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【F1コラム】夢の『サーキット・オブ・デンマーク』プロジェクトに見るグランプリ誘致の難しさ

2026年6月23日

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、ナイガード氏の母国デンマークで進行中の新サーキット『サーキット・オブ・デンマーク』プロジェクトを紹介するとともに、新たにF1カレンダー入りを果たすことの難しさを論じた。

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■F1への夢を明言するデンマークの新サーキット

 デンマークに全長6キロの『サーキット・オブ・デンマーク』建設計画が発表され、国内で大きな話題となった。


 私は、自国に大規模な国際モーターレーシングサーキットが誕生するという構想が大好きだ。ドイツとの国境近くのパドボルグという立地は必ずしも理想的ではないかもしれない。デンマークのモータースポーツが本当に必要としているのは、コペンハーゲン近郊のサーキットだからだ。しかし、それでも国際サーキットがまったく存在しないよりは、パドボルグに国際サーキットがある方がはるかに良い。


 このプロジェクトが発表されると、すぐにF1開催という夢が前面に出てきた。F1は他のあらゆるモータースポーツを圧倒する存在であり、10万人の観客動員というサーキット・オブ・デンマークの目標を実現できる他カテゴリーを見つけるのは難しい。


 サーキット・オブ・デンマークの経営陣も、F1が計画の一部であることを隠していない。プロジェクトディレクターのレベッカ・パルムベリ・スティールは「私たちもF1という夢を100%共有しています」と語った。

■ドイツでさえ苦戦するF1開催、その現実を直視する必要

 しかし、サーキット・オブ・デンマークでF1グランプリを開催するという考えは、どこまで現実的なのだろうか。


 パドボルグのサーキットは、当然ながら国境の両側から観客を集めることができるだろう。しかし、隣国のポテンシャルにデンマーク人が目を奪われる前に、一つ認識しておくべきことがある。欧州最大の自動車産業をを抱え、既存のF1サーキットを2つ有し、ワークスチームを2チーム抱え、さらに現役ドライバーもいるドイツでさえ、2020年以降はF1グランプリを開催するための資金を確保できていないのである。

2019年F1第11戦ドイツGP 表彰台
2019年F1第11戦ドイツGP 表彰台の周りに集まったファン

 インフラ面でも、パドボルグという立地は問題をはらんでいる。


 サーキット・オブ・デンマークは、F1開催に対応可能な最寄りの都市(ハンブルク、あるいはオーフス)から少なくとも車で2時間の距離に位置する。コペンハーゲンからは3時間以上かかる。


 計画にはホテル建設も含まれていると報じられている。しかし、11チームだけでなく、FIAとF1の関係者、タイヤや燃料の公式サプライヤー、メディア、VIPゲストを合わせれば、少なくとも2、500室の客室が必要になる。

■F1が求める“デスティネーションシティ”とカレンダーの壁

 パドボルグはまた、F1運営側が新規開催地に求める“デスティネーションシティ(目的地として魅力を持つ都市)”の近隣という条件を満たせそうにもない。パドボルグは、近年カレンダーに加わったマイアミ、マドリード、ラスベガスと同列には語れないし、2027年にレース開催が予定されているポルトガル南部アルガルヴェ地方のポルティマオや、トルコのイスタンブールとも比較にならない。


 さらに、F1カレンダーはすでに満杯だ。各チームが現在の24戦を超えるレース数を受け入れる可能性は低く、デンマークがグランプリを獲得するには、既存のヨーロッパ開催レースの一つを押し出さなければならない。


 新しいサーキット・オブ・デンマークは、モンテカルロ、シルバーストン、スパ・フランコルシャン、モンツァといった伝統的なサーキットに対抗できるだろうか。


 その可能性は高くない。

■最後に決めるのは資金力

 しかし、世界で最も高額なスポーツであるF1では、いつもそうであるように、最後はカネ次第でもある。もしデンマークが既存開催地のどこかを上回る開催権料を提示できれば、F1もパドボルグ遠征を検討するかもしれない。


 現在、F1開催権料は非常に高額であり、ほとんどのサーキットは公的支援なしでは成り立たない。サーキット・オブ・デンマークが建設されるオーベンロー自治体の市長イェンス・リーベル・ヤコブセン(保守党)は、この計画に熱意を示し、「素晴らしいプロジェクトだ」と称賛している。


 だが、F1グランプリ開催に必要とされる数億クローネもの公的資金を、本当に彼は拠出するだろうか。それはまずないだろう。

■ザントフォールトが示す、F1開催の厳しい現実

 オランダGPは2021年からザントフォールトで開催され、マックス・フェルスタッペンの存在のおかげで、常に“満員御礼”が続いた。オランダは、公的支援なしでグランプリを開催している数少ない国の一つである。しかし、今年がザントフォールトにとって最後のF1開催となる。


 なぜか。既存サーキットを使用し、なおかつ地元の英雄による集客効果があるにもかかわらず、主催者にとっての財政リスクが大きくなりすぎたからである。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2025年F1第15戦オランダGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 実は、デンマークGP実現は10年前にかなり現実味を帯びていた。当時計画されていたコペンハーゲン市街地レース(まさに“デスティネーションシティ”と呼ぶにふさわしい場所である)は、新規開催地としてマイアミと並び、F1運営側の最優先候補の一つだった。


 プロジェクト開始当初から、『デンマークF1グランプリ』計画の関係者はF1と緊密な関係を築いており、その一環として当時のF1最高責任者チェイス・キャリーがコペンハーゲンを訪れ、産業・商業大臣ブライアン・ミケルセンと会談したほどである。


 一方で、サーキット・オブ・デンマークはやや異なる戦略を取っており、現時点ではまだF1側と接触していない。


 否定的なことばかりを言いたくはないが、現実的に考えよう。


 冒頭でも述べたように、私はデンマークに国際モータースポーツサーキットが誕生するという構想を心から歓迎している。そして、サーキット・オブ・デンマークの成功を願っている。


 だが、パドボルグでF1を開催? それは諦めたほうがいいと言わざるをえない。




(Text : Peter Nygaard)


レース

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