F1なんて、マシン性能の差を考えればもともと不平等なスポーツだ。前方からスタートするほどリスクが小さいのも当然──。ただしバクーの欠点は、コース幅が狭く逃げ場の選択肢が皆無なことによって、トップグループにいないハンデが他以上に大きくなることだ。
ターン2〜3はスタート直後のボトルネックで、接触があると後続のすべてが影響を受けてしまう。デブリはウォールで跳ね返ってコースを覆うため、避け切れるラインもない。
レース序盤、エネルギー供給の不調に悩んだレッドブルの2台は、問題が解決されると本来のペースを取り戻した。6周目のリスタート直後、ターン2でインに飛び込んだマックス・フェルスタッペンにダニエル・リカルドがスペースを譲って以来、2台は僅差で走行を続けていた──。基本的には、DRSを使えるリカルドの方がラップタイムは速いものの、ターン1出口でチームメイトをアウトに押しやるフェルスタッペンのブロックは強固。しかしピットイン前の35周目には、ついにリカルドがオーバーテイクに成功した。
この時点でリカルドが“ファーストカー”、フェルスタッペンが“テールカー”になったことが接触への伏線となった。
レッドブル内の基本ルールでは、ファーストカーがプランAを遂行する。テールカーにはギャンブルに賭ける選択肢もあるが、2台が同じプランAで走行するかぎり、先にピットインするのはファーストカーだ。
36周目の2台の間隔は1.1秒。ところがリカルドは37周目のインラップで、セクター2からピット入り口まで周回遅れのピエール・ガスリーにペースを抑えられてしまう。対するフェルスタッペンはタイミング良くストレートでガスリーをクリアし、リカルドより0.7秒以上速いペースでインラップを走行──。リカルドがアウトラップで少し苦労しただけで、フェルスタッペンが前に出るには十分だった。
6周目から続いていたチームメイト間の攻防は、再びフェルスタッペン−リカルドのオーダーになった。リカルドにとって、タイヤがフレッシュなスティント序盤、39〜40周目のストレートでのアタックは“ワンチャンス”。
予選の区間タイムやスピードから想像してもリカルドの方がレース重視、ストレート速度重視のセットアップで、その分、ターン16手前ではフェルスタッペンに離されてしまう──。立ち上がりで間隔が開いているぶん、オーバーテイクを仕掛けるタイミングがターン1直前になってしまうのだ。
40周目に入るホームストレート、リカルドが仕掛けようとしたタイミングは、35周目のケースよりも遅かった。フェルスタッペンの反応も35周目とは違って、右に動いてフェイントをかけたリカルドを牽制するように右に動いた。
直後に左に進路を取ったリカルドに対して、問題はフェルスタッペンが再び反応して左のラインを塞いだことだった。左にはウォールが迫り、ターン1は目の前。すでにブレーキングに入っていたリカルドに、接触を回避する方法は残されていなかった──。タイヤをロックさせながら精一杯フェルスタッペンの真後ろにマシンをつけ、タイヤ同士の接触を避けたのは、きっとリカルドの生存本能だ。