セーフティカー後の再スタートは4周終了時点。オリジナルスタートとは逆に、ベッテルが守り、ハミルトンが攻める立場になった。グリーンランプが灯った直後の“リスタート”では、ベッテルはホイールスピンをして「最悪だった」と言う。ハミルトンがシケインに向かってベッテルの右側に並んだ所以だ。それでもベッテルに焦りはなかった──。オーバーテイクが許されるのは、ターン18〜19のシケインを抜けた後のセーフティカーラインを越えてからなのだ。
結果、シケインの進入でインからベッテルを攻めるかたちになったハミルトンはフロントタイヤを軽くロック、リスタートのラインでベッテルが逃げるのを許すことになってしまった。ハミルトンが振り返る。
「あれで最終コーナー(ターン19)のインサイドを取れたとしても、彼ら(フェラーリ)はストレートで僕らを抜いただろう。だから、僕は後ろに退いて離されないように努めた。でも、最終コーナーからターン1ですでに引き離されてしまった。僕がターン1を抜けた時には、彼はずっと前を走っていたよ」
ベッテルはラ・スルスの出口で「0.9秒のリード」とチームの無線を受け取っていた。
ベッテルの動きがどこまで意図的だったかは分からないが、スタートとリスタートのふたつの決定的な局面にはいくつものリベンジが含まれていた。
2017年のスパでは、オールージュに向かう下りでパワーに余裕のあるハミルトンがわずかにペースを緩めてフェラーリを引きつけ、結果、早く追いつきすぎたベッテルはメルセデスのスリップストリームをほとんど使うことができなかった。ケメルストレートがスリップなしのパワー勝負になると、フェラーリのデプロイが先に尽きてしまった。2018年は、ハミルトンが同じ思いを味わった。
一騎打ちの勝負で「タイミングを計ること」に成功したと、ベッテルは何度か説明した。リスタートに関しても、何度も駆け引きを繰り広げてきたライバルへの“返礼”に成功したのだ。そして──雨の予選では負けても、ドライでは自分たちのマシンが強いのだと証明できた。
フェラーリよりダウンフォースをつけたメルセデスはセクター2で速い。それは彼らのマシンにとって最速のラップタイムが可能な“最善の妥協点”ではあり、濡れた路面では有利に働くけれど、フェラーリのパワーが優勢ないま、メルセデスとてセクター1、セクター3のスピードを伸ばしたいに違いない。そこに制限をかけているのがタイヤマネージメントだ──。パワーユニットの圧倒的な性能差を使って、メルセデスはタイヤを守るセットアップを実現してきた。余裕を持ってダウンフォースをつけることが可能だった。だからセットアップに悩むことも少なかった。
ベルギーGPで3基目のICE(内燃機関)、ターボ、MGU-H(熱回生システム)を投入し、フェラーリが実現した進化を目にしたいま、メルセデスは2014年のパワーユニット規則導入以来初の、難問に挑むことになる。
スポーツの観点から見れば、ベルギーGPの焦点はハミルトンとの勝負を制したベッテルの活躍だった。その一方で、良くも悪くも注目を集めてしまったのはスタート直後の多重クラッシュ。
XPB Images
引き金を引いたのは18番手スタートのニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)で、ラ・スルスのブレーキングポイントを誤り、ほとんど制動できないままフェルナンド・アロンソに追突し、マクラーレンのマシンを宙に送ってしまった。舞い上がったマクラーレンはダニエル・リカルド(レッドブル)のリヤウイングを壊しつつ、シャルル・ルクレールのザウバーのハロを擦りながら真上を横切るように通過して大破。リカルドもマシンを滑らせ、キミ・ライコネン(フェラーリ)の右リヤに接触し、最終的には計5台がリタイアすることになった。