メルセデスは、イギリスGPでふたりのドライバーのタイヤ戦略を分けるという、通常とは異なる措置をとった。シルバーストンでジョージ・ラッセルはソフトコンパウンドを、ルイス・ハミルトンはミディアムコンパウンドを履いてスタートした。ふたりのドライバーがグリッド上で非常に離れた位置にいるのならこのような戦略も考えられるが、グリッド上のスターティングポジションが並んでいた状態で、異なるタイヤ戦略を採用するのは非常に異例のことだった。
テクニカルディレクターのジェームズ・アリソンは、この決定について説明するにあたり、まずは次のような質問を投げかけた。「ソフトがジョージにとって良いのなら、なぜルイスには良くないのか? あるいは、ルイスにとってミディアムが良いのなら、なぜジョージにとってそうではないのか? なぜ我々は戦略を分けたのか?」
「週末のかなり早い段階でいくつかのことがわかった。すべてのタイヤコンパウンドは、一度レース温度に上がれば、かなり似たパフォーマンスを発揮するのだ。ソフトタイヤは最初のうちはいいが、寿命の終わりの方になると苦戦することになる。ハードはウォームアップが必要なのでその逆だ。そしてミディアムはその中間だ。しかしそれらはすべて互いに似通っている」
総合的なレースラップの点では3種のコンパウンドにそれほど差がなかったため、メルセデスはアリソンの説明にあるような決断を下すことになった。「戦略を分け、ひとりのドライバーにソフトタイヤを、もうひとりにはミディアムを履かせたら、全体的に好結果を出すチャンスが高まると考えた。金曜日にロングランを行ったとき、我々のマシンはソフトタイヤではかなり調子がいいことがわかっていた。ジョージはグリッド順でルイスの前にいるので、彼にソフトタイヤを履かせれば、スタートの時点で誰かの前に飛び出す最良のチャンスがあるだろうと感じていた」
計画は早い段階ではうまくいき、ラッセルはスタート後にストレートでフェラーリのカルロス・サインツをオーバーテイクしたが、シャルル・ルクレールの後ろで足止めされてしまい、メルセデスのプランは失敗した。「ジョージはフェラーリの1台をスタートで追い抜くことができた。そこで良い結果が出た。それが、我々がこの選択に望みをかけていたことだった」
アリソンによると、ハミルトンの方の計画は違うものである必要があったという。「ルイスがチームメイトを追い抜こうとすることに意味はなかっただろう。なぜなら、そうしてもチームとして何も得ることがないからだ。代わりに、非常に強力なレースタイヤであることがわかっていたミディアムタイヤを選んだ。それによりグランプリレースで長く走行するベストなチャンスを得て、確実に1ストップで行けると確信していた。そうすれば戦略ウインドウの上限に向けて、彼はフリーエアのなかを走るチャンスがあるかもしれなかった。結局それはルイスにも素晴らしい結果をもたらした。長く走ることができたおかげで、セーフティカーが導入されたときも彼はコース上にいた。そして彼の思惑通りになった」
メルセデスにとって最終的に唯一のマイナスとなったのは、トップ3に加わろうとしたラッセルの試みが、セーフティカーのせいで頓挫してしまったことだ。彼はその数周前にタイヤ変更を行っていたのだ。アリソンは次のように締めくくった。「セーフティカーによってジョージの計画がだめになったのは残念だった。でもあれは運だった。全体的に、戦略を分けたことでベストな機会に恵まれた。チームが好結果を出すための最高の可能性が与えられたし、実際ドライバーそれぞれにとっても意味のあることだった」
ラッセルはレースの終わりに次のように語っていた。「セーフティカーがなければ僕が4位、ルイスが5位でフィニッシュしていただろう。セーフティカーが出てルイスは3位、僕は5位になった。だからチームにとってはより良い結果になった。もちろん僕としては、順位をひとつ落としたのは残念な気分だ。ドライバーとして常に最高の結果を達成したいからね」
(Grandprix.com/Translation: AKARAG)