あるチームのタイヤエンジニアは「残り約30周というのはミディアムタイヤでギリギリいける範疇。3ストップ作戦はコース上で抜かなければならず、本当に速さに自信がなければできないギャンブル的な戦略だ」と指摘する。ベッテルとフェラーリは前を行く2台のレッドブルを攻略することに気をとられすぎた結果、3ストップ作戦というミスジャッジをしてしまった。そしてミディアムでの遅さが、それに輪をかけてしまったというわけだ。
「セバスチャン、良い仕事をしたよ、心配するな」
マウリツィオ・アリバベーネ代表が声をかける。しかし優勝のチャンスが目の前に転がっていただけに、ベッテルのくやしさは、なかなか消えなかった。
「勝てなかったのは残念だよ。レッドブルは最終セクターが僕らよりも速くて、オーバーテイクするのはとても難しかったんだ。彼らのほうがリヤに苦しんでいなくて、ターン12と最終シケインが速かった。それがオーバーテイクができなかった理由だよ。やれるだけのことはやったよ。みんな、グラッツェ(ありがとう)」
3ストップ作戦を採ったベッテルを“カバー”するために、レッドブルは「もしセバスチャン(ベッテル)がクリーンエアで走れば、彼がコース上で最速だと思われた。だから2台のうち、どちらかが(3ストップに切り替えて)セバスチャンをカバーするかどうかという戦術的な決断を下さなければならなかった」と、レッドブルのクリスチャン・ホーナーは説明する。
その犠牲となって優勝を逃したリカルドを気づかって、ホーナーが言った。
「すまなかった、今日は戦略がうまくいかなかった。いまは辛いだろうけど、君の番もいずれやってくるよ、大きな順番がね」
速さでは勝っていたのに、戦略で勝利を逃したフェラーリ。最速のマシンではなかったが、戦略と巧みなドライビングで勝利をもぎとり、リカルドは最後のパンクがなければ3位表彰台を手にしていたであろうレッドブル。ホーナーが「今後は毎戦フェラーリと戦っていける」と豪語するとおり、どう勢力図が動いていくのか、目が離せない。
(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)