マクラーレン・ホンダが3Dプリンター大手のストラタシスと4年間のパートナー契約を結んだというニュースがありました。最近では一般家庭でも3Dプリンターに手が届くようになってきましたが、F1チームも使用しているのでしょうか?
F1界では、少なくとも10年以上前からこうした技術が活用されていました。その主な使用目的は、新型パーツの試作品の製造です。
風洞実験を行なう場合、まずは50%や60%サイズの風洞モデルを実際に製造しなければなりません。古くは粘土や木材、カーボンなどを使って製造していましたが、製造の手間が掛かるうえに精度の面でもばらつきがありました。
そこで使用され始めたのがラピッドプロトタイピングと呼ばれる技術です。3Dプリンターという名前が一般的になる前で、当時はかなり大がかりな装置を用いて、CAD(コンピュータ設計)データに基づいてピラミッドのように樹脂を積層させていきその断面形状の集合体としてパーツ形状を作り出すものです。
これならばCADデータを作成すればあとは機械任せで数時間もあればひとつのパーツが完成します。2009年限りでF1から撤退したトヨタのファクトリーにも、当時すでにこの装置が導入されてフル稼働していました。
通常、マシンパーツの設計はCADで行ない、それをCFD(コンピュータ風洞)にかけて空力性能を確認し、絞り込まれた有望な候補だけが実際に製造されて風洞実験にかけられ最終確認が行なわれます。それだけ風洞モデルの製造には時間と手間が掛かっていたからです。
しかしラピッドプロトタイピングが実用化されてからは変わってきたといいます。
「以前であれば風洞にかけるのは本当に有望なパーツ案だけに限られていた。しかし風洞モデルがラピッドプロトタイピングで簡単に製造できるようになれば、次々に製造して試すことができる。今は風洞実験の時間制限が強化されているからCFDの重要性も実走とのコラレーション精度を上げることの重要性も増しているが、思い立ったその瞬間にすぐにパーツをかたちにできるメリットは計り知れない」(あるチーム関係者)
現在は風洞実験も実走テストも制限されているため、場合によってはラピッドプロトタイピングで製造したパーツをそのまま実車に付けて金曜フリー走行などで試すことさえもあります。2016年にも実際にマクラーレン・ホンダやルノーなどいくつかのチームがこうしたトライをしている場面が見られました。
一口に3Dプリンターと言っても、数万円で購入できる市販品と数千万円はする業務用とでは大きく異なります。より大きなサイズのパーツを製造できるのはもちろん、積層の解像度や速度が優れ、より精度の高いパーツをより短時間で製造できるのです。すでに上位チームはどこもこうした高性能の3Dプリンターを駆使していますから、今回の契約によってマクラーレン・ホンダが大きなアドバンテージを得るということではありませんが、大手のストラタシスの製品を常に最新のものに置き換えながら無料で使用できるという金銭的なメリットを享受することになります。