2026.03.13

【アストンマーティン・ホンダの現在地(1)】ニューウェイが招いた混乱と第4期マクラーレン時代に共通する一方通行の雰囲気


2026年F1第1戦オーストラリアGP ランス・ストロール(アストンマーティン)
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 海外有識者が現地からお届けする、アストンマーティン・ホンダのF1活動を観察し、分析する連載コラムがスタート。

 2026年、アストンマーティンF1チームとホンダはワークスパートナーシップの下で参戦、新たな時代へと踏み出した。ホンダはパワーユニット(PU)マニュファクチャラーとしての活動を再開、チームは天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイの獲得にも成功し、F1での成功を目指す上で強力な基礎を築いた形だ。しかし、今年一新された技術規則の下で、今のところアストンマーティン・ホンダは厳しい状況に陥っている。

 かつてF1チームでテクニカルディレクターの役割を担い、現在は解説者を務めるアンドリュー・ギャリソン氏が、アストンマーティン・ホンダの状況と動向を分析する。

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■前代未聞。最悪の想定をも超える悲惨な状況

 ほぼ3年間も一緒に仕事をしておきながら、最初のマシンをまともに機能させることすらできないとは、一体どういうことなのか。噂は耳にしていたし、アストンマーティンとホンダの双方の関係者と電話で話をしていた。だから、シャシーもパワーユニットも本来あるべきレベルに達していないことは分かっていた。だが、まさかここまでひどい現実が待っているとは思ってもいなかった。

 バルセロナテストをほぼ丸ごと欠席する形になったのは、確かに痛かった。それでも、全く姿を見せなかったウイリアムズよりは、まだましだったはずだ。ところがその2週間後にバーレーンで起きたことは、最悪の想定をも超えるものだった。6日間のテストを通しての走行量があまりにも少なく、一瞬、自分が1970年代に戻ったのではないかと思ったほどだ。

アストンマーティンのガレージ
2026年F1プレシーズンテスト(第2回バーレーン3日目) アストンマーティンのガレージ

 当時は、1日50周走れれば大喜びで、25周程度しか走れなくても、誰も特に気にしなかった。なぜなら当時は、エンジン、ギヤボックス、クラッチ、トランスミッション、さらにはサスペンションまでもが日常的に壊れていたし、チームのメカニックも3人か4人程度しか現場にいなかったため、修復するのに何時間もかかっていたのだ。

 だが、今は2026年だ。パワーユニットもギヤボックスも、グランプリウイークエンド7戦分は耐え抜くよう設計されており、グランプリ中にリタイアが一台も出なかったとしても、誰も話題にすら上げない時代である。

 ところがアストンマーティンとホンダは、メルボルンの決勝日をテストセッションのように扱い、まだ走行可能な状態にあったマシンを、中国GPに備えて部品を温存するという理由で、ガレージに入れてしまった。私はおよそ55年この世界を見てきたが、そんな話は一度も聞いたことがない。

 さらに驚いたのは、すべての責任が完全にホンダに向けられていたこと、そして、トップの渡辺氏(注:ホンダHRC渡辺康治社長)でさえ反論することなく、アストンマーティンがこの件において全く罪のない犠牲者ではないという証拠を提示しようともしなかったことだ。

エイドリアン・ニューウェイ代表(アストンマーティン)と渡辺康治HRC社長の記者会見
2026年F1第1戦オーストラリアGP エイドリアン・ニューウェイ代表(アストンマーティン)と渡辺康治HRC社長の記者会見

 私がこの問題に政治的な思惑が絡んでいるのではないかと疑い始めたのは、アストンマーティンのチーム代表エイドリアン・ニューウェイがFIAの記者会見に出席すると聞いた時だった。私はエイドリアンを45年ほど前から知っており、彼には大きな敬意を抱いている。その彼について確実に言えるのは、彼は人前で話すことをとても嫌っているということだ。それにもかかわらず、オーストラリアの週末には、チーム主催の記者会見にまで登場し、インタビューを求めるメディアに積極的に応じていた。彼をよく知る人間からすれば、これは何らかの利益を得るための緊急措置だと考えざるを得ない。私の知るエイドリアンなら、質問の嵐に晒されるくらいなら、オフィスやガレージに閉じこもっていることを選ぶはずだからだ。

■FIAへの働きかけと『ADUO』を巡る思惑

 聞くところによれば、アストンマーティンはFIAを説得して、F1パワーユニット性能均衡化システムの『ADUO』(注:『Additional Development Upgrade Opportunities=追加開発アップグレードの機会』)を、6戦後ではなく即座にホンダに適用するよう働きかけているという。そして、FIAに圧力をかけるために、ニューウェイはホンダの問題を誇張して伝えたのだという。本当にそうだとして、果たして効果はあるのだろうか。私は懐疑的だ。なぜなら、他のマニュファクチャラーがそれに同意するほど愚かとは思えないからからだ。そして、これが両者の関係改善に役立つかといえば、全く逆だろう。関係をただ傷つけるだけであり、アストンマーティンはいずれその代償を払うことになる。

エイドリアン・ニューウェイ(アストンマーティンF1チーム代表)
2026年F1第1戦オーストラリアGP エイドリアン・ニューウェイ(アストンマーティンF1チーム代表)

 この件で最も腑に落ちないのが、ニューウェイが「ホンダが活動を開始した時に、当初のスタッフの多くが復帰していなかったという状況を知ったのは、昨年11月になってからだった」と“暴露”したことだ。だが、ローレンス・ストロール(注:チームオーナー)やアンディ・コーウェル(注:チーフストラテジーオフィサー)がホンダの状況を正確に把握していなかったとは到底考えられない。コーウェルやアストンマーティンの上級エンジニアたちは、毎月HRC Sakuraに足を運んでいたのではないのか。もし彼らが何らかの事実に気づくまで18カ月もかかったのだとすれば、全員クビにすべきだ。だが、もちろん実際には、コーウェルとそのチームは何が起きているかを正確につかんでいた。

■ニューウェイの設計変更でホンダは再出発を強いられた

 そして、ニューウェイがアストンマーティンに加わるまでは、物事は順調に進んでいたと私は聞いている。パワーユニットのアーキテクチャは定まり、バッテリーや冷却システムの配置スペースについても合意されて、統合作業も滞りなく進んでいた。ところが新たなボスがシルバーストンに乗り込み、AMR26の基本設計を見るなり、すべてを白紙に戻してほぼゼロから作り直すことを決めたのである。

アストンマーティンAMR26
アストンマーティンAMR26に飾られたホンダのロゴ

 その結果、ホンダはパッケージを大幅に変更せざるを得なくなった。要するに、それが現在うまく機能していない理由である。なにしろ、ニューウェイがパワーユニットに何を求めているかをホンダが把握してから、それをバルセロナテスト最終日にコースに送り出すまで、わずか7カ月しかなかったのだから。

 現状を見る限り、アストンマーティンとホンダの関係は、11年前のマクラーレンとホンダのパートナーシップと同じく、完全に一方通行になっている。その末路がどうだったかは、誰もが知っているはずだ。一方通行の関係は決して長続きしない。そして、もしホンダがアストンマーティンの発信するメッセージをこのまま受け入れ続けるならば、終焉は誰もが予想するより早く訪れるかもしれない。そうなったとしたら、それはホンダにとっても、アストンマーティンにとっても、そしてF1全体にとっても、実に残念なことである。

フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)
2026年F1第1戦オーストラリアGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)

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筆者アンドリュー・ギャリソンについて

 パドックでアンドリュー・ギャリソン(仮名)の姿を見逃すことはまずない。身長1メートル90センチ、体重120キロという巨躯を持つアイルランド出身のギャリソンは、モータースポーツ界で広く愛されるベテランであり、あらゆる仕事を経験し、あらゆる人物と仕事をしてきた。彼は、物事を分析するやり方に、きわめて独特なスタイルを持っている。ギャリソンにとって、物事は「正しい」か「間違っている」かのどちらかであり、その中間は存在しない。

 彼はレーシングカーについてあらゆることを語ることができる。なぜなら、実際にそれに関連するすべてを経験してきたからだ。10代のころからレーシングメカニックとして働き始めたギャリソンは、20歳になる前に見習いメカニックとしてF1の世界に足を踏み入れた。しかし、そのわずか2カ月後には、下位カテゴリーのレースでチーフメカニックを任され、チームトラックのドライバーも兼ねながら、地元のスーパーマーケットでサンドイッチを買い出しする係まで担当するようになった。

 やがて彼はチームのナンバーワン・メカニックに就任、実践的なアイデアが次々と採用されたことでデザインチームにも加わった。これが契機となり、やがて彼は、自身でシャシーを設計して出場する下位フォーミュラで活動するようになる。

 約10年間、自らのチームを運営し、他チームのエンジニアリングを手伝い、トップデザイナーたちの失敗も間近で見てきた後、ギャリソンはテクニカルディレクターとしてF1へ復帰。引退の時を迎えるまで、その職を務め続けた。

 声が大きく、歯に衣着せぬ物言いのギャリソンは、今もかつての部下たちに静かな畏怖の念を抱かせる存在だ。彼らの中には、いまやテクニカルディレクターやチーム代表になっている者もいるが、誰もが今もなお、ギャリソンに一目置いている。

 本人は新しいテクノロジーには少々ついていけなくなったと率直に認めているが、基礎に関する知識は深いため、今は、技術面だけでなく人間関係の問題についても語れる解説者として、高く評価されている。



(Andrew Garrisson)

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