50回目の勝利を誰かに捧げるなら、これまでの勝利と同じようにその相手はひとりの個人ではなくチーム、マラネロのメンバーだと答え、こう付け加えた。
「そしてカナダのファン、カナダのティフォシに──」
自らの“50勝”や“選手権首位”よりも「ジル・ビルヌーブ・サーキットでフェラーリが勝ったこと」に大切な意味があるのだと、セバスチャン・ベッテルは強調した。
「スクーデリア・フェラーリにとって、ジル・ビルヌーブが持つ意味は計り知れない。そしてカナダのモータースポーツもまた、ジルの名前とは切り離せないものだ。集まった観客の多くは彼の時代からのファンや彼らの子供たち、あるいは今では孫の世代も加わっているかもしれないね。ジルが残した遺産が、こうして受け継がれているんだ」
フェラーリのマシンがモントリオールで勝利したのは、2004年ミハエル・シューマッハー以来のこと。
「カナダのファンはずいぶん長くこの勝利を待っていたと思う。彼らの前で、フェラーリが今も元気で、今も勝てるチームであると披露できた。そこに参加できて、僕は心から誇りに思う。78年のカナダGPでジルが勝利したマシンをジャックがドライブしたのはすごく感動的だった。そして、レースではフェラーリのマシンが優勝した──。今日は偉大なジル・ビルヌーブを思い出すための1日だ」
カナダGPの週末、モントリオールのダウンタウンではグランプリを歓迎するイベントがあちこちで開催され、賑わう街はF1色に染まる。でも、フェラーリのドライバーなら必ず気づくはず──。カラフルな色合いの多くを、やっぱり“赤”が占める。目抜き通りには、北米の各地から集ったフェラーリのロードカーが並ぶ。
ストップ&ゴーのレイアウトでは、多くのコーナーでドライバーの真正面に満員の観客スタンドがそびえる。ブレーキングに集中する時には目に入らなくとも、無数に揺れるフラッグや歓声に向かって飛び込んでいく感覚をドライバーは味わう。