【】【F1オーストラリアGPの焦点】勇気と闘争心を倍増させた“戦うホンダ”の姿。“自らの道”を通す戦いぶりが清々しかったルクレール

3月20日

 レッドブル・ホンダだけでなく、新鮮な要素が豊富だった19年の開幕戦。F1デビューを飾った新人ドライバーたちはポイントにこそ届かなかったものの、グランプリ特有の忙しい週末のなかで賢明にF1を学び、少しずつ──でも面白いほど顕著に──輝きを増し、予選では3人ともがチームメイトをしのいだ。今年のF1には、若い才能が溢れている。

XPB Images

 トップチームに移籍したガスリーやシャルル・ルクレール(フェラーリ)もしかり。彼らにとって難しかったのは、無垢で臨めたF1デビューシーズンと違って、冬のテストをともに順調にこなしてきた“ビッグチーム”の、レース週末の豹変ぶりであったと思う。優勝狙いを常としているチームでは、金曜〜土曜、そして日曜朝の限られた時間を使いこなしていく仕事のペースも重心を置くポイントも、中堅チームとは違うのだ。それでも、レース結果にかかわらず、ふたりともが今シーズン中にチームメイトを上回る機会があるという期待をもたらした。

 ガスリー以上に注目を集めたルクレールは、“自らの道”を通す戦いぶりが清々しい。フェラーリという大きな組織のなかで、チャンピオン経験者のベッテルと組んで、自分の意見を通すのは難しいことだと思う。本人が悔やむとおり、予選Q3では特に2回目のアタックで細かいミスを重ねてタイムを伸ばすことができなかった。レースでは5番グリッドから好スタートを切ったものの、ターン1〜2でチームメイトとの接触を避ける間に元のポジションに戻ってしまった。

 それでも、レース後半にベッテルを追い詰めるペースで走った──フェラーリのチームオーダーがなければオーバーテイクを仕掛けるところまで迫った──のは、28周目のピットインで“ハード”に交換する英断があったからこそ。

“ハード”という響きは、硬いタイヤに苦労するフェラーリには似合わない。ただし、コンパウンドのスペックにかかわらず各グランプリでハード/ミディアム/ソフトと呼び分ける今年のF1では、ハードは必ずしもメルセデスにしか使いこなせないカチカチのタイヤではないのだ。

 オーストラリアGPでハードと呼ばれたC2スペックは、次戦バーレーンGP、そしてスペインGPでは“ミディアム”となる。レースでの使用が必須となるのだから、バルセロナテストのロングランではメインとして使われたはずのスペックだ。

 もちろん、バルセロナとメルボルンではコースも舗装もコンディションもまったく違う。そこで興味深いのはルクレールというドライバーの、データだけに頼らない“感じ取る”能力で、トップチームではただひとりFP2でハードのロングランをこなすなかで、バルセロナの経験をメルボルンに反映する術を見出していたに違いない。

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 フェラーリは、先にタイヤ交換したベッテルがミディアムを履いて苦労していた。性能低下や摩耗というより、前後バランスが取れなくなってしまうのだ。でも、ルクレールはアルバートパークで一度たりともミディアムを履いていないのだから“ハード”という選択に踏み切るには勇気が必要だったはず──。そこは、先輩であるベッテルのタイヤ管理(にミスがないこと)を信じた。そして自らの持っているハードの情報を照らし合わせ、従来のフェラーリならあり得ないハードを選択し、第2スティントで15秒の間隔を詰める速さに繋げた。

 フェラーリには、ルクレールというドライバーがおそらくフェルナンド・アロンソ以来の、F1でも稀な、野性動物的に繊細なセンサーを備えていることを理解してほしい。