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【中野信治のF1分析/第9戦】フェルスタッペンの丁寧さと、予選で垣間見えた超一流と一流ドライバーの違い
2023年6月25日
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットを舞台に行われた2023年第9戦カナダGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウインで制し、今季6勝目を飾りました。雨がらみとなった予選で一発タイムを刻めたドライバーと、そうでないドライバーの違い。今後期待の次世代若手注目ドライバーや角田裕毅(アルファタウリ)の戦いなど、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今回のカナダGPも前戦スペインGPに続いて雨の予選となりましたが、今回もフェルスタッペンが盤石の走りを見せ、今季5度目のポールポジションを獲得しました。特にダンプコンディションとなったQ2ではフェルスタッペンが一発でタイムを出した一方、一発ではタイムを出せなかったドライバーもいました。難しいコンディション下で一発のタイムを出せるか否かはさまざまな要因が絡みますが、今回のフェルスタッペンの場合はピット位置がもっともピットレーン出口に近いというアドバンテージもあったと思います。
当然理由はそれだけではなく、フェルスタッペンに関してはフリープラクティスの様子を見ていても、雨が降り出し雨量も変化する中で、周回ごとに必ず圧倒的なペースで他をリードしていました。雨で路面の状況が刻々と変わるコンディションというのはブレーキングポイントやコーナーで使用するギヤも変わりミスも犯しやすいので、徐々にブレーキングポイントを遅らせ、少しづつ限界を見つけていきます。そこで、より短い時間で限界を見つけることができる、動物的な勘を発揮できるかが超一流のドライバーと一流のドライバーとを分けるラインなのかもしれないと感じています。
また、モータースポーツにおいて求められるその時々の状況への対応力という点では、メンタルの強さも大切です。雨をはじめとする難しいコンディションを『嫌だ』と感じるドライバーもいれば、同じ状況でも『チャンスだ』と感じるドライバーもいると思います。その冷静かつ前向きに物事を捉えることができるメンタルと、動物的勘・野生的な感覚に加え、一発のタイム出しの際に一番重要となる要素がドライビングの丁寧さです。
たとえば、フェルスタッペンのドライビングを見ていると、誰よりも丁寧にブレーキ、丁寧にスロットルを踏み、丁寧にステアリングを切っています。フェルスタッペンといえば、暴れるクルマを抑えつけてなんとか乗りこなしてしまうというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ただ、それは実情とは結構違っています。フェルスタッペンがどんなクルマも乗りこなしてしまうのは、誰よりも一番繊細で丁寧なドライビングができるからなのです。
繊細なドライビングだからこそ、雨の路面でも速く走らせることができるし余計な動きをしない。雨でクルマが滑り出すタイミングも早くなったりブレーキもロックしやすくなるなか、クルマを前に前に進めるには、いかにクルマを丁寧に操ることができるかが重要です。ときにワイルドなイメージ、マシンをねじ伏せて走るような印象もあるフェルスタッペンですが、実は誰よりも繊細にクルマの挙動を感じ取り、クルマに負担をかけることなく走らせることができているのです。
たとえば映像を見ていて、カウンターを当てつつマシンをコントロールしている姿などを見ると上手いと思ってしまうこともあるかもしれませんが、そうではありません。カウンターを当てるとタイムロスが生まれてしまうので、カウンターを当てる手前でいかにマシンを操れるか否かが重要となるのです。
予選でフェルスタッペンが引き続き強さを見せた一方、チームメイトのセルジオ・ペレス(レッドブル)は3戦連続してもQ3進出を逃す結果となりました。ペレスはモナコGP以降、完全に自信を失っていると感じます。その自信のなさ、メンタルが起因し、コンディションの変化に自信を持って挑むことができていない。だから厳しい状況に追い込まれているのだと思います。
すべてのセッションがドライコンディションで、自分の思いどおりの状況であればペレスとフェルスタッペンにそこまで大きな差は生まれないはずです。ですが、前戦スペインGPや今回のカナダGPの予選のような難しい状況、そしてメンタルをコントロールすることが難しい状況となればなるほど、ふたりの差がどうしても出てしまう。ペレスもかなりスムーズなドライビングができるドライバーです。ですが、フェルスタッペンはさらに丁寧なドライビングができる上に、自信も失っていません。
そして、シャルル・ルクレール(フェラーリ)も予選ではQ3進出を逃す結果となりました。ルクレールの場合、チームとのコミュニケーションの部分やピットアウトのタイミングなどで損をしてしまったという感じです。ただ、Q2でインターミディエイト(浅溝タイヤ)を履いてコースイン直後にドライ寄りの路面状況とわかったなか、ルクレールにピットインを指示せず、まずはインターミディエイトで1周アタックを終えてからドライタイヤに変えることを指示したことについては間違いではなかったとは思いますね。
ただ、ピットからコースインしたタイミングが悪く、フェルスタッペンと同じ作戦を取ることができなかったのです。悪いタイミングが重なってしまったためなので、これをチームのせいにしてしまうとルクレールはより自分を追い込んでしまうことになります。予選直後は状況も把握しきれておらず、分析もできていない時点だったのでルクレールもチームに対する不満を口にしていました。ただ、その後はよりいろいろな状況を分析し、ミーティングも重ねたでしょうから、チーム側の言い分も理解しているのではないでしょうか。
今回のカナダGP、特に予選ではルクレールに流れがありませんでした。でも流れは自分自身が引き寄せるものだとも思います。そういう意味ではルクレールも難しい状況にあるのかもしれません。そんな状況でも自分自身の精神状況をポジティブな方向にキープできるか、ルクレールといえど難しい壁に当たっているのかもしれません。速さは疑いようのないものを持っているルクレールですから、将来的なF1タイトルに向け、まずはこの壁を乗り越えることが求められていると感じています。
そんな予選終了後、4名のドライバーが3グリッド降格となりました。うちカルロス・サインツ(フェラーリ)、ランス・ストロール(アストンマーティン)、そして裕毅の3台については他車のアタックを妨害する結果となったためです。走路妨害についてのペナルティは昔よりも厳格になっています。そのため、走路妨害を取られないよう、それも見越してチームとドライバーはこれまで以上に細かいコミュニケーションをとって、セッションに挑まなければならない時代となっていると感じます。
みんな故意にやっていることではないので、ある程度は仕方がないことです。後ろから車両が来ていても、前にいるドライバーからすれば後ろがアタック中かウォームアップ中かはすぐにはわからない。後ろにいるドライバーもアタック中ではなかったとしても、前車と距離が狭まるのでいざ自分のアタックの際に、自分の目の前に前車が現れることは防ぎたい。前後のクルマがアタック中なのか否かを判断するにしても、今のF1はドライバー側にとってあまりにも速すぎるというのもあると思います。
そのため、一概に誰が悪いとかの判断も難しいです。今回の3台に対するペナルティは『チームとドライバーがもっとコミュニケーションを取るように』というFIA国際自動車連盟からのメッセージだったのではないかと個人的には感じています。
■今後期待の次世代若手注目ドライバーと興味深い存在
さて、今季もすでに8戦を終えました。今年も能力の高いドライバーが揃っていると感じますが、今後を期待させる私が思う次世代若手注目ドライバーという意味では、当然(角田)裕毅のF1参戦3年目を迎えた今年の仕事の進め方、走りを見るに、将来さらに活躍できるチャンスは来ると思います。
F1参戦1年目のドライバーに絞ると、今回のカナダGP決勝でチームメイトのランド・ノリス(マクラーレン)と同等の走りを見せていたオスカー・ピアストリ(マクラーレン)というドライバーは、かなり面白いものを持っているなと感じました。私はスピードに関してノリスはフェルスタッペンやルクレールと変わらない、高いポテンシャルを持ったドライバーだと考えています。そのノリスに対して、新人チームメイトのピアストリのデータも見ていくと、実はノリスと近いスピード感覚で走ることができていました。
F1は最低3年は参戦していないと、本当の意味でドライバーが秘める最大限のパフォーマンスを発揮できない世界だと思っています。ピアストリが今年の残るレースでパフォーマンスを上げ、2024年、2025年とF1という大舞台に残ることができれば、ピアストリというドライバーは大きく化けると私は思っています。
そして、4年目を迎えてもう新人ではないのですが、今回のカナダGPで予選Q2トップ、決勝も7位に入ったアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は、大変メンタルが強いドライバーです。アルボンの心の強さが、タイヤのマネジメントも含めたトータルのマネジメント能力の高さに繋がっていると思います。また、コントロールが非常に上手い。それでいてアクションの大きなドライビングができるドライバーですから、チーム側の目線に立つと『何があってもなんとかしてくれる』と安心感を抱かせるドライバーですね。
タイヤも持たせることができ、フェルスタッペンまでとはいかないものの繊細なドライビングもできる。そして、ときに暴れるクルマを抑えて走ることもできる。オールマイティに高い次元で走れるドライバーです。もともとアルボンはそういうドライバーだったと思いますが、F1に居続けることで、F1でいかに戦うか、いかに自分のパフォーマンスを100%引き出すかというところを掴みつつある。そういうというところでは強いドライバーです。
それだけに、ふたたびレッドブルのマシンをドライブするとどうなるのかは気になりますね。以前在籍した際(2019年途中から2020年)よりも今の方がぜんぜん戦えると思います。それに、当時のマシンRB15やRB16はフェルスタッペンにしかドライビングできないというほど、フェルスタッペン向きのマシンでした。これは先述のとおり、フェルスタッペンが繊細なセンサーを持ち、丁寧なドライビングができるからこそピーキーなクルマでも操れていたわけです。
2019年はアルボンにとってF1初年度。そのシーズン途中のベルギーGPからレッドブルに乗ることになりましたが、あのグランプリは私も現場に見に行っていました。FPからレッドブルの無線も聞いていたのですけど、1年目かつ移籍初戦といえどアルボンは落ち着いており「すごいドライバーが乗ることになった」と感じたことを覚えています。
うまくマシンに自分の走らせ方を合わせることができたら結構面白くなりそうだと思っていましたが、やはり、当時のレッドブルのマシンを操ることは今のマシンより難しかったはずです。今のクルマは当時ほどピーキーではありませんから、もし今のアルボンが今年のレッドブルのマシンに乗ると、ペレスと同等、もしくはそれ以上のパフォーマンスを出すことができるかも、そう考えると少し興味深いですね。
■角田裕毅とアルファタウリの予選における課題
決勝はフェルスタッペンがポール・トゥ・ウインを飾り、2位にフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)、3位にルイス・ハミルトン(メルセデス)と、チャンピオン経験者が表彰台を占める結果となりました。
今回、入賞には届きませんでしたが裕毅の決勝はすごくよかったですね。先述の3グリッド降格ペナルティにより19番手スタートでしたので、決勝では1周め終わりにピットインしミディアムタイヤからハードタイヤに交換という大胆な作戦を採りました。おそらくはそのハードタイヤのまま残る69周を走り切る予定だったと思います。
ただ、セーフティカー(SC)導入の際にタイヤを変えた他のドライバーたちが、レース後半にグリップの崖(急激なグリップダウン/性能劣化の意味)を感じ、2度目のピットインを敢行した影響で裕毅も入らざるを得なくなりました。もし、あのまま走り続けていたらどうだったのかは見てみたかったなと思います。
決勝でいい走りが続いているだけに、入賞までの課題は予選にあるという見方もできます。裕毅とアルファタウリの予選での課題はタイヤを暖め、求める適切な温度レンジに入れることに時間がかかり、ウォームアップに余計に1周かかってしまうこと。つまり、ニュータイヤの一番美味しいところを予選で使いづらいという状況です。
逆にいえば、アルファタウリのマシンはタイヤへの攻撃性が少ないということでもあります。なので、裕毅の決勝での強さは現状のアルファタウリのマシンの特性も大きく関係していると思います。そのため、予選の改善を急ぐと、決勝が苦しくなる可能性も考えられます。
そこは今後も裕毅とチームが作り上げていかないといけない部分だと思います。きっとどこかで予選、決勝ともに噛み合う場面が来ればいいなと思いますし、噛み合う場面で今の裕毅の走りであれば確実に多くのポイントを持ち帰ることができるでしょう。
今季の裕毅のように、どんなコンディションでも、どのサーキットでもいい走りを見せていると、周りからの評価も高まっていると思いますし、この走りを続けていれば必ずチャンスは訪れると思います。今は苦しいときかもしれませんが、このパフォーマンスを維持し続けてほしいですね。
さて、次戦は今季9レース目となる第10戦オーストリアGPです。レッドブルリンクはコーナー数も少なく、1周のラップタイムも短いサーキットですが、だからこそ各車のタイム差も大きくは出にくいです。そのため、中団の争いがすごく激しくなるでしょう。
高速コーナーが多いので、これまでアップデートを繰り返してきたチームの、本当の意味でのパーマネントサーキットでのポテンシャル、立ち位置が見えると考えているので、今季後半に向けてF1の勢力図が結構はっきりするのではないかと思います。
【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)
関連ニュース
1位 | マックス・フェルスタッペン | 393 |
2位 | ランド・ノリス | 331 |
3位 | シャルル・ルクレール | 307 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 262 |
5位 | カルロス・サインツ | 244 |
6位 | ジョージ・ラッセル | 192 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 190 |
8位 | セルジオ・ペレス | 151 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 593 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 557 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 544 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 382 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | BWTアルピーヌF1チーム | 49 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
8位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 44 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |