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F1界の『ドクター・ノオ』ことヘルムート・マルコと、夢を打ち砕かれた若者たち/F1コラム

2025年5月1日

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、レッドブルのモータースポーツコンサルタントとして、若手ドライバーの発掘と育成を担当するヘルムート・マルコが、いったんは起用しながら、その後、見限ったドライバーたちについて振り返った。

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 81歳のヘルムート・マルコは、元F1ドライバーであり、ル・マンの勝者でもある。彼はグラーツ大学で法学博士号を取得しており、それが彼のニックネーム『ドクター・ノオ』の由来の半分だ。もう半分の理由は、彼のレッドブルにおけるアドバイザーおよび才能発掘担当としての職務に関連している。マルコは、若手ドライバーや、キャリア初期のドライバーたちの野望を何度も打ち砕いてきた。

ヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)
2024年F1オーストリアGP ヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)

 一番新しい犠牲者はリアム・ローソンだ。彼はわずか2戦でレッドブル・レーシングからレーシングブルズへと送り返された。マルコ博士の忍耐力の短さにおいてこれは新記録ではあるが、公平な機会すら与えられずに外されたレッドブル傘下のドライバーたちの例は、他にも数多く存在する。


『ドクター・ノオ』はもちろん、1962年の最初のジェームズ・ボンド映画のタイトルで、この映画に出てくるドクター・ノオは優秀だが邪悪な学者という設定の悪役である。以下に挙げる多くのドライバーにとっては、F1界の『ドクター・ノオ』もまた悪役だ。角田裕毅が新たな犠牲者とならないことを願おう。

■クリスチャン・クリエン

クリスチャン・クリエン(レッドブル)とクリスチャン・ホーナー代表
2005年F1イタリアGP クリスチャン・クリエン(レッドブル)とクリスチャン・ホーナー代表

 クリエンは、レッドブルチームが2005年にF1デビューした際、ビタントニオ・リウッツィとマシンを共有していた。2006年には、デイビッド・クルサードの隣のシートをフルタイムで獲得。しかしそれも、イタリアGPまでだった。クルサードと比べてペースが劣るクリエンは、マルコからインディカーでの将来を提案されたが、それを断り、その結果、イタリアGP後にレッドブルから外された。


 その後、数年にわたり、クリエンは複数のF1チームでテストドライバーを務めた。2008年のル・マンでは3位に入り、現在もテレビ解説者の仕事と並行してGTレースで活動を続けている。


・レッドブルでのグランプリ出場数:28戦 | 最高位:5位

■ロバート・ドーンボス

ロバート・ドーンボス(レッドブル テストドライバー)
2006年F1フランスGP ロバート・ドーンボス(レッドブル テストドライバー)

 ドーンボスは、2006年シーズン終盤にクリエンのマシンを引き継いだ。中国GPでのデビュー戦予選でトップ10に入り、新たなキャリアにおいて好スタートを切った。しかし3戦後には、シーズンとともにF1キャリアも終了。その後、彼は会社を設立、現在はF1解説者を務めている。


・レッドブルでのグランプリ出場数:3 最高順位:12位

■ビタントニオ・リウッツィ

ビタントニオ・リウッツィ(レッドブル)
2005年F1フランスGP ビタントニオ・リウッツィ(レッドブル)

 リウッツィは2004年にフォーミュラ3000選手権を制し、2005年にはクリエンとマシンを共有した。リウッツィはF1初戦で8位に入りポイントを獲得したが、レッドブルでの出走は4戦にとどまった。2006年にはトロロッソに降格され、2007年限りでレッドブルファミリーを離脱。その後はフォース・インディアやヒスパニア(HRT)でF1を走った。現在リウッツィはFIAのレーススチュワードの一員である。


・レッドブルでのグランプリ出場数:4 最高順位:8位

■スコット・スピード

スコット・スピード(トロロッソ)
2006年F1サンマリノGPイモラ スコット・スピード(トロロッソ)

 ヘルムート・マルコは、これまでにトロロッソ、アルファタウリ、レーシングブルズと改名されてきたレッドブルの“セカンドチーム”の運営にも関与してきた。2006年、スコット・スピードは13年ぶりのアメリカ人F1ドライバーとしてトロロッソから登場したが、そのデビューシーズンは成功とは言えなかった。2007年も状況が改善せず、ヨーロッパGP後に解雇された。F1後、スピードはNASCAR、インディカー、フォーミュラE、ラリークロスに挑戦したが、大きな成果は残せていない。


・トロロッソでの出場数:28 最高順位:9位

■セバスチャン・ブルデー

セバスチャン・ブルデー(トロロッソ)
2008年F1オーストラリアGP セバスチャン・ブルデー(トロロッソ)

 ブルデーは2004年から2007年まで4年連続でインディカーシリーズ/チャンプカーを制し、2008年にトロロッソからF1参戦を果たした。だが彼は自らのドライビングスタイルをF1に適応させるのに苦しみ、わずか1年半後の2009年ドイツGP後に解雇された。彼のマシンはハイメ・アルグエルスアリが引き継ぎ、アルグエルスアリは2009年ハンガリーGPでF1史上最年少ドライバーとなった。ブルデーはその後インディカーに復帰し、複数レースで勝利を収め、2021年まで活動した。今年はキャデラックのWECチームで走っている。


・トロロッソでの出場数:27 最高順位:7位

■ダニール・クビアト

ダニール・クビアト(レッドブル)
2016年F1中国GP ダニール・クビアト(レッドブル)が3位獲得

 クビアトはレッドブルの支援を受けてジュニアカテゴリーを戦い、トロロッソでの有望なデビューシーズン後、2015年にレッドブルチームへと移籍した。しかし2016年の序盤に不振だったため、開幕からわずか4戦で“セカンドチーム”に戻された。2017年終盤にトロロッソからも外されたが、数年後に復帰し、2019年と2020年にチームで走行した。今年クビアトはランボルギーニのIMSAチームに所属している。


・レッドブルでの出場数:23 最高順位:2位

■ブレンドン・ハートレー

ブレンドン・ハートレー(トロロッソ)
2018年F1イタリアGP ブレンドン・ハートレー(トロロッソ)

 ハートレーは、フォーミュラ・ルノー2.0時代からレッドブルジュニアとして育成され、2017年終盤にトロロッソでF1デビューを果たした。F1キャリアは翌2018年末までの約1年で終了したが、彼は、ル・マン24時間レースで3度優勝、WECで4回タイトル獲得という成功を収め、現在もトヨタのWECチームで活躍している。


・トロロッソでの出場数:25 最高順位:9位

■ピエール・ガスリー

 2018年のトロロッソで有望なシーズンを過ごしたガスリーを、マルコは2019年にレッドブルに昇格させた。ガスリーは開幕から12戦のうち9戦でポイントを獲得したものの、シーズン半ばで早くも“セカンドチーム”に送り返された。2020年にアルファタウリで1勝を挙げて、2022年末にレッドブルファミリーを離脱。現在はアルピーヌで走っている。


・レッドブルでの出場数:12 最高順位:4位

■アレクサンダー・アルボン

 レッドブルがガスリーを降格させた際、アルボンがそのマシンを引き継いだ。しかし彼も1年半後にシートを失い、2021年にはドイツツーリングカー選手権(DTM)に参戦した。アルボンは2022年からウイリアムズF1チームに所属している。


・レッドブルでの出場数:26 最高順位:3位

■ニック・デ・フリース

 2022年イタリアGPでウイリアムズから代役出場した1戦だけで、マルコは、2023年にニック・デ・フリースをアルファタウリから走らせることを決めた。しかしその年の半ばに、デ・フリースは、レッドブルのベテラン、ダニエル・リカルドにシートを譲らなければならなくなり、短いF1キャリアを終えることになった。


・アルファタウリでの出場数:10 最高順位:12位

■リアム・ローソン

 2023年と2024年にセカンドチームで数戦、代役出場した後、リアム・ローソンは2025年にレッドブルのレギュラードライバーとなった。しかしわずか2戦でマルコと経営陣は彼を見切り、ローソンはレーシングブルズに戻された。


・レッドブルでの出場数:2 最高順位:12位

■成功を収めたドライバーたち

 マルコとレッドブルの経営陣は、多くの若手ドライバーのF1の夢を打ち砕いてきた。しかしその一方で、いくつかの解雇劇が偉大なF1キャリアの扉を開いたことも、また事実である。スコット・スピードの後任として2007年に登場したセバスチャン・ベッテルは、その後レッドブルで4度の世界王者となった。2016年にクビアトがトロロッソに降格された際には、マックス・フェルスタッペンがレッドブルのドライバーになり、その後、彼はこれまでに4度の世界選手権を獲得している。


 ローソンの後任として昇格した角田裕毅は今後、どのような道をたどるのだろうか。少なくとも『ドクター・ノオ』は、2025年シーズン末までは、角田のシートは保証されていると述べている。



(Text : Peter Nygaard)


レース

5/3(土) フリー走行 1:30〜2:30
スプリント予選 5:30〜6:14
5/4(日) スプリント 1:00〜2:00
予選 5:00〜
5/5(月) 決勝 5:00〜


ドライバーズランキング

※サウジアラビアGP終了時点
1位オスカー・ピアストリ99
2位ランド・ノリス89
3位マックス・フェルスタッペン87
4位ジョージ・ラッセル73
5位シャルル・ルクレール47
6位アンドレア・キミ・アントネッリ38
7位ルイス・ハミルトン31
8位アレクサンダー・アルボン20
9位エステバン・オコン14
10位ランス・ストロール10

チームランキング

※サウジアラビアGP終了時点
1位マクラーレン・フォーミュラ1チーム188
2位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム111
3位オラクル・レッドブル・レーシング89
4位スクーデリア・フェラーリHP78
5位ウイリアムズ・レーシング25
6位マネーグラム・ハースF1チーム20
7位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム10
8位ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム8
9位BWTアルピーヌF1チーム6
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー6

レースカレンダー

2025年F1カレンダー
第6戦マイアミGP 5/4
第7戦エミリア・ロマーニャGP 5/18
第8戦モナコGP 5/25
第9戦スペインGP 6/1
第10戦カナダGP 6/15
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