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【中野信治のF1分析/第14戦】リカルドとボッタスに共通するモンツァでの速さ。チャンピオンを争う2台の接触の見解
2021年9月19日
フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で解説します。今回の第14戦イタリアGPではマクラーレンのリカルドが3年ぶりの優勝を飾った一方、チャンピオンを争うフェルスタッペンとハミルトンが接触し、物議を醸すことになりました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
高速コースのモンツァ・サーキットで開催された2021年F1第14戦イタリアGPですが、まず予選ではトラフィックへの対応やトウ(スリップストリーム)の使い方がキーポイントになりました。モンツァは高速コースと言われていますが、中高速コーナーが多いわけではなく、直線が長いサーキットで、その直線と直線をシケインで繋いでいるようなコースレイアウトです。ですので、トウを使ったストレートからブレーキングにかけてタイムを稼げる部分が大きくなります。
高速コーナーが多いコースでは前車に近づきすぎるとダウンフォースを失ってしまいますが、モンツァは直線とシケインが基本なので、前車の乱流の影響を受けるコーナーは多くありません。一発タイムを出しにいくことを考えるとトウのアドバンテージの方がかなり大きいので、予選ではみんながトウを使いたがっていました。中継画面を見ていると、『こんなに離れた距離でトウの効果はあるの?』と感じるかもしれませんが、真後ろに付かなくてもトウの効果で2〜3km/hくらいストレートスピードは上がります。
モンツァはストレートが4本あるので、1本のストレートでコンマ1秒稼ぐことができれば、全体で見ればコンマ4秒稼いだことになります。ほかのサーキットなら前車に近づきすぎるとダウンフォースが出なくなってしまうので、コーナリングでタイムを落としてしまってプラマイゼロになってしまいますが、モンツァの特殊性を考えた結果、トウの効果が大きいので、みんながトウを使用したかったという訳です。
金曜の予選ではピットレーンでの混雑もありましたが、タイヤのセット数は当然、どのドライバーも似ていますし、そして路面が良くなったタイミングを狙おうとすると、コースに出るタイミングは自ずと重なってきます。全ドライバーが同じようなタイミングで最後の最後にアタックしたいということで仕方ないですよね。
予選の時間も限られていますし、アタックのタイミングを他車とずらしたドライバーもいましたが、結果としてはコース上のトラフィックに突っ込んでしまいタイムを失うということもありました。そういったことを考えると全体の流れに乗っかるしかなくなるので、すごく難しい問題です。『アタックのタイミングを他車とずらす』とひと言で言っても、実際にそこで好タイムを出すのは、相当難しいと思います。
その予選でのレッドブル・ホンダは、今回はセルジオ・ペレスがマックス・フェルスタッペンをサポートしていて、自分の仕事をしたという感じでした。ペレスもうまくトウを使えれば、あとコンマ3〜4秒はタイムが上がっていたかもしれませんが、今回はメルセデスとマクラーレンが速かったので、ペレスは少し可哀想でしたがトウを使わずにフェルスタッペンが少しでも上位に行けるようにサポートに徹しました。
メルセデスパワーユニット勢が速さを見せるなか、モンツァではバルテリ・ボッタス(メルセデス)がポールポジションを獲得しましたが、今回のボッタスは本当に伸び伸びと走っていました。高速コーナーが少ないサーキットでは、ボッタスは結構速い印象があります。モンツァは“高速サーキット”なのですが、高速コーナーが多いかというと、決してそうではありません。
4本のストレートとシケインで構成されたモンツァではブレーキングがすごく重要で、ブレーキングでクルマのバランスを崩してしまうと、トラクションが掛けられなくなるのでコーナー出口まで影響してしまいます。ブレーキングを安定させないと結局コーナー出口での加速が悪くなってしまいますし、クルマを縁石に乗せるコーナーもあります。そのあたりのクルマの姿勢の収め方が、もともと丁寧にブレーキングをして、丁寧にステアリングを切るボッタスの走り方に合っていた印象です。
ボッタスは高速コーナーでスピードを乗せていくサーキットになるとチームメイトのルイス・ハミルトンとの差が出てきてしまいます。モンツァはダウンフォースが少なくてブレーキングに繊細さが求められ、ガツンとブレーキを踏むドライバーよりも、ボッタスのように小技を利かせて丁寧に走るドライバーのほうがクルマの挙動を乱さずにブレーキングができます。
土曜のスプリント予選もボッタスが圧勝するのですが、僕はDAZNの中継でもスプリント予選レースに関して『良いんだか悪いんだか』と言ってしまいましたが(苦笑)、ドライバーにとってもどうなのでしょうね。周回数が短いので作戦で相手を上回るということが難しいですし、コースの特性によっては面白いことにもなるかと思いますが、今回のモンツァのようなコースだと意外に追い抜きもしずらい。
モンツァはもともとダウンフォースが軽いサーキットなので、前車の真後ろにつくとさらにダウンフォースを失ってしまい、肝心なところでのブレーキング、レズモや最終のアルボレートコーナーでも離されてしまうので、そこで離されてしまった距離が、ちょうどオーバーテイクを難しくしている距離感になっていました。相手のタイヤがタレてきたり何かミスをしない限りオーバーテイクは難しくなり、そうなると、どうしてもレースが単調になってしまいますよね。
結局、スプリント予選ではスタート勝負ということになってしまい、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)の接触、アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)のクラッシュなど、いろいろなリスクが1周目に集約されてしまいます。
このスプリント予選のやり方についてはチームとドライバーともに賛否両論あると思います。現地で見ているお客さんたちにとってはF1マシンがたくさん走ってくれるので良いのかもしれないですが、ただテレビ中継を見ている人たちも多いと思うので、どちらの方が興行としてポジティブに働くかというのが今後のキーポイントになっていくのかとも思います。
そして迎えた決勝レースですが、今回はマクラーレンの速さがとても印象的でした。本当に強いレースをしていて、ストレートスピードの速さというアドバンテージを活かして、フェルスタッペンを抑えつつ、ダニエル・リカルドが逃げていく展開でした。
モンツァではランド・ノリスよりもリカルドの方が速かったですね。これはボッタスの話と同じで、マクラーレンの2台ではノリスよりもリカルドの方が丁寧にクルマを走らせていると思います。ノリスの高速コーナーの走り方は特筆すべき点があり、フェルスタッペンに近いスピード感覚を持っています。ですが今回は高速コーナーが少ない部分と、マクラーレンのクルマ自体がモンツァに合っていたという両面でリカルドが上回りました。
リカルドがすごいのは、今回のようなチャンスを絶対に逃さないメンタルの強さです。レース中はかなりのプレッシャーを感じていたと思いますが、そのなかでも後ろとの間隔を見ながらタイヤをマネジメントしてトップを守り続けました。本人はレース後のインタビューで、「まさかトップを守りきれるとは思わなかった」ということを言っていましたが、それでも落ち着いたレース展開で本当にリカルドの真骨頂を見ましたね。
マクラーレンのマシンはダウンフォースを削っていてストレートスピードが速い、ということはマシンのコントロールは難しくなりますし、タイヤへの負担も大きくなります。そこをリカルドは前半は抑え気味でタイヤをうまくコントロールしながら走っていました。それはレース後半のラップタイム、そして最終ラップでファステストラップを記録したことからも分かります。最後までしっかりとタイヤを守って走っていましたが、そのあたりは本当にリカルドのいぶし銀のうまさです。
●チャンピオンを争うフェルスタッペンとハミルトンの心理状況と、1コーナーのソーセージ縁石
今回はどちらかというとノリスの方が攻めた走りをしていたので、タイヤが厳しかったのかなと思います。ノリスはレース中に「リカルドのペースが遅い」ということを無線で言っていて、フラストレーションも溜まっていたと思います。ですがリカルドは後半に向けてタイヤマネジメントをしていたわけで、最終的にはリカルドにファステストラップも獲られ、フィニッシュのときには距離的にも少し離されてノリスにとっては完敗でした。モンツァではリカルドの良いところが全部出ていましたね。
ノリスも悔しかったとは思いますが、頭を切り替えてレース後には「今回はリカルドのレースだった」と認めて、自分にもチャンスはまだまだこれから来るということで自分を納得させてポジティブにレースを終えていました。そう考えるとマクラーレンのふたりはすごく良いコンビですよね。若くてイケイケで速いノリスに対し、リカルドはすごく苦しい時間を過ごしていたと思うので、そういった意味ではリカルドにとって良いコンビかは分からないですが、チーム全体として見ると良いコンビだと思います。
トップチームというのはひとりをナンバーワン、もうひとりをナンバーツーという形に必ずなってくるので、そうなったときに、あえて『ノリスをナンバーワン』と言うのならば、リカルドはチームにとって、そしてノリスにとってもすごく良いパートナーだと思います。経験豊富でレースでも確実な仕事をするので、マクラーレンというチームにとっては理想的な組み合わせです。みんなあまりこの部分に気づいていなくて『リカルドが可哀想』となってしまいますが、チームにとっては最高の組み合わせになっています。
ただ、マクラーレンの流れは良いと思いますが、まだ課題もあります。前戦のオランダGPでもそうでしたが、ダウンフォース量が多くて直線がそれほど長くないサーキットに行くとまだ強さを発揮できていません。 ダウンフォースが少ない状況のなかではサスペンションの動かし方などのスイートスポットがピタッと合っていますので、ストレート重視のセットアップというよりも、マクラーレンのクルマ自体がもともとがそういった部分を狙って作られている気がします。マクラーレンのマシンは少しサーキットを選ぶ特性がありますね。
そして今回のモンツァではやはり触れなければいけないのは、決勝でのハミルトンとフェルスタッペンの接触です。レッドブルがフェルスタッペンのピットストップで大きくロス(約11秒)たこともあって、あの2台が並んで第1シケインに入っていくタイミングが起きたわけですが、お互い難しい判断だったと思います。最終的にFIAはフェルスタッペンに対して次戦の3グリッド降格ペナルティを科しました。ただ、僕も見ていて微妙な気持ちになったのが正直なところで、レーシングアクシデントなのかなとも思います。
【動画】第1シケインでのハミルトンとフェルスタッペンの接触シーンと両者のコメント
フェルスタッペンは「ハミルトンがスペースを残してくれなかった」という主張でしたが、実際はあのポイントでハミルトンがスペースを残すのは難しい状況でした。コーナーに入っていくときにはハミルトンが若干前にいましたし、さらに狭いターン1での横並びということで、チャンピオン争いをしているハミルトンが『はいどうぞ』という感じでフェルスタッペンにスペースを譲るわけがない。
そう考えると難しい問題でした。正直『当たらずに行けるかな』とも僕は思いました。おそらくハミルトンとフェルスタッペンもそう思ったはずですが、運が悪かったのはフェルスタッペンがシケインイン側、縁石の先のソーセージ縁石に乗ってしまったことです。フェルスタッペンがソーセージ縁石に乗って跳ねてしまったことでクルマが予測できない動きをしてしまい、制御不能となってハミルトンにぶつかっていました。
接触を避ける手段としてはターン1を直進するという手もあったのですが、あそこでハミルトンに前に行かれてしまうと、フェルスタッペン的には、今回はクルマが決まっているハミルトンに前に行かれると再度追い抜くのは難しいと分かっている。ハミルトンとしてもあそこで抑えておかないと、モンツァは抜きづらいサーキットなので抜けないので、もう当たるしかない状況ではありました。両者がお互いの状況を分かっているだけに、もうまったくシルバーストン(イギリスGP)での接触と同じ状況ですよね。
【動画】ハミルトンとフェルスタッペンの接触シーン、お互いの車載映像
ただ、シルバーストンでもそうでしたが、今回も『当てにいく』という感じではなく、ギリギリのところで何とか並んでいけるかなと思ったらフェルスタッペンがソーセージ縁石でクルマが跳ねてしまったという感じです。ですのでフェルスタッペンに対してのペナルティも次戦3グリッドダウンという比較的軽いものなので、とりあえずFIAとしてはペナルティを出さざるを得なかった。
そしてどちらが悪いかということになったとき、やはりぶつけた側のフェルスタッペンになります。あとはコーナーに進入したときにはハミルトンが若干前だったので、優先権はあくまでもハミルトンにあった……というようなペナルティだと思います。レッドブルもペナルティを受け入れているので、そのことを理解していると思います。ただ、今回大きかったのは、ハミルトンとフェルスタッペンのどちらかが生き残って優勝したわけではないので、シルバーストンのような舌戦にはならなかったですね。
そして最後に角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手ですが、今回は本当にどうにもならなかったといいますか、流れが本当にないなと思いました。予選でのトラックリミットによるタイム抹消の件もそうですし、決勝スタート前のトラブルも『メカニカルトラブル』ということで全体的な流れがなかったですね。
スタートできなかったことに関しては、今回は角田選手のフォールト(過失・失敗)ではないので可哀想ではありますが、今回はちょっと流れがなかった。2022年の残留契約も決まりましたが、来年があることで今季まだまだ思いっきりやれる部分がある一方、前半戦でいろいろと学んだこと、周りからもいろいろと言われたことが多いかと思います。
アプローチの仕方を角田選手なりに変えていると思うので、今は変化の過程なのだと思います。もともとのイケイケスタイルで行った方が良い部分もあり、一方でちょっと葛藤している部分もあると思いますが、ここを乗り越えていかないと本当の一流ドライバーにはなれません。もともとも持ち前の速さ、タイヤの使い方のうまさというのを本当に活かせるところまで今はできていないので、早くそのタイミングが来てほしいと思います。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano / autosport web)
関連ニュース
1位 | マックス・フェルスタッペン | 393 |
2位 | ランド・ノリス | 331 |
3位 | シャルル・ルクレール | 307 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 262 |
5位 | カルロス・サインツ | 244 |
6位 | ジョージ・ラッセル | 192 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 190 |
8位 | セルジオ・ペレス | 151 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 593 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 557 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 544 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 382 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | BWTアルピーヌF1チーム | 49 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
8位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 44 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |