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【中野信治のF1分析第1戦】予選で攻めきれないフェルスタッペン。アルボンとハミルトン接触のドライバー心理

2020年7月7日

 3か月遅れながら、ついに始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を、元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。とにかく話題の多かった開幕戦、今回の第1戦はメルセデスとレッドブル・ホンダにフォーカスして、両者の戦いを振り返る。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 今回のF1開幕を迎えるにあたって、コロナの影響で十分な準備ができないままのスタートとなりましたが、まずはF1関係者の努力、そしてファンの方の応援のおかげでこの開幕戦まで漕ぎつけられたこと、レース、F1に関わる者として本当にありがたいことです。もちろん、ファンにとっても開幕できたことはうれしいことですし、本当に関係者の方々、そしてファンのみなさまに感謝したいです。


 そして、こういう形でいつもと違った形でスタートした開幕戦。開幕戦というのは基本的にアクシデントやトラブルなど、いろいろなことが起こりますが、そう考えれば、第1戦のレースはある意味、開幕戦らしいレースでしたね(苦笑)。


 予選ではメルセデスの速さが際立っていました。春先のウインターテストの時から安定した速さがあるのはタイムを見て感じていたので、今年もメルセデスは強いだろうとは思っていましたが、そのウインターテストからコロナの影響で延期されて走れなかった期間、おそらくメルセデスはシミュレーターシステムなどを使ってセットアップや空力、足回りの開発を進めてきたと思うんですよね。


 その3カ月の期間がウインターテストの時以上の差を作ってしまったのかなと思いました。走れなかった期間があったことで技術力、最先端のシミュレーションシステムなどがうまく機能しているメルセデスとライバルチームの差が広がってしまったのかなという印象を受けました。


 一方、レッドブル・ホンダを含めた2番手以下のチームは勢力関係がごちゃごちゃで(苦笑)、絞って話すのが難しいくらいの状況でしたよね。


 その中でもやはり、マックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダに関しては戦い方という点でも予選Q2でミディアムタイヤを選択するなど他のチームとは違いましたよね。


 レースウイークに入ってからの練習走行を見て、レッドブル陣営はメルセデスとの差をある程度、理解して、「どういう戦い方をすれば速さのあるメルセデスに対抗できるのか」というポイントにターゲットを絞って、予選Q2である程度のリスクを取った。そこは戦略のうまいレッドブルらしいなと思いました。


 あれだけの速さがあるメルセデスも、予選Q2でソフトタイヤ以外の選択もあったと思いますし、ミディアムタイヤでもQ2を突破できたという声が多いとは思いますが、もしかしたらメルセデスはミディアムタイヤとの相性が良くなかったのかもしれません。


 結果的にメルセデスはソフトタイヤとハードタイヤで今回のレースを戦ったわけですが、ソフトとハードというのは一番コンサバな選択です。チームも膨大な量のデータを基に戦略を考えているなかで、ソフトとハードの選択は自分たちのなかで一番リスクも少ないという計算の元での戦い方になったのかなと見えました。


 そういう意味では、メルセデスもレッドブルもそれぞれの王道というか、今ある武器/パフォーマンスのなかでベストの作戦を選んで進めたのかなと思います。


 レッドブル・ホンダとフェルスタッペンについてはもうひとつ、予選の走りを見ていても、コーナーのアプローチなどまだまだ攻め切れていない部分が見られました。練習走行1回目、2回目にもスピンをしていて、ウインターテストの時から出ているマシンの症状(若干ピーキーなマシン挙動)だと思いますが、それが今回のオーストリアでも出た形なので、クルマはそこまで改善はされていないのかなと。一発の速さに苦しんでいる印象がフェルスタッペンのドライビングから感じました。


 予選ではフェラーリのパフォーマンスが良くなかったのも予想外でした。ここまで良くないというのはビックリでしたね。パワーユニット(PU)/エンジンがパワー不足という声も聞こえてきましたし、実際、直線スピードの数字を見ても最下位に近いレベルですし、同じフェラーリPUを搭載するハース、アルファロメオのパフォーマンスもイマイチでした。


 予選でのフェルスタッペンとルクレールの差がコンマ4〜5秒。このオーストリアの短いコースでのコンマ4〜5秒は本当に大きな差ですから、これから距離が長いサーキット、PU全開率が高いサーキットに行った時にはもっと差が広がってしまうことを考えると、ちょっと心配になってしまいます。やはりこれまでの歴史的にも、フェラーリが速く走ってくれないとF1は盛り上がりずらいですからね。

■さまざまな視点で見えるレース終盤のアルボンとハミルトンの紙一重の攻防戦

 決勝レースですが、ドライバーにとっては待ちに待った開幕戦だったので、それまで溜まっていたものを爆発させたかのようにアグレッシブでしたよね(苦笑)。レースを見ている側としても、あれだけアグレッシブに攻めてくれると気持ちがいいですよね。


 ただ、開幕戦ということもあってマシントラブルが多かったのは残念ですけど、それまで走行機会が少なかったことで起こるべくして起きたということも含めて、開幕戦らしい展開でした。


 見ている側、応援しているチームにトラブルが起きてしまうともちろん残念ですけど、レース全体の流れとしては、開幕戦のレースはいろいろなことが起こり得るということを改めて考えさせられました。レースはやはり速さだけでは結果は出ませんし、どんなに前評判が高くても決勝で走り出してみないと分からない。


 決勝ではペナルティやセーフティカーなどいろいろあったなかで結果的にメルセデスが2台とも速かったわけですが、レッドブル・ホンダにも勝てるチャンス、可能性は十分にあったと思っています。


 予選ではフェルスタッペンよりコンマ5秒以上もメルセデスが速かったので、決勝でもメルセデスのワンサイドゲームになるのかなと思いましたが、レースが始まって序盤戦を見ると2番手でミディアムタイヤのフェスルタッペンがトップのソフトタイヤのバルテリ・ボッタス(メルセデス)にコンマ3秒差で付いて行けていた。燃料が重い時のレッドブルのクルマのバランスはそれほど悪くないのかなというのは見て取れましたし、意外とレースでは戦えるのかなと思いました。


 ですので、あのトラブル(11周目に電気系トラブルでリタイア)がなければフェルスタッペンにもレース終盤にチャンスがあったかもしれないですよね。そう考えると見ている側には期待を持たせてくれた序盤でしたし、次の2戦目にも楽しみがあります。


 レース終盤のアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)にもチャンスがありました。ルイス・ハミルトン(メルセデス)との接触については(セーフティカー明けの61周目のターン4で2番手ハミルトンとアウトから抜きに行ったアルボンが接触。アルボンがスピンし、ハミルトンは2番手をキープするも5秒追加のペナルティ)、いろいろな見方があると思います。


 アウトからオーバーテイクに行ったアルボンが前に出ていたこともあるので、結果的にハミルトンがペナルティを受けることになりました。ハミルトンも避けようと思えば避けれたと思いますが、あのターン4の右コーナーは僕も走ったことがあるのでよく知っているんですけど、映像で見るよりもすごくタイトなコーナーなんです。


 下りながらの右コーナーで出口のコース幅もタイトなので、よほどイン側のクルマがジェントルに完全にスピードを落としてラインを譲らないと、アウト側からマシンが抜くのは本当に難しいコーナーなんですよね。


 そこで言い方が難しいですが(苦笑)、アルボンとしては相手がハミルトンで、アルボンとしては「俺が前に出ているし、相手が譲るべき」と主張するのはもっともだと思いますし、ハミルトンもレース後のインタビューで答えていたように「レーシングインシデント(ペナルティにはならない出来事)」を主張するのも、コースの特性を知っている僕からすれば一理あると思います。


 あの2番手、3番手を争っている状況で、あのタイトな4コーナーでラインをそこまではっきりと譲るというのは、なかなか難しい。コーナーで外側からオーバーテイクに行くというのは、そもそもリスキーですし、さらにその相手がハミルトンだったならば、僕ならもう1周待って、次のストレートエンドのターン3で抜くとか、DRS(ドラッグ・リダクション・システム/後ろのマシンのリヤウイングが可変して直線速度がアップするシステム)が使えるようになった段階で抜くとか、タラレバですけどいろんな角度から、いろいろな見方ができると思いますが、より確実に抜くにはもう少し待った方がよかったのかなと思います。


 もちろん、アルボン側としてはグリップが残っているのソフトタイヤに代えていて、前のメルセデス2台は周回を重ねたハードタイヤを装着していた状況なので、セーフティカー明け(スロー走行でタイヤが冷えた状況)のあの61周にタイヤのウォームアップに優れているソフトタイヤの優位性を最大限に使うために、早い段階でオーバーテイクしたかったというのもすごくわかります。


 あの段階でアルボンのソフトタイヤのアドバンテージは絶対的にあったと思うので、もうちょっと待ってもハミルトンは抜けたと思いますし、もしかしたらその先のトップのボッタスも抜いて勝てたかなと思います。もちろん、そこで待ったことで、メルセデス2台のハードタイヤが温まる時間ができてオーバーテイクができなくなるかもしれないという見方もあるし、あの状況での判断は本当に紙一重だったと思います。


 結果としてハミルトンがペナルティを受けて、ハミルトンが悪いとレーススチュワードは判断したわけですが、アルボンのレースとしても勝つチャンスを失って実質リタイヤとなりました。 
 
 そう考えると、やはりあのタイトなターン4でハミルトンを相手にアウト側からオーバーテイクに行くのがいかにリスキーなことなのか。ハミルトンが簡単にジェントルに譲るドライバーなのかということと、以前にもアルボンはハミルトンとコース上でいろいろあった関係ですから、もちろん正解はわかりませんが、非常に難しい判断だったと思います。


 ちょっと遺恨は残ってしまいましたけど、見ている側としては今後もアルボンとハミルトンのライバル関係は見どころになりますし、やはりモータースポーツはこういった人間模様も魅力ですよね。もちろん接触を期待するわけではないですけど、ヘルメットをかぶっているドライバーのお互いの心境が透けて見えるような、そういう人間ドラマはもっともっとあっていいと思います。


 メルセデスとレッドブル以外にも、マクラーレンやフェラーリなどいろいろと見どころが多かった開幕戦ですが、今回はこのあたりで、次回また、第2戦以降で触れられればと思います。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2019年からTEAM MUGENの指揮を執る中野信治監督
2019年からTEAM MUGENの指揮を執る中野信治監督



(Shinji Nakano/まとめ:autosport web)


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5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム86
6位BWTアルピーヌF1チーム49
7位マネーグラム・ハースF1チーム46
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