2台のメルセデスに1台で対抗することになったのはライコネン。それでも、首位を守ってハミルトンを引き離すことができたなら、1台で戦うハンデは重くはならなかったはずだ。ところが周回を重ねると、予測に反してフェラーリの方がタイヤに苦しんだ。真後ろを走るハミルトンは、第1スティントですでに「キミが少し苦労している様子が見えたから、1秒前後の間隔でついていくことができた」と振り返る。乱気流を受けながらも、「タイヤを保たせることができたのには驚いた」とも。
メルセデスの“フェイクピット”に誘われ、20周終了時点という早い段階でライコネンをピットインさせてしまったのはフェラーリのミス。ただ、キミのタイヤに十分な余力が残っていれば、スクーデリアがアンダーカットを恐れる必要はなかったはずだ。
パラボリカの特徴は、F1の他のコーナーと異なって入り口で最も減速し、大きな弧を描きながら加速していく高速コーナーであることで、左リヤには大きな負担がかかる。メルセデスにDRSを使わせないため、ライコネンはパラボリカ手前のDRS検知ポイントで1秒以上の間隔を保たなければならなかった。そしてホームストレートでできるかぎりスリップストリームを使わせないためには、全力で加速しながらパラボリカを抜けることが必要だった。
手前のアスカリでも、レズモでも然り。ハミルトンがついてくるかぎり、ライコネンとてタイヤを守ろうにも守れる区間はなかったのだ。
もちろん、第2スティントで33周も走ることがなければレース後半にあれほど苦しむことはなかったし、ステイアウトしたボッタスに前を抑えられなければ、タイヤ交換直後のハミルトンが5.2秒の遅れを5周で取り戻すことも不可能だった。追い上げるためには、ハミルトンもまたタイヤを酷使しなければならなかったはずだ。
Sutton
メルセデスの、完璧な作戦勝ちだった。そしておそらく、スーパーソフトでもソフトでも、メルセデスはフェラーリを上回る速さを備えていた──。速いマシンがあってこそ、作戦の成功率は高くなる。スパで抱えたタイヤ管理の問題を、彼らは驚くべき短時間で解決してきたのだ。