“鳥肌もの”の表彰台を実現したHRCのベテランメカニックらが現場を勇退「チャレンジを恐れないで」【ギョロ目でチェック】
2025年のF1最終戦となった第24戦アブダビGPは、ふたりのベテランにとって現場でのラストレースとなった。ホンダ・レーシング(HRC)のチーフメカニックとしてレッドブルで仕事をしてきた吉野誠と、同じくHRCのチーフメカニックとしてレーシングブルズで仕事をしてきた法原淳だ。


ふたりは不思議な縁で結ばれたレース人生を辿ってきた。1989年にホンダに入社した吉野が最初に配属されたのは狭山工場のサービスセンター。その1年後にそこに新入社員として配属されたのが法原だった。ふたりはその後、ホンダの第3期F1活動でエンジンメカニックとして現場へ。第4期もふたりが現場でレース活動を始めたのは2019年からと同じタイミングだった。第3期に鍛えられたふたりのベテランは第4期でレッドブルとトロロッソに別れたものの、ホンダの第4期F1活動を後に黄金期へ導く礎を築いた。
そのふたりが第5期を前に現場を勇退。若い力にバトンを託し、今後はHRC Sakuraでレース活動を続ける。
吉野は法原について、次のように語った。
「30年以上前とは比べ物にならないほど成長し、現場では常にいい仕事をしてくれただけでなく、ホンダのスタッフをまとめてくれました。私にとっては、頼りになる部下のひとりで、かけがえのない存在でした」
法原も「部下思いで男気ある人」と吉野をいまも敬愛する。法原にはメカニックとして忘れられないレースがある。2022年のベルギーGPだ。レッドブルがワン・ツーフィニッシュを飾ったレース後の表彰式にレッドブルを代表して表彰台に上がったのが、吉野だった。それを見ていた法原は、思わず鳥肌が立ったという。

「あんなこと、もう一生起きないですよ。鳥肌もの。一緒に第3期に組み立てのマネージャーをしていた石原さんも『組み立て出身のうちのメカがF1の表彰台に乗るんか!?』と驚き、喜んでいました。これからホンダのF1活動を現場で行うメカニックたちもいつの日かそういう日が来るかもしれないので、チームのために努力してほしい」(法原)
2022年のベルギーGPで表彰台に上がった吉野は、「なぜいまここに立たせてもらっているのか?」と、まず自問したという。そして、眼下に仲間たちの姿が見えたとき、こんな境地に達したという。
「これまでホンダの先輩たちが道を切り開いてきたことを忘れてはならない。その努力があったからこそ、いま私たちが花を咲かせることができた。だから、私はそのホンダの先輩たちとHRCを代表して立っているんだ」
そして、吉野は後輩たちにこうエールを贈る。
「私は幸運にも第4期に世界一になるという夢を叶えることができました。でも、たとえ叶わなかったとしても、やってきたことは必ず自分の成長につながるので、それが苦しかったとか辛かったと感じたことはありません。若い人たちには、チャレンジを恐れないでと言いたい。その経験は必ず自分を成長させてくれますから」
メカニックとしてだけでなく、人間としても尊敬されたふたりのレジェンド。本当にお疲れ様でした。
