2023年F1第10戦オーストリアGP シャルル・ルクレール&カルロス・サインツ(フェラーリ)

【】【F1第10戦無線レビュー】「僕の方が速い」「ルクレールを攻めるな」好ペースでもチームプレーに徹したサインツ

7月7日

 2023年F1第10戦オーストリアGP。今回はレース中にトラックリミット違反が相次ぎ、ドライバーは前を走るクルマの違反を何度も無線で報告する異常事態となった。オーストリアGPを無線とともに振り返る。

────────────────────

 今年のオーストリアGPは、トラックリミット違反によるタイム抹消騒ぎに揺れた1戦となった。そんな状況でもレッドブルの優位は揺るがず、マックス・フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインで今季7勝目。最終周にはファステストタイムも叩き出す完勝だった。

 AT04の戦闘力に苦しみ、16番手スタートとなった角田裕毅(アルファタウリ)。ターン1のバトルで順位を上げたものの、この時にアルピーヌのエステバン・オコンと接触。ターン4でコースオフを喫した。

1周目
角田:ダメージを受けた!

 フロントウイングの左翼端板を失い、緊急ピットイン。散乱した破片を回収するためセーフティカー(SC)が導入された。

7周目
ランド・ノリス:またハミルトンがトラックリミットだ。もう3回目だよ

 この時点ではFIAから違反通告はなかったが、その後は怒涛のタイム抹消ラッシュになだれ込んでいった。

9周目
リカルド・アダミ:ペースを教えてくれ
カルロス・サインツ:その必要はないだろう。俺の方が速い

 2番手シャルル・ルクレール(フェラーリ)にピタリとつけたサインツが、前に行かせてもらうよう暗に要求する。しかしフェラーリはルクレール優先の方針を変えない。

アダミ(→サインツ):同じ戦略で行く。ルクレールを攻めるな

11周目
ウィル・ジョゼフ:ハミルトンのリミット違反は、その都度レポートしてくれ
ノリス:いやいや、毎ラップだってば。そのたびに知らせるヒマはないよ

 その後間もなく、ハミルトンには黒白フラッグが掲示される。

 13周目、ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)がターン3の先でストップ。これでバーチャルセーフティカー(VSC)が導入される。

ヒュルケンベルグ:パワーを失った

ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2023年F1第10戦オーストリアGP トラブルによりマシンを降りたニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)

 各車が続々とタイヤ交換に向かうなか、フェラーリは2台同時のダブルストップを敢行した。ルクレールが2番手を維持できたのに対し、サインツは6番手に後退してしまう。

サインツ:頼むよ。どうしてステイアウトしなかったんだよ

 2台はほぼテール・トゥ・ノーズで周回しており、ダブルストップをればサインツが待たされるのは明白だった。

 その後もトラックリミット違反はおさまらず、ライバルのチクリや、エンジニアからの注意喚起がひっきりなしに無線から流れていた。

24周目
ルイス・ハミルトン:ペレスはターン10で毎回飛び出してるぞ

32周目
ジョゼフ(→ノリス):嫌われるのを承知で言うけど、これからは毎ラップ、コース内を走らないといけなくなった。

36周目
ジェームズ・アーウィン(→アレクサンダー・アルボン):聞きたくないことだと思うけど、5秒ペナルティだ。でもこれは……
アルボン:わかった、わかった。大丈夫だ。ただ何が起きてるのかは、教えてくれ。さっき言われてから、トラックリミット違反はしてないはずだから。ずっと注意して走ったしね

40周目
ハミルトン:他に誰がペナルティ受けてる
トト・ウォルフ代表:君の前にいる全員だ。だからそのまま行け

 無線で聴くことはできなかったが、ハミルトンはマシンへの不満を訴えていたようだ。ウォルフ代表が再び出てきた。

52周目
ウォルフ:クルマは確かによくない。それは我々にもわかってる。だから運転に集中してくれ

ハミルトン:なぜスチュワードは、ペナルティをさっさと科さないんだ?
ピーター・ボニントン:違反が多すぎて、確認にパニくってるみたいだ

 チェッカーが近づき、ジャンピエロ・ランビアーゼはタイヤのオーバーヒートが気になっていた。するとフェルスタッペンは、「いっそタイヤを替えてしまおうよ」と提案した。

70周目
ランビアーゼ:タイヤを冷やした方がいいな
フェルスタッペン:いや、ピットインしよう!
ランビアーゼ:ピットインするリスクは、あまり冒す価値がない気がする
フェルスタッペン:(2番手ルクレールとは)24秒もマージンがあるんだぜ。やろうよ

 選手権で2位以下に80ポイント前後の大差をつけている状況で、あえて最速ラップの1ポイントを獲りに行く必要はないのでは。そう考えていたランビアーゼだが、結局はフェルスタッペンの貪欲さに押し切られ、チェッカー1周前にソフトに交換する指示を出した。そしてフェルスタッペンは悠々と、最速ラップを叩き出し、ポール・トゥ・ウィンを果たした。

チェッカー後
ランビアーゼ:どうやら、(ポイントを)総取りしたみたいだ。素晴らしい仕事だ
フェルスタッペン:みんなのおかげだよ。マシンは炎のようだったし、ピット作業も完璧だった

マルコス:P2だ。よくやった
ルクレール:ありがとう。みんなも、よくやってくれた。今日はいつもより気分がいいよ。表彰台に戻れてよかった

ジョゼフ:ランド、ドライバー・オブ・ザ・デイにも選出されたぞ
ノリス:ほんと!? それは嬉しい。それだけパパイヤファンが、多いってことだね。投票してくれて、ありがとう!

 レッドブルリンクには、当然ながらオランダから『オレンジアーミー』が大挙して押し寄せている。ノリスはそのオレンジ色がマクラーレンのチームカラーと同じことから、オレンジアーミーたちを『パパイヤファン』とよび、「彼らが僕に投票してくれたおかげだ」と、軽妙なジョークを返したのだった。



(取材・まとめ 柴田久仁夫)