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RBコラム:幸運にも恵まれ、鈴鹿で大きな意味を持つ10位入賞。エンジニアリングの課題を解決すべく組織改革も進む

2024年4月15日

 2024年F1第4戦日本GPで角田裕毅(RB)が10位入賞を果たした。上位5チーム10台がすべて完走したレースでその1台を下してトップ10に食い込んだことは極めて大きな意味を持ち、そういう意味では上位勢の自滅によって得た第3戦オーストラリアGPの7位入賞よりも価値のあるレースだったと言えるだろう。


 ただし、チームと角田の実力もさることながら、多くの幸運に恵まれての結果であったことも事実だ。


 まず予選でQ2を突破したのは角田の力走によるところが大きい。それでもダニエル・リカルドも0.066秒差の11位につけ、RB全体として底上げができたことも事実だ。今回投入されたフロアはどちらかと言えば低速域に比重を置いたものとはいえ、マシン全体の空力性能を向上させたことも事実。そして土曜から薄型のリヤウイングに換えたことで予選と決勝のバランスも最適化できた。FP2が雨で流れてしまっただけに、FP1でリカルド車を担当した岩佐歩夢の走行データが有益なものであったことはチームにとって非常に大きな要素になったはずだ。

岩佐歩夢(RB)
2024年F1第4戦日本GP 岩佐歩夢(RB)


 だが、決勝では戦略ミスが目立った。


 まずスタートでミディアムタイヤを履いてしまった。実際にはクラッチのセッティングもミスしていたようだが、RB勢がスタートで大幅に出遅れて集団に飲み込まれてしまい、リカルドに至っては他車との接触で0周リタイアとなってしまった。

2024年F1第4戦日本GP
2024年F1第4戦日本GP クラッシュ後、マシンを降りるダニエル・リカルド(RB)とアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)


 後続勢がソフトタイヤでスタートしてくることは充分予期でき、デグラデーションが大きい日本GPでは後続勢がピットインすれば翌周にはカバーしなければならなくなるのだから、ミディアムで第1スティントを長く引っ張るメリットはなく、スタートの蹴り出しが悪いというデメリットしかないのは明白だった。


 テクニカルディレクターのジョディ・エギントンはこう語る。


「ソフトの(蹴り出し加速の)利点を考えれば、後続勢がみんなソフトなら我々もソフトでスタートすべきだったが、それは後知恵でしかない」


 本来ならこの出遅れでバルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)とニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)に先行を許して入賞はかなり厳しい情勢だったが、リカルドの事故で赤旗中断となり、再びスタンディングスタートとなったことは大きな幸運だった。赤旗だからこそソフトタイヤに交換してリスタートに臨むことができ、前のヒュルケンベルグがクラッチミスでアンチストール発動、ボッタスがターン1の争いでジョージ・ラッセル(メルセデス)に行く手を阻まれて角田がインから前に出るという幸運に恵まれた。しかしこれがセーフティカーだったら、タイヤ交換はできず、リスタートでも大きな順位変動は期待できなかったはずだ。


 これで中団トップのポジションを取り戻したRBと角田だったが、6周目にピットインしたボッタスにアンダーカットされてしまった。これも大きな戦略ミスだった。


「1.3秒のギャップがあったからアンダーカットは阻止できると思っていたが、予想以上にタイトだったんだ。いずれにしても他に選択肢はないから翌周にピットインするしかなかった。その後はトレイン状態で走っていたからオーバーテイクは不可能で、2回目のピットストップに臨むことになった」(エギントンTD)


 タイヤのデグラデーションを読み誤り、翌周ピットインすればカバーできるという想定が間違っていた。実際にはRBの想定よりもデグラデーションが大きく、ボッタスの履いた新品タイヤの威力が大きかったため抑え切れなかった。開幕戦バーレーンGPなど、これまでに何度も繰り返してきたミスだ。

角田裕毅(RB)
2024年F1第4戦日本GP 角田裕毅(RB)


 トラックサイド(レース現場)のシニアレースストラテジストが2021年から担当してきたキャリーヌ・クリデリッチから、レッドブルのストラテジー部門にいたニック・ロバーツに交代(第3戦オーストラリアGPから)。しかしタイヤエンジニアリングのミスに起因するこうした戦略ミスはまだ改善できていない。それ以外にもレッドブルからRBへのストラテジー部門の強化は進められているものの、これはストラテジーだけでなくチーム全体のエンジニアリングの課題と言えそうだ。このあたりは新代表ローラン・メキースやレーシングディレクターに就任したアラン・パーメインが中心となって問題点の洗い出しと組織改革を進めているところだ。


 レースに話を戻すと、第2スティントは角田を含む5台のマシンがケビン・マグヌッセン(ハース)に抑え込まれて膠着状態となった。ハースはストレートが速く抑え込みがしやすいマシンで、なおかつヒュルケンベルグを確実に中団トップの座につかせるべくマグヌッセンが抑え役に徹するチームプレイで入賞を目指しているだけに、ライバルたちはかなり厳しい展開に追い込まれた。そのままいけば、マグヌッセンが中団勢を抑え込み、その間に第2スティントを引っ張ったヒュルケンベルグが第3スティントに10周フレッシュなタイヤで他車に追い着き追い越して中団トップに立つという展開になってしまった(実際に角田以外の全車がヒュルケンベルグに抜かれている)。


 しかし22周目に5台同時のピットインが発生。本来なら、集団の4番目を走る角田はライバルより先にピットインしてアンダーカットを仕掛けなければならなかった。それができないうちにボッタスに先手を打たれてピットインされてしまったため、他車も次善策として同時ピットインを選んだだけだ。同時に入れば、本来はそのままの順位でコースに戻ることになる。ここも集団の4番目を走るRBとしては戦略ミスだったと言わざるを得ない。


 だが、ここでふたつ目の大きな幸運に恵まれた。


 角田の前にいた3台が軒並みピットストップをミスし、マグヌッセン5.41秒、ボッタス4.94秒、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)4.28秒。ここで2.76秒という平均的なピットストップを決めたRBは前の3台を抜いて集団のトップに立つことに成功したのだ。角田が無線で賞賛とねぎらいの言葉を贈ったように、映像の見た目上はRBの驚速ピットストップで逆転したように見えたが、実際にはアンダーカットを許した1回目のピットストップの方が2.56秒と速かったし、日本GPの平均2.62秒よりも遅かった。


 この大逆転が角田の10位入賞の最大のカギになったことは間違いないが、本来ならあの状況ではRBがどんなにすごいピットストップをしようともライバルも平均的なピットストップをしてしまえば順位が変わる可能性はほとんどなかった。前を行く3台すべてがピットストップで4秒以上のタイムロスを喫したという稀に見る幸運によって果たした大逆転劇だったということは、きちんと認識しておく必要があるだろう。


 ここで集団のトップに立ってからの角田のドライビングは素晴らしかった。残り30周をハードで走り切るために、背後のランス・ストロール(アストンマーティン)を抑えつつ、10周フレッシュなタイヤで追いかけてくるヒュルケンベルグも見ながらペースをコントロール。ストロールが角田を抜けないと見て3ストップに切り替えソフトタイヤで猛追し始めてからも、ストロールのペースを見ながらコントロールし、最後に追い着かれてもディフェンスができるだけのグリップも残しておくという絶妙なタイヤマネージメントだった。


「その後は後方とのギャップを見ながらレースをコントロールしていた。そしてストロールが3回目のピットストップをしてソフトタイヤに交換し、かなり速いペースで追いかけて来ていたが、裕毅はギャップを維持できていた。最後はレースリーダーのマックス(・フェルスタッペン/レッドブル)が追いついて来てブルーフラッグが振られてストロールを抑え込むようなかたちになってくれたし、それと同時に裕毅は最後にペースを上げて引き離した。ソフトタイヤは20周も保たないし、もしストロールが追いついてきても戦えるようにタイヤをセーブしていたし、我々としては非常に上手くレースをコントロールできたと思う」(エギントンTD)


 ホンダの現場運営を統括する折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう振り返る。


「幸運があって上に行くというのは今までもありましたけど、今まではそのポジションを維持できませんでした。でも今はいいストラテジーで戦い、やるべきことをしっかりやっているから、上位に残る確率が上がっているんだと思います。その結果として、運に恵まれたりして上位に上がれたときにそのポジションを守り切れるようになっているように感じます。上位勢が全員残っていての10位ですから、この1ポイントはものすごく大きな1ポイントだと思います。裕毅にも自信のようなものを感じましたね。ラップタイムを追いかけるというよりも、クルマがちゃんと仕上がれば結果がついてくる、自分はそういう走りができるという自信を持っているように(ブリーフィングでの)彼のコメントからは感じました」


 戦略ミスはいくつもあったが、そのたびに稀に見る幸運が窮地を救い、最後はその幸運によって得たチャンスをしっかりと実力で掴み獲った。


 日本GPの10位入賞はどんな1ポイントよりも価値のある1点となった。

角田裕毅(RB)の10位入賞を祝うチーム
2024年F1第4戦日本GP 角田裕毅(RB)の10位入賞を祝うチーム



(Mineoki Yoneya)


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