2023年F1第23戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ)

【】【F1第23戦無線レビュー(1)】「ありがとうフランツ。さあ、やってやろう!」トスト代表のラストレースで角田が感謝

11月29日

 2023年F1第23戦アブダビGP。ドライバーズ、コンストラクターズ選手権ともにチャンピオンは決まっているものの、2位以下の争いはこの最終戦まで続いた。また、アルファタウリのフランツ・トスト代表にとって、このレースは代表としての最後のレースになった。アブダビGP前半を無線とともに振り返る。

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 シーズン最終戦アブダビGP。このレースを最後にアルファタウリのチーム代表を退任するフランツ・トストに、角田裕毅が無線で謝意を表明。「トストさんのためにも選手権7位を奪還しよう」と、スタッフに呼びかけた。

角田:ありがとうフランツ。この3年間の努力と僕へのアドバイスに、本当に感謝している。さあ、やってやろう!

 ウイリアムズとのポイント差は7点。シーズン終盤に大きくマシン戦闘力を上げてきた今のアルファタウリなら、決して挽回不可能なギャップではない。しかしレース開始早々、15番手を走行していたダニエル・リカルド(アルファタウリ)がトラブルに見舞われた。

8周目
ピエール・アムラン:捨てバイザーがフロントダクトに入ってる可能性がある
リカルド:了解

 リカルドはすぐにピットインし、バイザーを取り除いて、19番手でコース復帰。7位奪取の使命は、実質的に角田ひとりに託されることになった。

 6番手を走る角田のすぐ前では、ジョージ・ラッセル(メルセデス)が4番手オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に何度も仕掛けるが、抜くことができない。

11周目
トム・スタラード(→ピアストリ):いいディフェンスをしてるぞ。タイヤマネージメントもいい

 しかしその直後、ピアストリはラッセルにかわされて、5番手に後退した。

12周目
フェルスタッペン:右フロントが、少し傷み始めている

 それでも首位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)のペースが落ちることはなかったが、12周目のフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)を皮切りに、ピアストリ、ランド・ノリス(マクラーレン)らが次々に最初のタイヤ交換に向かった。フェルスタッペンも16周目にピットイン。上位勢は、2回ストップ作戦が大勢を占めることになった。

 14周目、ルイス・ハミルトン(メルセデス)とピエール・ガスリー(アルピーヌ)が接触する事故が起きた。

ハミルトン:フロントウイングにダメージだ。前のクルマがロックアップして、僕にぶつかった

 ガスリーの解釈は、当然ながら真逆だった。

ガスリー:ハミルトンに追突された!

ピエール・ガスリー(アルピーヌ)
2023年F1第23戦アブダビGP ピエール・ガスリー(アルピーヌ)

 ハミルトンはすぐにピットインしたが、ダメージは軽微と認定されたのか、タイヤ交換だけでコースに戻った。しかしハミルトン自身は、挙動がおかしいと訴えた。

17周目
ハミルトン:フロントのダウンフォースを失っている

 5番手まで順位を上げていたガスリーも、17周目にピットイン。15番手でコース復帰した。チームメイトのエステバン・オコンは、その2周前にピットイン。直前にはガスリーの3台後ろにいたのに、ピットイン後は先行する形になった。ガスリーは、当然気に入らない。

L19
ガスリー:なぜもう1台が僕をアンダーカットできるんだ。理解できない。説明してくれよ

 しかし担当エンジニア、カレル・ルースは理由の説明よりも、ガスリーを励ますことに専念した。

ルース(→ガスリー):エステバンの方が4秒1前にいる。タイヤマネージメントに集中しよう。まだ先は長い。君ならできる

 それでもガスリーは、ペースが上がらないことに焦っていた。

25周目
ガスリー:どこでロスしているんだ。どうしてこんなに遅いんだ?
ルース:リヤにダメージがあるからね。でも追いついているぞ

 苦しい展開は、ハミルトンも同じだった。最初のピットインで15番手まで順位を落とし、その後リカルドをかわすなどして、何とか8番手まで這い上がってきた。しかし表彰台争いを繰り広げるチームメイトのラッセルと比べれば、劣勢は明らかだ。トト・ウォルフ代表が無線に割って入り、ハミルトンを懸命に励ます。

27周目
ウォルフ代表(→ハミルトン):コース上で最速だぞ

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2023年F1第23戦アブダビGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 確かに25周目のラップタイムは、前方が空いているおかげもあるとはいえ、首位を独走するフェルスタッペンの1分29秒401より速い1分29秒370だった。

 この時点で、ラッセルは3番手。前を行くシャルル・ルクレール(フェラーリ)、背後のノリスと、1秒前後の接近戦が続いていた。こう着状態を打開しようと、ラッセルがライバルとは違う戦略を提案した。

33周目
ラッセル:1ストップは無理なのか? タイヤはそれなりにいいんだけど
マーカス・ダドリー:まだ先が長い。あと20周以上あるからな

 14周目にハードに替えていただけに、チェッカーまで40周以上を走り切る必要があった。結局ラッセルは、この無線の直後、34周目に2度目のピットに向かった。
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(その2に続く)



(取材・まとめ 柴田久仁夫)