初日は出遅れていたように見えたニコ・ロズベルグが、最後に笑った
Sutton
追い上げるハミルトンの場合、異常なエコモードは突然に始まった。バクーは燃費に厳しいレイアウトではあるが、エネルギー回生的にはスパに続いて1周の距離が長いこと自体が難題──バッテリーからの放出は、どのサーキットでも同じ、1周あたり4メガジュール(バッテリーを空にしないため、事実上は2メガジュール)に制限されているため、スパやバクーのようなコースではMGU-Hから直接MGU-Kに送られるエネルギーに依存するところが大きい。初コースのバクーで、メルセデスのあるモードはMGU-Hの作動に関するセッティングを誤っていた。最大限の出力が必要な区間でMGU-Hがエネルギー回収を始め、その結果タービンの力が奪われ、ICEの出力が落ちて、ハミルトンに「ERSが働いていない」印象を与えたのだ。
ピットでは正しいモードに復帰する手順を把握していても、それをドライバーに伝えられないのが今年の無線制限の厳しいところ。一時はブレーキの踏み方までピットから指示し、その無線を大々的に流してファンをがっかりさせたF1は、今度は反動として「何も伝えるな」という極端な規制をしいた。ごく自然に、スポーツとして何が素敵で何が格好悪いのか判断するバランス感覚を失っているから「教えて」「言えない」という、ある意味では可笑しい、しかし普通の人間が聞くとドライバーもエンジニアも“格好悪く”見えてしまうやりとりを世界に向けて流してしまう。誤作動という問題が起こっているのだから、ピットからの指示は自由に行えていいはずだ。最小限でも、サインボードという古典的な方法による指示は許容されるべきだ。
このハミルトンのトラブルにも助けられたが、予選で2位のタイムを記録したペレスの速さはレースでも発揮された。大きなダウンフォースに慣れているレッドブルはストレート速度を向上するためにダウンフォースを削減した結果、日曜の高い路面温度が影響してリヤタイヤのオーバーヒートという問題を抱えたが、金曜日から好調だったフォース・インディアの週末の流れは、ロズベルグの場合と同じように順調。中速で回り込むようなコーナーのないバクーのコースにフォース・インディアの弱点はなく、エンジニアたちは自分たちのマシンが最も快適に走れるセットアップが、そのままバクーの速さにつながる理想の形を見出してきた。
フリー走行3回目の最後のクラッシュは、ペレスにとって悔やんでも悔やみきれないミス。メカニックは予選までの短い時間で、クラッシュ前と寸分違わぬマシンを再現したが、予選のペレスは、まるで、自らの後悔とチームの結束力をも速さに変換したかのよう──ギヤボックス交換によって5グリッド降格のペナルティを負ったレースでも、スタートではターン1でミスしたフェリペ・マッサをかわし、ターン2でダニール・クビアトの前に出ることに成功した。その後リカルドのピットインによって4位まで挽回した時点から、事実上はゴールまでキミ・ライコネンとのレースになった。
ペレスがもともと得意とするタイヤ管理のレースである。ライコネンは8周目にタイヤ交換していたが、ペレスはグレイニングに苦しみながらステイアウトすることを決断。9周目まではタイムを落としたものの、グレイニングが解消された10周目以降は見事にタイヤ性能を取り戻して16周目まで踏ん張ることに成功した。ソフトに履き替えたあとはハミルトンの攻撃にもさらされたが、それも一瞬。最終的には、8周の履歴差とフォース・インディアの速さ、プラス、自らの強い意志=集中力によって、最終ラップでフェラーリをオーバーテイクし、コース上で3位ゴールを決めた──ライコネンが5秒加算のペナルティを負っていることは知っていても、最終ラップのターン1で抜くことに「リスクはなかった」とペレスは言い切った。