGap
(LH vs NR)
L63+19.196
L64+25.727
L65
@Sector 1
29.2630.33530.664+26.802
L65
@Sector 2
53.2444.544..348+18.062
L65
@Sector 3
48.821(Pit)28.54328.213-2.216
※LH:ハミルトン、NR:ロズベルグ、VT:ベッテル