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【気になる一言】活動終了の決定打はカーボンニュートラルの研究開発。一方で「F1との両立も検討した」 と山本MD
2020年10月10日
金曜日のFIA記者会見に、今シーズン初めてホンダの山本雅史(マネージングディレクター)氏が出席した。もちろん、先日ホンダが2021年限りでF1活動を終了すると発表したからだ。
木曜日のインタビューは日本のメディアに対して行ったもので、今回は海外のメディアからの質問に答える形となったため、いくつかはすでに伝えているものと同じ内容だったが、木曜日のインタビューでは語っていないものもあった。そこで、ここではそのコメントを紹介するとともに、それについての解説を行っていきたい。
まず、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が、2021年にホンダが投入するパワーユニットが元々2022年に向けて開発していたものだと明かしたことについて、山本MDは次のように回答した。
「レッドブルおよびアルファタウリといいパートナーシップが築けているので、社長も会見で言っているように、来年は新骨格エンジンを入れるために開発は続けます。そして、少しでも多くの勝利に向けて、両チームとさらにいいパートナーシップを構築し、来年はチャンピオンシップ争いをもう一度やりたいと思います」
これは2022年に向けて開発してきたものを、2021年限りでF1活動を終了するという決定にともなって、その技術と知見を1年前倒しして2021年用のパワーユニットに投入して見届けることになったという話だ。『新骨格エンジン』というと、大きく設計が変更されるようなイメージだが、車体側のレギュレーションが今年とほぼ同じなので、その部分においての設計変更ではなく、また2017年から踏襲しているフィロソフィも継続されるということなので、それ以外のなんらかを変更または改良を施した新スペックと考えていいだろう。
次に興味深かったのは、「最終的な発表の前に、ホンダが撤退しそうな状況はどれくらいありましたか」という質問だった。これに対して、山本MDは「難しい質問です」と前置きした後、こう続けた。
「昨年のアブダビGP直前(11月27日)に、レッドブルとアルファタウリと1年契約を延長した後、(ホンダ内で)様々な議論が行われたのは事実です。加速度的に訪れるカーボンニュートラルの時代に向けての研究開発とF1を両立することも検討しました。結果的にトップエンジニアを将来技術のための研究開発にシフトさせることになったため、F1を続けることができなくなりましたが、それは非常に難しい決断だったと思います」
じつはこの11月27日に1年延長を発表した直後に、アブダビGPで行われた囲み会見で、山本MDは1年延長という決定を下すまでの話し合いで懸案事項となっていたことについて、こんなコメントをしていた。
「オーストリアGPで勝ったものの、夏休み以降は、なかなか勝てませんでした。まだパワーユニットの性能ではメルセデスとフェラーリに負けているということもあり、経営メンバーからは『これからも勝てるのか?』と尋ねられました。それに加えて、思っていた以上にコストがかかっています」
「ただ、(2008年に撤退して7年間のブランクを経て2015年に復活した)ホンダとしては、ある程度のレベルに達するまでは開発を強化していかなければならなかったことも事実。その点に関しては、経営メンバーの許可をもらいながら、開発力を強くしてきました。ただし、そのバランスも考えなければなりません」
つまり、カーボンニュートラルが最終的な決定打となったとはいえ、今回の決定に至った背景には、ホンダの経営陣の間でF1活動が費用対効果を考えたうえで企業として魅力を感じるアクティビティではなくなっていたことが関係していたのではないだろうか。
■カーボンニュートラルを目指すF1からの撤退理由
次の質問は、まさにそんな疑問から出てきたものだ。その質問とは、「F1は2030年にカーボンニュートラルを目指しています。なぜそのF1からホンダは撤退するのか。またアメリカのインディカーはハイブリッドではないのに、なぜ継続するという発表をしたのか」というものだ。ホンダはF1活動終了を発表した翌日の10月3日に、インディカー・シリーズに対してエンジンを供給する複数年の契約延長に合意したことを発表した。
これに対して山本MDはこう回答した。
「ホンダは、FIAとF1が目指すカーボンニュートラルをリスペクトしています。カーボンニュートラルという大きな目標に向かって、ホンダもF1と同じ方向を向いていると思っています。ただ、ホンダは四輪だけでなく、二輪も含めて世界中に多くのカスタマーがいるので、加速度的にやってくるカーボンニュートラルの時代に向けて、早くトップエンジニアを投入し、新たな開発を行う必要があった考えています」
「インディ参戦の継続が発表されたことについてですが、インディはアメリカのHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)が独自に活動しているのに対して、(F1は)多くの研究開発で日本(の研究所)が中心になっているので、F1のトップエンジニアを投入せざるを得ないという結論となりました」
海外のメディアからも育成ドライバーの角田裕毅の今後を心配する声が少なくない。「角田選手がF1のシートを獲得するうえで、今回のホンダの決定はどのような影響を与えると思うか」という質問に対して、山本MDはこう回答した。
「個人的にはホンダの撤退は関係ないと思っています。レッドブルは厳しい目でジュニアドライバーを見ているので、F2の成績次第ですが、彼の努力に期待したいと思っています。もちろん、ホンダとしては最大限、彼をバックアップしたいと思っています」
ホンダの関係者がFIA会見でこれだけの質問を受けたのは今年は初めてであり、トロロッソとパートナーを組んだ2018年以降でも記憶にない。それだけホンダのF1活動終了はF1界にとっても大きなインパクトがある発表だった。

(Masahiro Owari)
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