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【中野信治のF1分析/第17戦】フェルスタッペンとハミルトンの奇跡のようなトップ争い。角田裕毅のレースでの真骨頂

2021年11月1日

 フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点でお届けします。今回の第17戦アメリカGPはタイヤに厳しいなか、トップの2台が至極のバトルを魅せました。そして速さだけではない決勝での角田裕毅の強さを中野氏が細かく解説します。


  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


 F1第17戦アメリカGPですが、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)のトップ争い、いやあ、面白かったですね(苦笑)。見応え満点で、今年のレースを象徴するような争いでした。


 アメリカGPのコース、テキサス州オースティンにあるサーキット・オブ・ジ・アメリカズは映像を見てもお分かりの通り、結構な高低差があって路面はアンジュレーション(起伏)があり、高速コーナーあり、中速、低速コーナーもありの構成で、少し違いますが、鈴鹿っぽさもあるコースです。前半のS字区間(3〜5コーナー)も鈴鹿のS字を彷彿とさせますね。


 ドライバーは乗っていて非常に楽しいサーキットだと思いますが、高速〜低速とコーナーがあって、ダウンフォースレベルをどっちのコーナーに合わせていけばいいのか、エンジニア的には結構セットアップしていくのが難しいサーキットなのかなと思いますね。予選だけではなく決勝も含めて、タイヤを守る方向にクルマを振るのか、結構アグレッシブにいくのか、悩ましい部分の多いサーキットなのかなと感じます。


 今までメルセデスが強かった理由に高速コーナーでのエアロのよさに加えて、サスペンション、ジオメトリー側のセットアップがよくて、路面をタイヤが掴むという部分でマシンのもともとの素性がよかったという部分があります。アンジュレーションやバンプが多い路面で、タイヤを守るという部分ですごくアドバンテージを持っていたのかなと感じます。


 また、今回のアメリカGPではタイヤのオーバーヒートが懸念されました。コースの前半区間は結構アクセルを踏んでいくコーナーが続きますよね。1コーナーを抜けてからずっと高速コーナーが続くので、とにかくリヤタイヤに荷重が掛かり続けて、チリチリと熱を持ってしまいます。11コーナーを抜けて少しバックストレートに入りますけど、そこまで長いストレートではないのでタイヤが冷え切る前に後半の低速区間に入ってしまいます。低速コーナーが続く区間では、トラクションがタイヤに掛かったままのコーナーが続くので、タイヤにはもうバリバリ厳しいサーキットです。


 タイヤにとっては追い込まれて、追い込まれて、休憩がない。そこでのドライバーのタイヤマネジメントもすごく厳しく、タイヤに対するクルマのセットアップも含めて、レースを難しくしていますよね。特に今回は例年よりも暑かったということも、タイヤマネジメントを難しくしたというのはあります。2年前の時とは、そこが大きく違ったと思います。


 予選まではセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)が好調で、レッドブルがフロントロウに並ぶのかなと思いましたが、さすがハミルトンが2番手、フェルスタッペンもペレスを上回ってポールポジションを獲得しました。ですが、決勝ではスタートでハミルトンがフェルスタッペンの前を奪ってトップに立ったことで、想定された展開が逆になって、面白くなりました。


 フェスルタッペン、そしてハミルトンとも絶妙なスタートで、イン側の(ラバーが乗っていなくグリップが低い)ハミルトンはかなり厳しいのかなと思っていたのですけど、動き出しのあと、1速、2速、3速にシフトアップしていく加速が本当に素晴らしくよく、1コーナーで見事オーバーテイクを成功させました。このままハミルトンが逃げるのかなと思ったのですが、まあ、ここは今年のレースをすごく面白くしている戦略の部分ですよね。


 まずはレッドブル。2番手を走行していたフェルスタッペンがかなり早めに動きましたよね。『そこで入るのか!?』というタイミングで1回目のピットに入って、メルセデスは少し驚いたと思います。今年、何度かこういう展開があったのですけど、相手の動きを封じ込める戦略というか、迷わせるタイミングというか。『いや、これは早すぎるからタイヤは持たないのじゃないか?』、『こっちは通常通りの作戦で行こう』みたいな方向に相手を思い込ませるというか。


 タイヤが保つギリギリのタイミングでピットインしたフェルスタッペンですが、『このままだと少し厳しいかな』、『意外に抑え込まれてしまうかな』とレッドブル側も心配になったと思います。


 でも、スタートでハミルトンに先行されて、コース上でのオーバーテイクも簡単ではないですので、一発作戦で前に出ないといけない。それで、予想よりも速いタイミングで先に入った。翌周、すぐにメルセデスが反応していれば、また少し違ったものになった可能性もありますが、すでにアンダーカットでフェルスタッペンが前に出ていたタイミングでしたので、ハミルトンにとっては厳しい状況でしたね。


 1回目のピットストップでフェルスタッペンにトップを奪われて、メルセデスはやりようがなくなった。無線でも言っていましたけども、タイヤは全然問題ないよということでしたので、そこからはストラテジスト(戦略担当)の数学の天才たちがコンピューターを駆使して、どういう戦いをすればもう一度前に出られるかを考えるわけですよね。


 それでメルセデス側はこのままハミルトンの1回目、そして2回目のピットストップをできるだけ遅らせて、最後のスティントの最後のタイヤのグリップはこれくらいに落ちるだろうから、勝負を仕掛けるタイミングとして出した戦略が、無線でも言っていました『最後の3周が勝負だ』という答え。


 その無線のコメントを聞いたときには『本当かよ!?』と、思ったのですけど、その通りの展開になっていったのが、おそろしいですね。今年の戦略担当エンジニアの先を読む力というか、AIなのか担当エンジニアたちの能力なのかわからないですけど、相手の出方によってとっさに作戦を切り替えて、すごい高いレベルでの戦いです。


 そしてまた、今回もその作戦通りにドライバーがマシンを走らせました。追ってくるハミルトンとメルセデスの動きに対応するためにタイヤをコントロールしながら、ギリギリ最後までタイヤマネジメントしていたフェルスタッペン。もう、このふたりの戦いは異次元でしたね。このふたりのドライバーの高いレベル、そしてレッドブルのエンジニアリング、メルセデスのエンジニアリングの能力が高いからこそ、あの最後の超接近戦につながった。いやあ、すごすぎましたね。


 他のドライバーたちを見てもわかるように、今回の決勝レースではタイヤのオーバーヒートが厳しい状況なわけです。そのなかでトップを争ってペースを保ちつつ、タイヤマネジメントして、オーバーヒートしないような計算されたドライビングをフェルスタッペンもハミルトンも続けていたわけです。

2021年F1第17戦アメリカGP決勝
ファイナルラップまで目が離せないバトルを見せたフェルスタッペンとハミルトン


●最終ラップに訪れた幸運。決勝での強さを見せ始めた角田裕毅と、うれしいスーパーフォーミュラのふたりのドライバーの成長


 ふたりとも残りの周回数を結構(無線で)聞いていましたが、どこでタイヤをきっちり使い切るか。能力の高いドライバーは『こういう使い方をしていたらあと何周はこういう感じでこれくらいのタイムで走れる』とか、『ラスト何周で勝負するためにリヤタイヤをこれくらい残しておこう』とか計算しながら走ることができます。フェルスタッペンもハミルトンも、そのタイヤマネジメントがあまりにも絶妙すぎて、すごかったですよね。


 そのなかでもやはり、今回一番のキーとなったのは、1回目のフェルスタッペンのピットストップですよね。あのタイミングで『ここで入れる』と判断したレッドブルのエンジニアリングチームの計算というか、判断力ですね。2回目のピットも驚くほど速くて、メルセデス側の作戦としては、2回目の戦略も遅らせるしかなくなり、最後まで引っ張って結果的にフェルスタッペンより8周新しいニュータイヤに変えて行きました。
 
 当然、できるだけ燃料が軽くなったところでニュータイヤを入れて行きたい。そうするとタイヤに対する負担も少なくなるし、少ない状況で速いペースで走れるので、最後に勝負できる計算だったと思いますね。ただ、それでもフェルスタッペンのタイヤマネジメントが完璧でした。


 フェルスタッペンはシンプルにステアリングの舵角を少なくして、クルマの向きをできるだけ速く変えていました。できるだけ縦の方向でトラクションをかけて加速させて、横向きに荷重をかけるとか滑らせる時間をできるだけ少なくして、そしてペースを落とさずにミニマムの動作で形にしていました。これも技術的に本当に高いレベルでタイミングよく完璧にしないとできないことです。これは追う方のハミルトンも同じです。


 それでも、先にピットインしていたフェルスタッペンのタイヤは相当厳しそうで、高速コーナーではリヤがスライドしていましたね。レース後のインタビューでフェルスタッペンも言っていましたが、タイヤ的には相当限界にきていたと思います。ただ、低速コーナーでトラクションをきちんとかけられるところだけ残していれば、そう簡単には抜かれないというのがわかっていたと思います。チーム側もトラクションを気をつけるよう無線で伝えていましたよね。


 タイヤのライフをうまくコントロールしながらペースを保って、最後の最後までわからない、スーパーハイレベルな2台の戦いだったので、本当に中継の解説ではそのすべてを表現するのがすごく難しかったですね。今年はアメリカGPだけではなく、何度かこういうレースがあるのですけど、本当にびっくりします。それを実現しているのは、フェルスタッペンとハミルトンがふたりとも完全に成熟しつつあって、本当に優秀なスタードライバーがいるからこそで、今シーズンは何度か奇跡的な瞬間が訪れていると思います。


 最終ラップではふたりのバトルの目の前に周回遅れのハースがいて、フェルスタッペンがハースのマシンのお陰でDRSが使えたというというのも本当に大きかったですね。フェルスタッペンにとってはすごく恵まれました。一方のハミルトンのDRSは開いていなくて、ふたりのバトルはちょうど、1秒から0.9秒になるのを繰り返していて、DRSの計測地点でフェルスタッペンとギリギリ1秒以上だった。本当に運と流れがフェルスタッペンにあったのですよね。あの時DRSがなくてハミルトンが逆にDRSを使えていたら、勝負はわからなかったですね。

2021年F1第17戦アメリカGP決勝
表彰台でお互いのパフォーマンスを讃えるフェルスタッペンとハミルトン


 そういった意味で今回のフェルスタッペンの勝ち方は、少しシーズンの流れがレッドブルに来たという空気が感じられたかなと思います。ペレスの強さも改めて証明されたし、メルセデスもバルテリ・ボッタスがもう少しいい仕事をしていれば、流れが変わっていたと思うのですけど、前半の走りを見ていても、ボッタスの弱いところが出てしまいました。


そして今回、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手が予選Q3に進出して、決勝でも9位の結果以上にいいレースをしてくれましたね。ピエール(ガスリー)がサスペンショントラブルで脱落してしまって、アルファタウリにとっては角田選手が頼みの綱でもあったなかで、彼の真骨頂であるタイヤのマネジメントのうまさというのが今回すごく発揮されました。


 スタートでも周りにミディアムタイヤが多いなか、角田選手はソフトタイヤのいいところをきちんと引き出して順位を上げてましたし、その後も、これまでレースだとどうしてもペースを下げたり、順位を下げたりというのがあったのですけど、後半に自己ベストを更新して、彼のいいところが今回に関しては全部出たレースでしたよね。


 タイヤもうまくコントロールして、ペースも最後まで落とさず、前半戦ではボッタスとクリーンなバトルを見せ、その後は(キミ)ライコネン(アルファロメオ)とか(セバスチャン)ベッテル(アストンマーチン)も見事に抑え切りました。彼のFIA-F2時代に何度も見られた、うまくレースの流れを見ることができているなという。あの時のパフォーマンスが蘇ってきたような走りでした。


 今季の前半はいろいろなことがありましたが、後半数戦少しづつ流れ作ってきて、角田裕毅選手の中でいろいろと我慢しているところもたくさんあったと思うのですけども、ようやく今、形になってポジティブな方向に来たように見えます。

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第17戦アメリカGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)


 今回のような内容を続けていくと、本当にチャンスが来たときに必ずいい結果を残すことができます。ですけど、流れが来ていないなかで無理すると、今のF1ではコースの外に飛んでいったりしてしまいます。今までそのパフォーマンスを出すタイミングを間違えていたのが角田選手だと思うので、本当に今回は強くなったというか、本来の実力を出せるようなところまで持ってこられたのかなと見ていて感じましたね。


 最後にもうひとつ、国内レースになりますがスーパーフォーミュラで去年まで2年間、自分が監督として在籍していたTEAM MUGENの野尻智紀選手がチャンピオンを獲得して、チームメイトの大津弘樹選手(Red Bull MUGEN Team Goh)も新人ながら先日のツインリンクもてぎで初優勝を果たしました。


 大津選手はもともと実力のあるドライバーで、いつ結果を残してもおかしくはなかったと思っています。追い込まれた土壇場に強い、彼の特徴が出たレースでした。野尻選手は3年目でタイトルを獲るということは僕のなかではイメージしていて、今年は全然心配していませんでした。開幕戦の富士のレースで勝ったあと『今年の野尻はチャンピオンになるよ』と言っていたのですけど、彼の今年の走りとか言動を見ていて、タイトルを獲るための準備がすべて整っていると感じていました。

初優勝を手にした大津弘樹(Red Bull MUGEN Team Goh)とチャンピオンに輝いた野尻智紀(TEAM MUGEN)
初優勝を手にした大津弘樹(Red Bull MUGEN Team Goh)とチャンピオンに輝いた野尻智紀(TEAM MUGEN)


 チームもエンジニアにメカニック、今年は準備も整っていましたし、本当に今年の野尻選手は強くなったと思います。彼は自分の弱いところを受け入れて、何をしたら勝てるのかということを徹底的に自分のなかで葛藤し、戦って強くなりましたね。チャンピオンを決めた次の日に野尻選手とも大津選手とも(SRSで)鈴鹿で一緒だったのでお祝いをして、いろいろな話をしました。F1の角田選手の活躍とともに、自分がいたチームのドライバーたちが強くなって活躍してくれて、僕としてもとてもうれしい結果でした。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)




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4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム52
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム40
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