【】クルマの能力を出し切ったオコン/5人で争うシートと、若手台頭の健全な環境【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】
9月3日
今年で11年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。サマーブレイクを終え、2026年シーズンのF1は後半戦を迎えた。第12戦オランダGPは引き続き厳しい状況での戦いとなったが、小松代表によれば、エステバン・オコンがVF-26からパフォーマンスをほぼ完全に引き出し切る走りを披露したという。またオランダGP終了後にはTPC(Testing of Previous Cars/旧型車テスト)を実施し、ハースの2027年のシートをかけた争いも現在進行中ということだ。今回はサマーブレイクとオランダGP、そしてTPCを小松代表が振り返ります。
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■2026年F1第12戦オランダGP
No.87 オリバー・ベアマン スプリント予選17番手/スプリント15位/予選20番手/決勝DNF
No.31 エステバン・オコン スプリント予選15番手/スプリント14位/予選15番手/決勝DNF
■昨年より一歩進んだTPC。次の日本人ドライバーは「もう少し先の話」
サマーブレイクを経て、後半戦が始まりました。サマーブレイク中は前回のコラム(編注:信頼性確保の方向性が奏功した前半戦/“諦めなかった”福住のF1初ドライブ【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】/2026年8月10日掲載)でも触れた通り、富士スピードウェイでTPC(Testing of Previous Cars/旧型車テスト)を行いました。それが終わってヨーロッパに戻ってからは、いろいろな人から福住仁嶺を乗せた意味や、坪井翔の昨年と今年の違い、昨年と比べて今年はどういうイベントになったのかなど質問を受けたので、福住の意識の高さや坪井のメンタルが昨年とは全然違ったという話をしました。
理想を言えば、少なくとももう10歳くらい若い段階でドライバーたちをこういう状況に立たせなければいけないのですが、今まではなかなかその機会がありませんでした。(トヨタ自動車会長の豊田)章男さんと一緒にそういう機会を作り始めて、昨年から明確に一歩進めてよかったなと思っています。
また、「いつ次の日本人F1ドライバーが出てくると思うか?」とも聞かれましたけど、そういうことも一朝一夕にはいかないので、これからもどんどんこの様な場を作っていくことが大切だと思います。TPCにはトヨタの育成でカートをやっている子供たちが何人も来ていたのですが、みんな坪井と話しているだけでもすごく目が輝いていました。日本のトップレベルでレースをしている人がF1に乗っているところを間近で見て、その場で話すことができるというのは、彼らにもいい経験になったでしょうね。
僕はこのTPCについて、将来的にはもっともっとファンの人たちがF1だけでなくモータースポーツを楽しめるイベントにしたいと考えています。トヨタと一緒にやっているテストなので、他のカテゴリーのクルマを用意して、トヨタの他のドライバーにも走ってもらうのもいいかもしれませんね。というのも、F1のテストを行う際には、どうしても走っていない時間が結構出てくるからです。 F1が走ってない時に、例えばスーパーGTやWRC、WECなどの耐久レースのクルマが走ってもいいですよね。そうやっていろいろなものを楽しめるイベントにしたいです。もちろん予算の問題などもありますが、毎年ステップアップしていくべきですし、同じことをしても意味がないと僕は思っています。もし来年もTPCをやるなら、もう一歩踏み込んでよりよいイベントにしたいです。



■次戦モンツァでアップデート。重要なのは言い訳をせずに向き合うこと
後半戦最初のオランダGPは、まだアップデートをしていないので厳しくなることはグランプリが始まる前からわかっていました。ですので今まで通りに、現場のオペレーションやクルマのセットアップ、ピットストップ作業などに集中すること、今あるものでベストを尽くすことに集中しました。
オランダGPはサマーブレイク明けの最初のレースかつスプリントだったので、まずはFP1からきちんと走ることが重要でした。かなりいいレベルでセッションを進められましたし、日曜日のレースのピットストップもいい作業ができました。しかもエステバンのピットストップは、チームとして今シーズン一番短い時間でできたので、できることで結果を出せたという点では評価していいと思います。
またこの週末はエステバンがよくやってくれました。前戦ハンガリーGPもよかったですけど、今回も頑張ってくれましたね。今のクルマでは、スプリント予選でもメインの予選でもアトラシアン・ウイリアムズF1チームの2台に勝つというのが僕たちにできるベストな結果なので、クルマのポテンシャルをほぼ出し切れたというのはすごくポジティブなことです。オリー(編注:オリバー・ベアマンの愛称)の方はほんの少しの差なのですが、タイヤの準備とか、予選への対応がいまいちうまくいかなかったという感じです。残念ながら最終的にはふたりともパワーユニット(PU)トラブルによりリタイアで終えることになってしまい、トラブルの原因は今調べているところです。


次の第13戦イタリアGPでアップデートを行う予定ですが、アップデートをしたからといって突然すべてが変わるわけではありません。とはいえ、アップデートをしない限り自力でポイント圏内を走ることもできません。クルマのどの部分の性能がよくないのか、なぜ運転しにくいクルマなのかという問題に対して今のところ仮説を立てていて、それを改善するパッケージを持ち込む予定です。他のチームがどんなものをモンツァで投入するのか、僕たちの順位がどうなるかは想像がつきませんが、少なくとも僕たちは、クルマがより安定し、ドライバーがもっと自信を持って走れるクルマになることを期待しています。
アップデートをしたら、まずはCFD(編注:Computational Fluid Dynamics/数値流体力学。コンピューター上で空気の流れを解析する技術)や風洞、シミュレーターから得られた結果をコース上で再現できるのかが重要です。簡単に言うとVF-26は高速コーナーでのダウンフォース不足で、ドライバーがコーナー進入時に自信を持てないクルマになっています。これがアップデートによって改善されれば、高速域でのパフォーマンス改善に加えて、ドライバーがより自信を持って走れるようになることでさらにパフォーマンスが上がる可能性があります。ですのでこのアップデートでは、どれくらいドライバビリティーがよくなるのか、僕たちの仮説がどれくらいあっていたかというのもわかるようになります。
問題に直面したときは、言い訳をせずにそれに向き合って解決策を出さないと、組織やチームメンバーに自信がつかないので、少し乱暴な言い方かもしれませんが、このアップデートは“ただのアップデート”ではないと捉えています。もちろんラップタイムや結果も重要ですが、それ以上にチームのみんなが問題を解決できるということを証明できるのかどうかが解るので、いろいろな面で非常に重要なアップデートになります。


■ 1席をめぐる5人でのシート争い。若手の台頭がF1を盛り上げる
2027年に向けては、すでに報道されている通り、うちのリザーブドライバーを含む5人のドライバーがひとつのシートを争っています。リザーブの平川亮とジャック・ドゥーハン、レオナルド・フォルナローリ(マクラーレン・マスターカード・フォーミュラ1チームのリザーブ兼開発ドライバー)、ラファエル・カマラ(フェラーリ・ドライバー・アカデミーのメンバー)、それにエステバンを含めた5人です。
何を基準に判断するかというと、まずはやはりパフォーマンスです。7月にヘレスで平川、フォルナローリ、オリーというメンバーで走った時は、平川もフォルナローリもオリーもみんなコンマ1秒以内の差でした。カマラもハースのTPCに参加することになっていたので、8月に全員でテストをすることになったのです。ジャックも9月にヘレスで走る予定です。

やっぱり今の若いドライバーたちって本当にすごいですよね。昨年を振り返ってもわかることですが、オリーをはじめ、アイザック・ハジャー(ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チームからデビュー、現在はオラクル・レッドブル・レーシングに所属)、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム)、ガブリエル・ボルトレート(アウディ・レボリュートF1チーム)という若手がいて、今年はアービッド・リンドブラッド(ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム)もそうです。さらに、F1に上がってくる段階ですでにスポンサーもついていますからね。
若い人たちがこれだけ台頭してくるのはすごくいいことです。F1には若手ドライバーがあまり乗れなかった時期がありましたが、昨年それが大きく変わりました。何年かに一度そういう時期もありますけど、でもやっぱり若手にチャンスを与えられるのはいいことです。そういう若手がルイス・ハミルトン(スクーデリア・フェラーリHP)やマックス・フェルスタッペン(オラクル・レッドブル・レーシング)を相手にするという構図もおもしろいですし、こういうのがないとF1は盛り上がらないと思います。そういう意味では、今のF1はスポーツとしてすごく健全な状況にあると感じています。
(Text : Ayao Komatsu)

