【レースの焦点】チームの士気を高める最高のアクション。アロンソが魅せた“勇敢な”レース
2016年10月24日
1年前のオースティンを思えば、3日間晴天に恵まれたことが何よりの贈り物。青空の下、USGPはアメリカ国歌独唱と軍用ヘリのフライオーバーという、このうえなくアメリカらしい感動的なセレモニーで始まった。
苦手だったターン1を「自分のものにして」ポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンは、レースのスタートも完璧に決めてオースティン3連覇。ニコ・ロズベルグはタイトル争いへのダメージを最小限に抑える2位を飾った。スーパーソフトのスタートで果敢に攻めたダニエル・リカルドはバーチャルセーフティカーのタイミングが災いし、ロズベルグに2番手を譲ることになったけれど……表彰台では青空を映すように爽やかな笑顔。
「スタート前の国歌は本当に素晴らしくて鳥肌が立った。そしてレース後の表彰台は最高にクール。VSCのおかげで2位を逃がしてしまったけれど、がっかりはしていない」
ドライバーがこう言えるほど、オースティンは祝祭の空気に包まれていた。コースサイドに並んだモーターホーム、芝生にデッキチェアを並べる観戦スタイル、いくつものチームカラーが仲良く肩を並べるスタンド――アメリカのポジティブが集まったUSGPを締め括るように、苦労を重ねたハースチームが久しぶりの貴重なポイントを獲得した。
マックス・フェルスタッペンのギアボックスにトラブルが発生したのは29周目。スロー走行でなんとかピットに戻ろうと努めたものの叶わず、ターン18でマシンを止めることになってしまった。普通なら、コースマーシャルがすぐにガードレールの外までマシンを押していけるはずの場所だ。ところがニュートラルに入れたはずのマシンは何故かスタックして動かず、重機が必要となったためVSCが導入されることになった。
このタイミングがベストに働いたのがメルセデスで、最強のチームにVSCまでが味方したため、トップグループの争いには事実上ここで決着がついてしまった。
一方、このVSCのおかげで接近戦が生まれたのは6位〜8位のグループ。6番手を走っていたフェリペ・マッサがVSC直前の29周目にピットインしたのに対して、7番手カルロス・サインツと8番手フェルナンド・アロンソはVSCが導入された30周目にピットイン。8秒程度の間隔があったマッサ‐サインツのポジションが逆転した。
マッサの敗因は、VSC終了直後に一気にトロロッソを攻撃できなかったこと。逆に、ソフトを履いたサインツはVSCが終了すると同時に自己ベストタイムを記録し、ウイリアムズをDRS圏外に留めることに成功した。
26周もたせなければならないソフトタイヤでスティントの最初に攻めるのは勇気ある、賢明な判断。ストレート速度でトロロッソを大きく上回るウイリアムズだが、マッサは低速コーナーからの立ち上がりで引き離され、DRS圏内に入ることができず、サインツのタイヤ性能が低下することに賭け、自らのタイヤを労わって走行するしかなかった。
38周目には4番手を走行していたキミ・ライコネンがピット作業のミスによってリタイア。サインツ対マッサの戦いは5位争いとなり、ふたりが接近して走る間に7番手アロンソが徐々に間隔を詰めてきた。コース上にいても、まるで上空から見下ろすようにレースの展開を読めるのがフェルナンド・アロンソの奇跡の“視界”――ウイリアムズは、ここに至るまでに何としてでもマッサをサインツの前に出しておくべきだったし、マッサも覚悟を持ってアタックしておくべきだった。前を塞がれた状態でアロンソが迫って来れば、ロックオンされたのも同然なのだから。
46周目にマッサの後方1秒以内まで迫ったアロンソは、そこから5周の間、前の2台を静観した。「ウイリアムズを抜くには、たとえば低速の狭いコーナーで、かなり力強く攻めなければならなかった」
51周目のターン15、マッサがインを大きく開けたところでアロンソは無理なくウイリアムズの左に並んだ。ターン16の進入は並走するかたちでアロンソがイン、マッサがアウト。ところがマクラーレンのマシンを見ていなかったのか、マッサがインに切り込んで2台は接触してしまう――アウト側から大きな弧を描いてアプローチしたマッサにとっては「すでにコーナーのラインを取っていたところにフェルナンドが突っ込んできた」状態かもしれないが、手前のコーナーですでに並んでいたアロンソが「僕が横にいるのにフェリペがドアを閉めてきた」と訴えるのも当然。接触によって2台はコース外までオーバーランしたものの、アロンソが手に入れたポジションを守った。
アロンソらしく勇敢で緻密な、最高のオーバーテイクだった。もし、アロンソがターン15でマッサのインに入らないとしたら、あるいはターン16で大きく減速して退くとしたら……それはタイトルを争っているときに限定された、リスクを0%に抑える慎重さ。いまのアロンソには、チームの士気を高める勇敢なレースが何よりも大切なのだ。
52周終了時点でサインツ5位、アロンソ6位、マッサ7位――。「ストレート速度が遅いトロロッソを抜くには、DRSを作動させるだけでよかった」
マッサを抜いた時点で5番手サインツと6番手アロンソの間隔は2秒。しかしその2周後には、サインツのソフトタイヤが完全にグリップを失ってしまった。言い換えれば、第3スティントの最初から接戦を繰り広げつつ、ここまでタイヤをセーブしたサインツが見事。55周目のストレートエンド、ターン12で軽く前輪をロックさせながらサインツの前に出たアロンソは、少しオーバーランしつつも余裕を持ってトロロッソの前でコースに戻った。
フェルスタッペンやライコネンのリタイアにも助けられたが、アロンソはモナコGPに並ぶベストリザルトで5位入賞。長いストレートや高速コーナーを備えたオースティンはモナコとまったく特性が違うこと、終始ドライコンディションであったことが5位という結果にモナコ以上の意味をもたらす。
12番グリッドからのスタートで、接触やトラブルによってリタイア/後退したライバルは5台。そこではスタート直後の混乱を回避してポジションを上げるアロンソの技が光った。さらに大切なのは、あとふたつのポジションアップ=ウイリアムズとトロロッソを相手にしたレースで思いきり戦い、チャンピオンのレース勘とテクニックを発揮して勝ち取った5位であること。アロンソが“発揮できる”ところまでマシンが追いついてきたことだ。
「日本のファン。とりわけホンダのF1参戦を誇りに思っているファンに対して、まだ表彰台や優勝を争えない僕らのパフォーマンスは応えられていない。だからひたすら仕事を重ねることが必須だ。でも来年は、もっとみんなに楽しんでもらうことができると思う。ゼロから出発して、力を合せて、僕らは一緒にここまで来たんだから」
細かい話や作戦云々を別に、大らかでいて冴えた目でコース上のアクションを楽しむアメリカのファンにとって、USGPに最高の華やかさをもたらしたのは間違いなくスペインのふたり。
「フェルナンドのレースは子供の頃から見てきたし、どんな風に攻めてくるかも僕は熟知していた。素晴らしい戦いができたことが最高」とサインツが喜びを表すと、アロンソは「45周くらいカルロスの後ろを走ったけど、まったくミスのない素晴らしいドライビングだった」と讃えた。
レース後、アロンソがSNSにアップしたのは、サインツと夕食をともにしたレストランからのふたりへの贈り物――デザートのケーキは“世界でいちばん速いスペイン人へ”というスペイン語で飾られている。
思えば、テキサスはメキシコ国境のすぐ近く。5日後には、国境の向こうの高地サーキットで新たな一戦が走り始める。
(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)
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7/5(金) | フリー走行1回目 | 結果 / レポート |
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予選 | 結果 / レポート | |
7/7(日) | 決勝 | 結果 / レポート |
1位 | マックス・フェルスタッペン | 255 |
2位 | ランド・ノリス | 171 |
3位 | シャルル・ルクレール | 150 |
4位 | カルロス・サインツ | 146 |
5位 | オスカー・ピアストリ | 124 |
6位 | セルジオ・ペレス | 118 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 111 |
8位 | ルイス・ハミルトン | 110 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 45 |
10位 | ランス・ストロール | 23 |
1位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 373 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 302 |
3位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 295 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 221 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 68 |
6位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 31 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 27 |
8位 | BWTアルピーヌF1チーム | 9 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 4 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |