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【】松田次生のF1目線:ピアストリが抱える唯一の課題。強引すぎたハミルトンと予選後のストロールの振る舞い

10月18日

 フォーミュラ・ニッポンの元チャンピオンで、2023年シーズンはMOTUL AUTECH ZでスーパーGT GT500クラスを戦い、全日本スーパーフォーミュラ選手権ではチーム監督としてKids com Team KCMGを率いる松田次生が、F1について語る連載企画『松田次生のF1目線』。今回は2023年第18戦カタールGPを振り返ります。

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 鈴鹿での日本GP同様、カタールGPでもオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の活躍が目立ちました。勝負師の雰囲気もあり、今後怖い存在になると思います。

 唯一、彼が直さなければならないのは、ローリングスタートです。スプリントと決勝レースそれぞれでリスタートの瞬間がありましたが、自らが先頭のときも2番手のときも失敗していました。

 ローリングスタートは、ドライバーのセンスが問われます。自らが先頭のときはいかに相手を騙すかが重要で、2番手のときは相手のクセを常に研究し、その動きを読む必要があります。レーシングカートとは違う技術が問われ、経験の差も出ます。

 すごくうまいと思うのはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)ですね。僕は読まれやすく、騙されやすいほうで、きっと性格が悪い人ほどうまい傾向にあるんだと思います(笑)。ピアストリはもしかしたらいいヤツなのかもしれませんね。

 ピアストリの活躍の一方で、ランド・ノリスのミスも目立ちました。スプリント・シュートアウトの最後のアタックラップでオーバーランしたのは、対フェルスタッペンの意識もあるでしょうけど、ピアストリへの対抗心からくるあせりもあったことでしょう。ただし、レースのまとめ方に関してはノリスに軍配が上がりそうです。決勝終盤はチームオーダーで順位変わらずでしたが、あれがなければどうなっていたか。

 表彰前の控え室でピアストリは疲労から床にダウンしていましたが、ノリスは元気そうでした。ノリスのほうが体力があるのかもしれません。そういう点でもレースの強さにつながっている可能性がありますね。ノリスは陰で努力しているのだと思います。

 今回はタイヤの耐久性の問題から、最大18周というルールのもと行なわれました。そのため決勝はショートスティントとなり、毎周予選アタックのような走りが問われました。そして、高温多湿の環境と、中高速コーナー主体のレイアウトのため横Gが大きく、ドライバーの体力はかなり削られたようです。

 ひと昔前の日本のスーパーGTの車内のほうが、おそらくコクピット温度は高いとは思います。ですが、最近のF1はノーズにダクトがなく、さらに電気系補機類から発生する熱もあるので、かなり高温状態になるのかもしれません。ローガン・サージェント(ウイリアムズ)が体調不良でクルマから降りるときのしたたる汗の量を見て、これは尋常ではないな、と思いました。

 今回の週末をとおして、トラックリミット違反が本当に多かったですね。とくにペレスは何してんの? って感じでした。一方フェルスタッペンは、ほとんどはみ出ることなく、さらにタイヤの周回数縛りをも自分に優位に働かせていました。

 予選で、ライバルたちの多くがトラックリミット違反で再アタックが必要となり、必然的に周回数が増えるなか、フェルスタッペンは圧倒的に短い周回でクリアしています。そのため、決勝では程度の良いタイヤで長く引っ張ることができました。対してマクラーレンの2台は早めのピットを余儀なくされ、それだけでフェルスタッペンは有利な展開に持ち込むことができました。

 これだけ速くて強いフェルスタッペンには、死角が本当に見当たらないですね。スプリントレースの時点で3連覇が決まりましたが、それも納得です。4連覇、5連覇を阻止するとしたら、マクラーレンのふたりにかかってくるでしょう。いま、ノリスとピアストリの関係は良好ですが、今後もっとバチバチになれば、さらにクルマは向上していくと思います。

 いまのルイス・ハミルトン(メルセデス)は、クルマにかつての圧倒的な優位性がなければ難しいのではないでしょうか。スタート直後のジョージ・ラッセル(メルセデス)との接触も、あれは強引すぎでした。仮に行けていたとしても、その先で曲がりきれなかったと思います。以前のハミルトンならあんなことをしなかったと思いますね。

 最後に、予選時のランス・ストロール(アストンマーティン)の行動について。一見、“暴力”のように見えなくもなかったですが、もしそうだとしたら絶対にいけないことです……。最近はチームメイトのフェルナンド・アロンソに完全に離され、Q1落ちが続くイライラからくるものだとは思いますが、さすがにあれはいただけない。

 僕は暴力を振るわれたことはないし、振るったこともないです。壁は殴ったことはありますけど(苦笑)。

(Tsugio Matsuda)