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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第17回】COTA初走行のニキータ&ミック。バンプとタイヤの過熱がカギを握った週末

2021年11月4日

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。2年ぶりの開催となったアメリカGPは、例年以上に気温と路面温度が高く、過酷なコンディションでの戦いになった。ドライバーはふたりともCOTAを走るのは今回が初めてで、バンピーな路面に苦労したという。決勝レースではニキータ・マゼピンのヘッドレストが緩むトラブルも発生し、一筋縄ではいかない週末となった。そんなアメリカGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。


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2021年F1第17戦アメリカGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝17位
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝16位


 アメリカでのレースは2年ぶりになります。この週末は3日間を通して40万人もの観客の方々がサーキットを訪れたようで、今シーズンのF1の観客数としては一番多かったのではないかと思います。新型コロナウイルスの感染対策は国によって様々だとは思いますが、F1で働く僕たちの規制は開幕当初から変わっていません。ガレージ内でもピットウォールでもマスクを着用し、移動も変わらずチャーター便です。現地での外出に関してはチームによって規則が異なりますが、まだまだ慎重にやっています。


 僕たちは外出が許されていたので滞在中は何度かコロラド川の方に走りに行ってきました。オースティンは都会的な場所も自然溢れる場所もあるので、すごくいいところです。オースティンの街中にはいいレストランやバーがたくさんあり、ライブバンドのいるところも多いので、お酒を飲みながら音楽も楽しめます。お客さんのリクエストを、ジャンルに関わらず即興で演奏してくれるようなバーもあっていつも盛り上がっています。レストランもテキサスらしいバーベキューのお店をはじめ、様々なところがあり毎日飽きることがありません。レースを観に来るお客さんにとってはこうしてサーキットの外でも楽しめることがたくさんあるので、訪れるにはいいグランプリだと思います。僕たちも毎年楽しみにしているグランプリのひとつです。

2021年F1第17戦アメリカGP
2021年F1第17戦アメリカGP


 さてアメリカGPの舞台となるCOTAは路面がバンピー(デコボコ)なのが特徴で、いつもそれ相応の準備をして臨みます。今年はMotoGPのライダーたちが路面を問題視していて、F1開催前にバンプを削るなどの対応を行ったと聞いていました。木曜日にコースを歩いた際には確かに(路面を平らにするために)削られていた箇所もありましたが、金曜日に走り出してみるとやはりまだまだ結局バンピーで、特に驚きはありませんでした。


 ニキータとミックはCOTAを走るのが初めてです。シミュレーターに乗ってから行きましたが、それでもふたりとも「こんなにバンピーなところで走ったことがない」と言っていました。これだけバンプがあると、たとえばうねっているレイアウトのセクター1では、複数の走行ラインを取れるコーナーでの走り方によってクルマの挙動が変わってきます。こういうところがおもしろくて、COTAのチャレンジングな部分です。バーレーンの外周コースにある縁石のようなクルマにダメージを与えるものだと困りますが、このレベルであればコース特性のひとつとして捉えています。まあ、それでも許容範囲の限界に近いですけどね。


 しかし、クルマやパワーユニット(PU)に特別な対策はしていません。2019年にはターン9出口で膨らんだ際にMGU-Kがカットされる問題がありましたが、今年はターン9にトラックリミットが設けられ、大きく膨らむことはないのでその対策は必要なくなりました。クルマのセットアップももちろんそれなりに調整はしますが、大幅に変えることはなく、基本的には最近数戦で学んだことと過去のデータを反映してバランスをとっています。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP ニキータ・マゼピン(ハース)


 また今回は2年前よりも気温と路面温度が高くなるという予想だったので、リヤタイヤのオーバーヒートをどれくらい抑えられるかがコンペティティブな2ストップ戦略レースをやるにあたっての重要な点でした。木曜日に「オーバーヒートを抑えるためには、どこのコーナーで何をする」というのを話し合って明確にし、FP1ではガソリンを積んだ状態で走ってデータを採ります。そのデータを見て走り方を考え直して、FP2ではレースに向けたロングランを実施。磨耗やタレ具合を確認し、2ストップでいいのかどうかを考えるという手順でした。問題点に対する意識やアプローチの統一という意味では、よくやれたかなと思っています。


 ちなみに、ロシアGPからFP1とFP2での使用タイヤの割り当てをニキータとミックで分けています。最初の頃はドライバーがクルマとタイヤの限界を掴みきれないので、お互いにデータを比較できるように常にふたりとも同じタイヤで走らせていました。


 しかし、そうすると金曜日にしっかりと走っていないタイヤでレースをするという状況が何度かありました。レースできちんとそのタイヤを使うことができなかったのです。ですから、ロシア以降は金曜日のレースの準備をすることに重点を置き、それぞれ違うタイヤを履いています。そのおかげで、金曜日が終わった段階でタイヤに関してはいい情報が集まるようになりましたが、まだまだドライバーと一緒に改善していく余地がありそうです。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP ミック・シューマッハー(ハース)

■ヘッドレストの緩みでニキータのレースは台無しに。原因は取り付けミス

 また今回は予選でもふたりの戦略を分けました。Q1では時間的にギリギリのタイミングで3セットのタイヤを使って走る事が可能だったので、ミックは3セット使うことに。2回目のランが一番いいタイムでしたけれど、それでもターン19で0.4秒ほどロスがあったので、それがなければ1分36秒1くらい、Q2のカットオフタイムから0.2秒ほどのところで終われたはずでした。ここ数戦、彼は徐々に自信を築き上げてきていて、トルコでは実力でQ2に進めたわけですし、そういう実績ひとつひとつが自信に繋がっていくので、いい方向に進んでいるのではないでしょうか。


 一方でニキータはタイヤを2セット使う戦略でした。今回は路面温度が高くてクールダウンラップが2周必要だったので、プッシュ(計測)→クールダウンラップ2周→プッシュ(計測)で走って一度ピットに戻り、最後のランに一発勝負をするという形になりました。本来はタイヤを3セット使って3回計測するほうがいいのですが、過去の経験からいうとニキータは3回走っても毎回タイムを上げられるタイプではありません。クールダウンラップを2周挟んで、その間に最初のラップに関して考えるべきことを頭のなかで消化してもらうためにも、2セットで走る方法を選択しました。彼はトラックリミットにも苦労しており、なかなかタイムが出せず、最終ラップでなんとかタイムを計測することができました。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP ニキータ・マゼピン(ハース)


 決勝レースでは、スタート直後にニキータのヘッドレストが緩んでしまいました。担当メカニックがグリッド上でレース開始前にきちんと取り付けていなかったことが原因です。恥ずかしい話ですがあってはならないことですし、言い訳のしようもありません。これでニキータのレースを台無しにしてしまいました。


 アメリカGPでもニキータのレースエンジニアが不在だったので、僕がエンジニアリングディレクターの業務と掛け持ちでニキータのエンジニアを務めました。レースはダメになってしまいましたが、前戦と比べると、スイッチ操作などに関するこちらからの指示にはすべて対応していましたし、無線で伝えた情報の処理も改善されていました。しかし、レースペースという点ではまだまだですね。

小松礼雄エンジニアリングディレクター&ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP 小松礼雄エンジニアリングディレクター&ニキータ・マゼピン(ハース)


 ミックはの方は引き続き、初日の走り出しをよくするというのが課題です。今回も金曜日にいいレファレンスを出してそれをベースにしてレースを走るのではなく、まだまだ週末通して学びながらペースが上がっていく状態でした。たとえば、路面温度が高いことに加えて路面がバンピーだったので、金曜日は自信を持てずにセクター1の高速コーナーでタイムをロスしていました。FP3ではそれが改善されてロスが小さくなり、レースでもよくなっていました。また日曜の風向きの変化にもよく対応していたと思います。


 ポジティブな言い方をすれば、週末を通してそれだけ改善しているということですが、次の段階に進むためにはやはり走り出しからもう少し限界の近くで速く走ることが重要です。とはいえ彼も確実に進歩していますし、レース中もいろいろなことを試して、こちらから言うことに対して反応できるキャパシティもあります。人の話をよく聞いて、とにかくやってみるということができるので、これを続けていければ伸び代はあると思います。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP ミック・シューマッハー(ハース)

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第17戦アメリカGP ミック・シューマッハー(ハース)



(Ayao Komatsu)




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