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ポルシェとレッドブルの因縁。F1交渉決裂を分析する【大谷達也のモータースポーツ時評】

2022年12月16日

 モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。今回は、ポルシェとレッドブルのF1参戦の交渉が決裂した背景を掘り下げてお伝えします。


* * * * * *


「ポルシェAGとレッドブルGmbHのパートナーシップは実現しない」


 そう題したプレスリリースをポルシェが発行したのは2022年9月9日のことだった。これによれば「過去数ヵ月間、ポルシェAGとレッドブルGmbHはポルシェがF1に参戦する可能性について話し合ってきた。ただし、両社は、この交渉が今後、継続されないとの結論に達した」という。

ポルシェのF1計画に関しては、2017年ごろにはすでにレッドブルとの提携のうわさが出ていた。2022年7月には、ポルシェがモロッコの関係当局にレッドブルとの共同事業計画を説明する書類を提出。この書類から、ポルシェとレッドブルが共同でPUを開発し、ポルシェはレッドブルのF1部門の株式50パーセントを取得する計画であることが判明。
ポルシェのF1計画に関しては、2017年ごろにはすでにレッドブルとの提携のうわさが出ていた。2022年7月には、ポルシェがモロッコの関係当局にレッドブルとの共同事業計画を説明する書類を提出。この書類から、ポルシェとレッドブルが共同でPUを開発し、ポルシェはレッドブルのF1部門の株式50パーセントを取得する計画であることが判明。


 これは実に奇妙な発表だった。


 なぜなら、「ポルシェがF1参戦に関してレッドブルと協議している」ことは、以前から噂レベルでは知られていたものの、どちらの側も公式には発表していなかったからだ。だから、交渉の決裂は残念ではあるものの、それ自体を敢えて公にする必要はなかったのである。

提携は確実と思われていたが、レッドブル側が次第に否定的な発言をし始め、ついに9月にポルシェが交渉終了を発表。
提携は確実と思われていたが、レッドブル側が次第に否定的な発言をし始め、ついに9月にポルシェが交渉終了を発表。


 では、なぜポルシェは、この異例ともいえる発表を行ったのか?
「交渉の決裂にポルシェがひどく怒っているから」


 これが関係者に共通した見解である。


 同じプレスリリースでは、「交渉を継続しない理由(=交渉が決裂した理由)」について、こう説明されている。


「両社の交渉は平等な立場を前提にしたもので、ここにはエンジン供給に関する内容だけではなく、チームの協力関係に関するものも含まれていた。ただし、この点で合意に至らなかった」


 この文章を“意訳”すれば、「ポルシェはレッドブル・レーシングにパワーユニットを供給するだけでなく、チームの株式を買収するつもりだったが、この話し合いが合意に至らなかったため、交渉は決裂した」となるだろう。報道によれば、ポルシェはレッドブル・レーシングの株式の50%を買収する計画だったようだ。


 いずれにせよ、交渉が決裂した理由が「株式買収の条件」であったことは、私が取材した複数のポルシェ関係者も証言している。さらに衝撃的なのが、交渉決裂のわずか2、3週間ほど前まで、ポルシェとレッドブルは「パートナーシップを発表する時期について話し合っていた」というのである。

クリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)。ポルシェに支配されたくないホーナーとマルコが株主に掛け合い、プロジェクトをストップさせたといううわさも。
クリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)。ポルシェに支配されたくないホーナーとマルコが株主に掛け合い、プロジェクトをストップさせたといううわさも。


 株式買収に関する交渉は、なぜ決裂に終わったのか?


 考えられるシナリオは、ふたつある。


 ひとつは、交渉の当初、ポルシェが株式買収の意図を隠していて、最後の最後になってこの条件を提示。これにレッドブル側が怒って破談に終わったというもの。しかし、株式買収はポルシェにとって譲れない一線だったので、交渉の前提として早くからその意思は示されていたはず。裏を返せば、これをレッドブルが明確に否定しなかったからこそ、交渉が“数ヵ月間”続いたと見るほうが自然だろう。


 もうひとつのシナリオは、「そもそもレッドブルはポルシェへの株式売却に積極的ではなかったが、それでもポルシェ製パワーユニットを手に入れるため、やむなくこの条件を呑む姿勢を示していた。しかし、ある時点でポルシェよりもいい条件でパワーユニットを入手する目処が立ったので、交渉を打ち切った」というものだ。


 私が取材したポルシェ関係者によれば、ミルトンキーンズのレッドブル・ファクトリーには、すでにパワーユニットの開発や生産のための施設が完成していて、新エンジンがベンチ上で回り始めているという。つまり、レッドブルは自前でパワーユニットを開発・生産する目処が立ったので、ポルシェとの交渉を打ち切ったというのである。


 いっぽう、この情報をもとにレッドブル側の取材を進めたところ、「たしかに2026年以降のパワーユニット独自開発を目指して施設を建設しているが、現状ではICEを組み立てる設備があるのみで、MGUK関連の施設はまだできていない」との情報を掴んだ。


 つまり、レッドブル単独のパワーユニット開発・生産は、まだ完全には準備が整っていないと見られているのだ。


 にもかかわらず、レッドブルとポルシェの交渉が不調に終わったのは、なぜか。そこに、外部の協力者の存在があったと見るのが合理的ではないか。


 そして、現在のレッドブルがもっとも信頼する「外部の協力者」といえば、ホンダ以外には考えられないだろう。


 2021年、マックス・フェルスタッペンにドライバーズ・タイトルをもたらす原動力のひとつともなったホンダ製パワーユニットは、今年ライバルを圧倒するパフォーマンスを発揮。レッドブルとフェルスタッペンにダブル・タイトルをもたらしたことはご存知のとおり。したがって、レッドブルがホンダの技術力を高く評価するのは当然といえる。

2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がタイトルを獲得、ホンダF1山本雅史MDらと記念撮影
2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がタイトルを獲得、ホンダF1山本雅史MDらと記念撮影


 けれども、レッドブルとホンダは2025年までのパートナーシップについては合意に達しているものの、新レギュレーションが発行する2026年以降については何のアナウンスもない。なぜなら、レッドブルとホンダの間には、簡単には埋めることのできない“溝”が存在しているからだ。

プライドをかけてF1参戦を目指すポルシェ、ウイリアムズとの交渉を加速。
プライドをかけてF1参戦を目指すポルシェ、ウイリアムズとの交渉を加速。


 次項では、レッドブルとホンダの間に横たわる“溝”に関して解説することにしたい。



(Text:Tatsuya Otani )




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