レッドブルとの成功は「ピュアに勝つことを目指して戦えたから」提携終了に寂しさも/ホンダHRC渡辺康治社長インタビュー
2025年シーズンをもって、ホンダは、オラクル・レッドブル・レーシングとビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チームへのパワーユニット(PU)の供給を終了した。レッドブル・ファミリーとの8年間の提携について、ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長は、レッドブルのチーム代表を務めたクリスチャン・ホーナーや、交渉の窓口となった元モータースポーツコンサルタントのヘルムート・マルコ、そして現在のレッドブルの代表であるローレン・メキースらの初対面時の印象や、やり取りを振り返り、提携終了に寂しさを感じたことを明かした。
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──ヨーロッパのメディアの報道では、TPC(Testing of Previous Cars/旧型車を使用するテスト)のパワーユニットをホンダが供給することが、ドライバー選定の交渉材料になっていたという報道もありましたが?
渡辺康治HRC社長(以下、渡辺社長):「角田裕毅の2026年のシートの議論と、TPCの話が一緒になっているのは間違いです。TPCは2年落ちのマシンとパワーユニットで走ることになりますから、レッドブルおよびVCARBがやりたいということになれば、我々がパワーユニットを提供しなければなりません。それをどういう形で行うのかはメキシコでも話し合い、今も続いています。その話がすべて角田裕毅を乗せるのか、乗せないのかという交渉材料として使われていたかのように報道されているのは、一部誤解があります」

──岩佐歩夢選手について、まだチームから発表はないのですが、角田選手がシートを失ったことで、何かホンダ側が懸念していることでもあるのでしょうか?
渡辺社長:「発表に関してはチーム側に確認していただくとして、我々が何かノーと言っているということはありません。岩佐歩夢に関しては、2026年も引き続きF1の世界で仕事をしているという認識で間違いありません」
──角田選手と岩佐選手のふたりがテスト&リザーブドライバーとなると、役割分担はどうなるのでしょうか?
渡辺社長:「そのあたりも整理されて、チームから発表されると思いますので、もう少しお待ちください」

──レッドブルとの7年間のパートナーシップが終了しました。第24戦アブダビGPの土曜日の夜には、レッドブルでお別れパーティが開かれたそうですが?
渡辺社長:「正直、少し寂しかったですね。パーティでは最初にローレン(・メキース代表)からあいさつがあって、その後(ヘルムート・)マルコ(モータースポーツコンサルタント、12月9日に退団を発表)さんとふたりのドライバーからスピーチをいただきました。レッドブル・ファミリーとの8年間を振り返る映像も用意して流してくれました。それを見ていて、レッドブル・ファミリーと積み重ねてきた8年間の重みを感じました。2015年から2017年まで苦しんでいた我々が、トロロッソとのパートナーシップがここまで大きく実ったことを、ホンダだけでなく、レッドブル・ファミリー全員と共有できたことは感無量でした」
──ホンダがレッドブルと交渉する際の窓口はほとんどマルコだったと思います。渡辺社長にとってマルコはどんな存在でしたか?
渡辺社長:「私がブランドコミュニケーション本部長になって、レース責任者として、2020年の開幕前に最初にオーストリアで会ったのはマルコさんでした。マルコさんが所有するオーストリアのホテルへ出向いて、食事しながら会話しました。それから、何度もマルコさんとはいろいろなことを話しましたが、私が感じているマルコさんの印象はフェアな方というものです。たとえば、ドライバー選定で時に厳しい評価を下すこともあったと思いますが、フェアで、政治的なものは感じられませんでした」
──クリスチャン・ホーナー代表はすでにチームを離れていますが、レッドブルでは6年半一緒に仕事をしてきました。ホーナーの印象はいかがでしたか?
渡辺社長:「レッドブルとパートナーを組んだ当初は、交渉の多くはマルコさんだけだったので、クリスチャンと話し合いをすることはなかったのですが、2022年から2023年にかけて、マルコさんよりもクリスチャンと議論することが増えていました。クリスチャンの印象は即断即決ができる人。クリスチャンのターゲットは勝つこと。そのためにいいと思ったら、スピーディに動く人でした。決断が早いという意味では、非常に仕事がやりやすかった相手です」
──2025年のドライバーラインアップや、2025年の第2戦中国GP後のドライバー変更の際に、渡辺社長が議論した相手はホーナーでしたか?
渡辺社長:「はい、そうです」

──結果的に2025年のシーズン途中で角田選手がレッドブルへ移籍したことを、渡辺社長はどう評価していますか?
渡辺社長:「シーズンが始まってすぐレッドブルのクルマが少し厳しいという状況はわかっていて、移籍を打診された際に、裕毅本人ともそのことは話し合いました。そのうえで、『トップチームでレースをしたい』というのが、彼の希望でした。ですから、移籍に関しては、我々がゴリ押ししたのではなく、ドライバーの意思を尊重した結果です。本人が後悔していないのであれば、それをサポートした我々も後悔はしていません」
──そのホーナーに代わって、レッドブルのチーム代表になったメキースについてもお話を聞かせてください。
渡辺社長:「2024年にVCARBが新車発表会をアメリカのラスベガスで行った際に会ったのが最初の出会いでした。ローレンのほうからしっかりと話し合いたいという申し出があったので、少し早く現地入りして、膝を交えてじっくりと話し合いました。会ったばかりでしたが、その話し合いのおかげもあって、すんなりと新しい関係を築くことができたと思います」
──レッドブル・ファミリーとの8年間、なぜホンダはこれほどまでの成功を彼らと収めることができたのでしょうか?
渡辺社長:「ピュアに勝つことを目指して戦えたからだと思います。我々はホンダ・レーシング(HRC)という組織を作って、レースに専念することができたし、レッドブルも勝つことを純粋に目指していたということだと思います。(アブダビGPの)日曜日の昼、レッドブルのホスピタリティハウスでマックス(・フェルスタッペン)と会ったのですが、『とにかく勝ちに行くよ。あとはどうなるのかわからないけど』と言っていました。最後も勝利で締めくくることができることを祈っています」
