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【中野信治のF1分析/第8戦】目まぐるしく変わる勢力変化とフェラーリのウインドウの狭さ。執念が引き寄せたラッセルの今季2勝目

2026年7月2日

 オーストリアのレッドブルリンクで開催された2026年F1第8戦オーストリアGPは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインで今季2勝目を飾りました。


 今回はアップデート投入で変化した勢力図、熱波がF1に与える影響、そしてラッセルが予選Q3で見せた技、勝利を引き寄せた執念について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 今回のオーストリアGPではレッドブルがアップデートを投入してきました。サイドポッドインレット、エンジンカバー、フロア、フロアボード、リヤサスペンション、リヤコーナー、リヤウイング、エキゾーストテールパイプという7カ所に及ぶ大型アップデートで、開幕戦とはまったく違うかたちになっていました。


 決勝ではマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季ベストの2位を掴んでおり、アップデートがしっかりと機能している印象です。クルマ全体のダウンフォースが増えて、1周のスピードもそこそこ速く、決勝のタイヤのデグラデーション(性能劣化)はメルセデスとほぼ互角でした。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2026年F1第8戦オーストリアGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 一方、前戦バルセロナ・カタルーニャGPでメルセデスの連勝を止めたフェラーリは、今回表彰台に上がれず苦しんでいました。フェラーリのクルマはウインドウが狭い(編注:セットアップに対する許容が狭い)という印象ですね。フェラーリもアップデートを重ねてポテンシャルを前進させてきています。前戦バルセロナ・カタルーニャGPで優勝したルイス・ハミルトンの走りのように、ウインドウに入ればフェラーリはフロントタイヤがコーナーに鋭く入っていくクルマです。


 ストレートスピードは少し劣りますが、コーナリングスピードが抜群ですので、ウインドウに入れば強い。ただ今回のオーストリアGPは、今季のフェラーリの『フロントは入るけど、リヤが非常にナーバスでピーキーなクルマ』というキャラクターがネガティブな方向に傾き、決勝ではリヤタイヤがかなり厳しくなりました。


 レースペースを維持できなくなるので3ストップで挑むしかなかった、というのはロングランを試していたフリー走行1回目と2回目の段階から、チームは把握していたように感じます。簡単に言えばレッドブルリンクは今のフェラーリには合わないサーキットだったという感じでしょうか。


 また、今回フェラーリは『ADUO』(追加開発アップグレードの機会/Additional Development Upgrade Opportunities)システムの下で初めてとなるエンジンアップグレードを投入してきました。ただ、決勝中はフルパワーで走っていなかったように感じます。標高の高いサーキットだったからか、気温と路面温度が高温だったことが理由なのかは定かではありませんが、何かしらの制限をPUにかけて走っていたように見えたので、クルマとPUの両方が上手くいっていなかったと私は見ています。

ルイス・ハミルトン(フェラーリ)
2026年F1第8戦オーストリアGP ルイス・ハミルトン(フェラーリ)

 シーズン中盤を迎え、各チームは大規模なアップデートを次々に投入してきています。そのアップデートが投入されるたびに勢力図が変わる状況は面白いですね。技術規則の大幅な変更により、各チームはクルマのポテンシャルを最大限に引き出せるスイートスポットを見つけることに苦労しています。


 それは、大体がセットアップ云々でどうにもならない部分で、車両プラットフォーム側のデザインや設計段階の問題だったりします。ただ、各チームはそんなクルマの根幹部分もどんどん修正を進めて確実にポテンシャルを上げてきています。問題箇所の調査からシミュレーション、そして実際に修正されるまでのスピードがとにかく速いですね。


 それだけに、シーズン中にずっと先を見据えて、アップデートを用意しておかないと、シーズンを通じてトップを守ることができませんし、追うチームはいつまでもトップに追いつくことができないでしょう。今回のレッドブルはいい例だと思いますね。それだけに、アップデートによる進化や開発競争は見ていて本当に面白いです。次はマクラーレンが上がってくるかもしれません。もっと言えば、サマーブレイク明けには今苦しい戦いが続いているアストンマーティン・ホンダも上位に来るかもしれません。そういった期待を抱かせてくれるのも、2026年にレギュレーションが大幅に変わったことによる面白さなのかなと思います。

フェルナンド・アロンソ&ランス・ストロール(アストンマーティン)
2026年F1第8戦オーストリアGP フェルナンド・アロンソ&ランス・ストロール(アストンマーティン)

 また、ここ最近ヨーロッパに熱波が到来しており、F1にもその影響が出ていますね。気温・路面温度が高くなるとタイヤは摩耗しやすくなり、タイヤマネジメントが難しくなります。その影響がわかりやすく出ていたのはフェラーリです。先に述べておきますと、フェラーリがオーストリアGPでリヤタイヤの摩耗に悩まされた主な原因は、高温のコンディションではないと私は思っています。ハミルトンが優勝した前戦のバルセロナ・カタルーニャGPも気温・路面温度はやや高めでしたが、今回ほど摩耗に悩んではいなかったのではないでしょうか。


 先述のとおり、フェラーリのクルマはウインドウが狭いクルマです。1度や2度想定よりも高温であれば許容できても、今回のように熱波の影響で想定よりも5度や6度も気温・路面温度が上昇すると車両側がそれを許容できず、バランスが崩れ出すということは起こりえます。次のシルバーストン・サーキットもタイヤへの攻撃性がすごく高いサーキットですから、デグラデーションの差は大きく出やすいと思います。デグラデーションの差が出るため、各チームはより一層決勝に照準を合わせたクルマ作りが求められます。

ルイス・ハミルトン(フェラーリ)
2026年F1第8戦オーストリアGP ルイス・ハミルトン(フェラーリ)

■勝利を引き寄せたラッセルの執念。予選Q3で見せた頭の良さとテクニック

 今回のオーストリアGPの主役はやはりラッセルです。なんといっても予選Q3でのポールポジション獲得は見事でした。レギュレーションを熟知していたからこそ、フェルスタッペンのクラッシュで振られていたイエローフラッグ中に減速しつつ、最速タイム更新でポールポジションを掴みました。


 セッション終盤の自分自身の最後のアタック中という状況下で、冷静にダブルイエローではないことを確認する瞬時の判断力、減速しつつもタイムは落とさないというテクニック、これはレギュレーションを100パーセント熟知していないと実行できないことです。それだけにあの予選Q3からは、ラッセルの頭の良さと貪欲さ、そして執念を感じました。その執念がオーストリアGPの流れをラッセルに引き寄せたなと感じます。

ジョージ・ラッセル(メルセデス)
2026年F1第8戦オーストリアGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)

 ラッセルは確かにイエロー中にスロットルを抜いて減速しています。ただ、コーナリング中のミニマムスピードは、通常のアタック時とまったく一緒でした。イエロー区間なのに、0.1秒ほどタイムロスしただけで終わるのはいかがなものかという議論はあるかもしれませんが、レギュレーション上は問題ありません。FIA国際モータースポーツ競技規則附則H項には『速度を落とし、追い越しをしてはならず、進路変更をする準備をしておくこと』とはありますが、この減速がどれほどの減速なのか、明確に数値や基準が設けられていないのが現状ですから。


 通常ターン9は軽くブレーキを踏むコーナーです。ただ、ラッセルはあのイエローが出たアタックの際、ターン9でブレーキを踏みませんでした。少し早めにスロットルを抜いてダウンシフトだけで減速し、最小限のタイムロスに収まるように、瞬時に走りを変えています。判断力、テクニック、トータルでラッセルの能力が高くなければできないことでした。

2026年F1第8戦オーストリアGP スタート
2026年F1第8戦オーストリアGP スタート

 さて、決勝でアントネッリがスタート直後にオーバーランでタイムを失わなければ、またバーチャル・セーフティカー(VSC)導入時に1周待ってピットに入れていたら、おそらくはアントネッリが勝利を飾っていたと思います。さらに、フェルスタッペンはラッセルが2度目のタイヤ交換に入った際に、そこでラッセルをカバーするべく翌周にタイヤを替えたり、もしくはラッセルの2度目のタイヤ交換の前に自分の2度目のタイヤ交換を済ませ、先手を打ってアンダーカットを仕掛ければ、フェルスタッペンが勝っていた可能性があります。


 いろいろな『たられば』はありますが、そのなかで勝利を引き寄せ、勝利を掴んだのはラッセルでした。とはいえ、ラッセルにとっては決してオーストリアGPは楽なレースではなかったと思います。

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)


レース

9/11(金) フリー走行1回目 結果 / レポート
フリー走行2回目 結果 / レポート
9/12(土) フリー走行3回目 結果 / レポート
予選 23:00〜
9/13(日) 決勝 22:00〜


ドライバーズランキング

※イタリアGP終了時点
1位アンドレア・キミ・アントネッリ267
2位ジョージ・ラッセル201
3位ルイス・ハミルトン191
4位ランド・ノリス171
5位シャルル・ルクレール155
6位マックス・フェルスタッペン127
7位オスカー・ピアストリ116
8位アイザック・ハジャー71
9位リアム・ローソン51
10位ピエール・ガスリー41

チームランキング

※イタリアGP終了時点
1位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム468
2位スクーデリア・フェラーリHP346
3位マクラーレン・マスターカード・フォーミュラ1チーム287
4位オラクル・レッドブル・レーシング204
5位ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム75
6位BWTアルピーヌF1チーム62
7位TGRハースF1チーム21
8位アウディ・レボリュートF1チーム16
9位アトラシアン・ウイリアムズF1チーム11
10位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム3

レースカレンダー

2026年F1カレンダー
第14戦スペインGP 9/13
第15戦アゼルバイジャンGP 9/26
第16戦バーレーンGP 10/4
第17戦シンガポールGP 10/11
第18戦アメリカGP 10/25
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