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2014年F1モナコGPで見た三つ巴の熱戦【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

2020年7月22日

 スーパーGTを戦うJAF-GT車両見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。


 今回は2014年のF1モナコGPをピックアップ。そこでコリンズが目にしたのは、近年のF1のなかでも指折りの拮抗した重要な意味を持つバトルでした。


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 ニースからモナコに向かう電車からの風景は壮観だ。二階の右側の座席に座れば、コート・ダジュールの美しい眺めが続き、モンテカルロに到着するまでに景色はますます素晴らしいものになっていく。


 2014年、モンテカルロに到着すると興奮した雰囲気がただよっていた。予選でふたりのメルセデスドライバーであるルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグの対立関係が最高潮に達し、ふたりはフロントロウを分け合っていたからだ。

2014年F1モナコGP、予選でポール・ポジションを獲得したニコ・ロズベルグ(メルセデス・右)と2番手に甘んじたルイス・ハミルトン(メルセデス・左)
2014年F1モナコGP、予選でポール・ポジションを獲得したニコ・ロズベルグ(メルセデス・右)と2番手に甘んじたルイス・ハミルトン(メルセデス・左)


 レースは常にスリリングであるが、私は今回の結果がどれだけ重要になるかということをこのときはまだ予期していなかった。


 それまでの数レースにおいて、ふたりはチームオーダーに反して異なるエンジンモードを使用したとして、互いに不満を言い合っており、モンテカルロでその緊張感はすでに高まっていた。


 予選最後のアタックでロズベルグが非常に速いタイムを出すと、ハミルトンはそのタイムを上回ろうとしているように見えた。すると奇妙なことが起きた。


 ミラボーに近づいたロズベルグは、通常よりも0.5秒遅くブレーキングをし、エスケープロードに入ったのだ。これでイエローフラッグが振られた。


 イエローフラッグが出たということは、ハミルトンはタイムを上げる術がなくなり、ポールポジションはロズベルグの手中に収まることになる。


 それは誰の目にも、ほぼ2006年に行われたモナコGP予選セッションの繰り返しのように見えた。当時はミハエル・シューマッハーが意図的にラスカスでマシンを止めてイエローフラッグが出るようにし、ライバルのフェルナンド・アロンソに抜かれるのを防いだのだ。


 そのときのレーススチュワードは難色を示し、シューマッハーをグリッド最後部に追いやった。今回のスチュワードがロズベルグにどう対処するのかに注目が集まったが、なんと何もしなかったのだ。


 ハミルトンは(ニキ・ラウダが彼の側にいた)この状況に激怒したものの、FIAはロズベルグの行為には何も問題はないとした。ハミルトンとラウダは明らかに同意していなかったが、この件が昔ながらのモナコGPの場を作り上げた。


 モナコでのレース中、私はプレスルームの隅に立って窓の外を見るのが好きだ。そこからはラスカスの素晴らしい眺めと、コースのスイミングプールのセクションの大部分が見える。


 そんな見晴らしの利く場所で、私は近年のF1の歴史のなかでも最も拮抗した重要なバトルのひとつをつぶさに見ることができた。そしてそのバトルは痛烈な結末を迎えたのだが、それは当時認識されていたよりもはるかに重要な意味を持つ結末だった。


 レース開始前、いつものようにマシンたちがグリッドに並んでいくが、パストール・マルドナドのロータスだけはクラッチトラブルのためグリッド上にいなかった。


 そのことに気がつかなかったザウバーのエステバン・グティエレスと、2台マルシャ(マックス・チルトン/ジュール・ビアンキ)はフォーメーションラップの最後に間違ったポジションに並んでしまう。


 ビアンキはギヤボックスのペナルティのためにグリッド後方へ下がり、チームメイトのチルトンとケータハムの小林可夢偉の後ろからレースをスタートすることになっていた。もう一台のケータハムに乗るマーカス・エリクソンは、ペナルティを科されてピットスタートだ。

予選では19番手だったものの、ギヤボックスペナルティのため、最後尾スタートとなったジュール・ビアンキ
予選では19番手だったものの、ギヤボックスペナルティのため、最後尾スタートとなったジュール・ビアンキ

■数百万とチームの存続を賭けたバトルがスタート

 2014年モナコGPを私にとって忘れられないものにしたのは、レースの先頭集団のバトルではなく、このグループである。レースに臨む時点でケータハム、ザウバー、マルシャの獲得ポイントはゼロだった。


 つまりコンストラクターズ選手権における彼らの順位は、どのチームが上の順位でフィニッシュできるかにかかっていた。ザウバーのマシンはこの3チームのなかで少しの差をつけて速さがあり、オーストラリアGPではランキング11位につけていた。


 しかし、シーズンが進むなかでケータハムかマルシャのいずれかが10位入賞、もしくはそれ以上の結果を出してポイントを獲得すれば負ける可能性もあった。


 マルシャは2番目に速く、ビアンキがメルボルンとバーレーンで二度、13位でフィニッシュしていたおかげでチャンピオンシップでは10位につけていた。


 一方、ケータハムは明らかにグリッド上で一番遅く、マシンの見た目も悪い。実際、ケータハムCT05は、これまでに製造されたなかで一番醜いF1マシンと言われている。ランキングも最下位だった。


 グリッド後方のこの3チームすべてにとって、コンストラクターズ選手権を10位でフィニッシュすることは、数千万ユーロの分配金を手にするために非常に重要なことだ。


 そういうわけでこのときのモナコGPは先頭のふたりのメルセデスドライバーが世界タイトルを争って戦い、後方の6台は数千万ユーロを賭けて戦っていた。そして後に分かることだが、彼らはチームの存在自体も賭けて戦っていたのである。


 レースがスタートすると2台のメルセデスは後続をうまく引き離した。後方ではビアンキがチルトンを抜いて、可夢偉のすぐ後ろに。しかし、ロウズ・ヘアピンに入るところで、フォース・インディアの1台がスピンし、可夢偉はこれに巻き込まれそうになった。

レース1周目にジェンソン・バトン(マクラーレン)と接触しスピンしたセルジオ・ペレス(フォース・インディア)。このクラッシュでセーフティカーが導入する。
レース1周目にジェンソン・バトン(マクラーレン)と接触しスピンしたセルジオ・ペレス(フォース・インディア)。このクラッシュでセーフティカーが導入する。


 ダメージを避けた可夢偉に最後尾スタートのビアンキが迫り、ヘアピンに入るところで可夢偉は捕らえられたが、ケータハムのマシンは前に留まる。これが周回ごとに白熱していくバトルの始まりだった。


 1周目が終わるとき、ビアンキは明らかに可夢偉を抜こうとしていた。ビアンキのマシンは可夢偉のマシンと比較しても速そうに見え、追い抜くルートが見つけられないだけのように見える。


 周回ごとに繰り返されるこのバトルは、何度もマルシャに追い抜きのチャンスがあるように見えたが、ケータハムはどうにかしてそれを阻止していた。


 毎周回、私の前で繰り広げられる2台のバトルを見るのは本当に興奮した。


 レースが進むにつれ中団グループのマシンが脱落し始めていく。まずレッドブルのセバスチャン・ベッテル、そしてトロロッソのダニール・クビアトだ。


 後方のバトルの前で1台、また1台とマシンがリタイアしていった。そして、エイドリアン・スーティル(ザウバー)がクラッシュし、セーフティカーが導入されたため、ケータハムに希望が出てきた。


 さらにケータハムには良い知らせがあった。マルシャの2台とザウバーの残りの1台は、アウト・オブ・ポジションからのレーススタートを行ったために、5秒ペナルティを科されたのだ。


 セーフティカー導入中にほとんどのマシンがピットに向かった。ビアンキはピットストップ前にペナルティを消化したが、チームはどうやらこれがルール外であることに気づかなかったようで、ビアンキはレースの最後に2回目のタイムペナルティを受けることになってしまった。


 ピットストップ後にキミ・ライコネン(フェラーリ)がチルトンに接触してしまい、損傷部分を修理しなければならなかった。ライコネンはビアンキのすぐ前でレースに復帰した。


 レースがリスタートすると、ロズベルグは首位を保ち、ハミルトンは2番手だった。後方ではグティエレスが11位、可夢偉が12位、ライコネンが13位となっている。同じように窓からレースを見ている仕事仲間に向かって私はこう言った。


「後方のあのグループに注目していた方がいい。彼らのうちポイントを獲得できた1チームだけが何百万という分配金を取れるんだ」


 だが他の誰も注意を向けてはいなかった。(こんなに面白い展開なのに)

小林可夢偉の背後にジュール・ビアンキが迫ってきていた。この争いが後の運命を分けることになる。
小林可夢偉の背後にジュール・ビアンキが迫ってきていた。この争いが後の運命を分けることになる。


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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。



(Sam Collins)




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