2025.12.24

『可変圧縮比論争』はF1における典型的な大惨事になり得るか。反撃は「事実上2027年まで不可能」に?


主にメルセデスのエンジンレギュレーション運用に関する最初の論争が巻き起こっている
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 ランド・ノリス(マクラーレン)の初戴冠から約2週間、新規定導入により大変革を控える2026年のF1新シーズンはすでに始動しており、主にメルセデスのエンジンレギュレーション運用に関する最初の論争が巻き起こっている。

 フランス大手スポーツ紙『L'〓quipe(レキップ)』を筆頭に、イタリアの老舗総合誌『autosprint.it(アウトスプリント)』やドイツの『auto-motor-und-sport.de(アウト・モトール・ウント・シュポルト)』、そしてイギリスの『The Race.com(ザ・レーサー)』などが一斉に報じた内容では、今季2025年まで採用された内燃機関(ICE)の圧縮比『18.0』が、新規定で『16.0』まで引き下げられる点に関し、メルセデスのエンジニアたちはシリンダーメタルの膨張を利用し、高温時にこの圧縮比を18以上に高める方法を発見した……との疑惑が焦点になっている。

 先週水曜、レキップ紙のインタビューでフェラーリ代表のフレデリック・バスールは先見の明を示し……あるいは、すでにこの事実を念頭に置いていたのかもしれない態度で次のように語っていた。

「フロントウイングについて素晴らしいアイデアを思いついたと想像してみて欲しい。情熱に溢れ『これは飛ぶほど速くなるぞ!』と考える。そのウイングとアイデアを軸にマシンを組み立てる。そして12月、FIA国際自動車連盟の担当者が現れ『それは禁止だ! 56条B項3項を忘れている』と告げるんだ。そこでクルマはスクラップだ。これはエンジンも同じで、何かアイデアがあるならそれが合法かどうか必ず確認しなければならない」

 最初の警告は先週、現地金曜にメーカーとFIAの間で行われた会合で正式に発せられた。歴史を振り返ると、このドイツチームは独創的なターボチャージャーの取り付けにより、現行規定が導入された2014年にはライバルを圧倒する“魔法のパワーユニット(PU)”を開発した。今回、26年施行の新規定で問題となっている条項はC5.4.3であり、全文では次のように規定されている。

『エンジンのどの気筒も幾何学的圧縮比が16.0を超えてはならない。この値を測定する手順は、各PUメーカーがガイダンス文書FIA-F1-DOC-C042に従って詳細を定め常温で実施する。この手順はFIA技術部門の承認を受け、PUメーカーのホモロゲーション書類に記載されなければならない』

 この特定のルールが遵守されていることを確認するため、FIAはピストンが最低位置(下死点)にあるときと、最高位置にあるとき(上死点)のシリンダー内の容積差を測定することで検証を行っている。これにより圧縮比を算出できるが、エンジンが15000rpmで運転している状態では正確な圧縮比を知ることはできない。

新規定により大変革を控える2026年のF1新シーズン、早くも“抜け穴”の模索が議論の的に
2026年の新規定では、内燃機関(ICE)に対する電動機構の出力構成比が引き上げられ、約50:50となる

 先週金曜の警告にも関わらず、来季2026年にフォードの支援を受けてパワーユニットを製造するレッドブルは沈黙を守り、レギュレーションの明確化を求めるのみに留めた。その裏ではミルトンキーンズでも万が一に備え、レッドブルも可変圧縮比の控えめな引き上げに取り組んでいるといううわさがある。

「レギュレーションでは最大圧縮比が規定されており、その測定方法も定められています」とFIAの広報担当者は説明したが、世論の反発が大きすぎる場合、この圧縮比の規制を見直す可能性も否定しなかった。

 車両が静止している状態でのチェックには制限があり、コース上では車両の状態が異なることは珍しくない。可動式の空力デバイスは理論上は禁止されていたにも関わらず、コース上で圧力を受けるとウイングが曲がることは周知の事実だった。またタイヤ空気圧の適正値は(走行時のモニタリングが可能だとしても)当然ながら車両がガレージを出た際に測定される計測値に基づいている。

 先のエンジン規定条文に照らして考えれば、圧縮比の数値は明確に規定されており、C1.5条の『F1マシンは、競技中は常に本レギュレーションを完全に遵守しなければならない』と規定されている点と併せて考えると、サーキット走行中に16.1を超える圧縮比で走行する車両は「レギュレーション違反である」という主張になる。この圧縮比の明確化こそが、今後の展開……さらに抗議の是非を左右するカギとなると考えられている。

 すでにフェラーリ、アウディ、アストンマーティン/ホンダはこの問題を重大視しており、FIAに共同書簡を送って現状の主要な側面について説明を求めている。彼らの懸念はふたつの重要な結果、すなわちパフォーマンスへの即時的な影響と、失われた地位を長期的に取り戻す見通しに起因している。

 いくつかの評価研究に基づくと、2026年型F1エンジンの圧縮比を16:1から18:1に上げると、約10kW(13PS相当)の性能向上が見込まれると示唆される。これを2026年型F1マシンの初期予測に当てはめると、ラップタイムの短縮効果は──サーキットによって異なるものの──1周あたり0.3〜0.4秒と推定されている。

 元F1テクニカルディレクターのゲイリー・アンダーソンが言及したように、直径80mmのピストンの表面をわずか0.5mmシリンダー上端に押し上げる熱膨張によって、圧縮比は16:1から18:1に変化する。大したことではないように思えるかもしれないが、エンジン規則で材料の使用が厳しく制限されている現状では、この膨張を実現するのは依然として非常に複雑でもある。

メルセデスは独創的なターボチャージャーの取り付けにより、現行のパワーユニット規定が導入された2014年にライバルを圧倒する“魔法のPU”を開発した
メルセデスのエンジニアたちはシリンダーメタルの膨張を利用し、高温時にこの圧縮比を18以上に高める方法を発見した……との疑惑が焦点になっている

 現在、各メーカーが2026年のレース用初号機エンジンの製造・構築を進めているため、ライバルチームは短期的には新たな設計方針で対抗する手段がない。理論上はパワーユニットのホモロゲーションは3月1日まで行われないが、現実的にはFIAへの書類提出期限が迫っているため、変更を加えるにはすでに手遅れの状況だ。

 機能の早期理解と模倣が可能な空力デバイスとは異なり、複雑な燃焼プロセスの理解とその手段の検証が必須なエンジン開発では、キャッチアップの容易度が大きく異なる。ただしメーカーの1社がベンチマークエンジンから大きく遅れを取っている場合は、改良の機会が早期に得られる可能性が残される。

 現在、FIAは追加開発とアップグレード機会(ADUO)と呼ばれる取り組みの一環として、2026年の3つのフェーズにわたってエンジン性能を監視し、誰も大きく遅れをとらないようにするための取り組みを進めている。期間は3つの期間(第1〜6、7〜12、13〜18戦)に分かれており、これらの期間終了後、追加開発の対象となるメーカーはさらなるアップグレードを実施し、エンジンベンチの使用期間を延長してコスト上限支出を調整することで対応できる。

 つまりマイアミGP(第6戦)終了後、メーカーが最高出力のパワーユニットから一定の性能差で性能差が開いている場合、新しいホモロゲーション取得済みのICEを導入することが可能となり、理論上は圧縮比の異なるエンジンを投入することが可能になる。FIAがメーカーの性能差が最高出力から2%〜4%以内と判断した場合、追加ア??ップグレードが1回認められ、これが4%を超える場合は2回のアップグレードが認められる。

 前出のバスールは、今週に入って改めてグレーゾーンを悪用する新しいルールに「危険性」があると、懸念を表明している。

「チームはこの1年で大きく成長した。そのため、抜け穴を見つけようとする者が増えている。しかし我々はFIAの側に立つ必要もあると思う。オーストラリアやバーレーンでレギュレーションの抜け穴を悪用する者が現れるのを防げないのは、FIAにとって大きな課題だ」とフェラーリF1のボス。

「もしレギュレーションがうまく機能し、誰かが良いマシンで他のマシンよりも速く走れるのであれば、それは当然のことだ。しかし、それが文言上の抜け穴のようなものであれば、誰にとってもはるかに困難になり、F1にとってもはるかに危険だよ」

 圧縮比のトリックがうまく機能しているのか、それとも文言上の抜け穴なのかは、今どちらの立場にいるかによって異なるが、この議論は今後しばらく続くことになりそうだ。

来季2026年にフォードの支援を受けてパワーユニットを製造するレッドブルは沈黙を守り、レギュレーションの明確化を求めるのみに留めた
ミルトンキーンズでも万が一に備え、レッドブルも可変圧縮比の控えめな引き上げに取り組んでいるといううわさがある


(autosport web)

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