【角田裕毅を海外F1解説者が斬る】胸を張って将来を見据えよう。実力と成熟さを示した終盤戦。F1キャリアはまだ終わらない
F1での5年目を迎えた角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回は第23戦カタールGPと最終戦アブダビGPの週末を中心に振り返る。
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角田裕毅は、落ち込んだに違いない。レッドブル・グループにおいてF1で5シーズンを戦った後、2026年にはグランプリレースに参戦できないと告げられたのだから。私も似た経験をしているので、彼の気持ちはよく分かる。代替案を見つけるにはあまりにも遅すぎる時期になって、シートはないと言われるのは厳しい。
以前この話をしたかどうか定かではないが、私はずっと、レッドブル全体、特にヘルムート・マルコは、角田を仲間とはみなしていないという印象を持っていた。レッドブルにとって角田は、ホンダとの関係を良好に保つために、シートを与えていたドライバーに過ぎなかったのだ。そして、2026年からは、レッドブル・グループのマシンにホンダ製エンジンが搭載されなくなる。

ヨーロッパと異なり、プールで過ごすのに良い気候のアブダビに残った私が、テストの後に聞いた話では、角田にレースシートを与えないという決定は、マルコが下したということだ。2026年にレーシングブルズにアービッド・リンブラッドを起用する契約にサインしたのも、2025年に向けてリアム・ローソンをレッドブルに昇格させる決断をしたのもマルコだった。
ローラン・メキース代表は角田をレースシートに残したがっていたという印象を、私は私は常々持っていた。そして、マルコがこうして独断的な決定を下し続けたことが、彼の失脚につながったのではないかという説もある。これはあくまで私の個人的な意見に過ぎないが、2026年シーズンの開幕時には、発表されたこととは少し違った状況になる可能性もあるのではなかろうか。

角田が外されるという決定がより残酷に思えるのは、シーズン最後の2戦で角田はこれまで以上にマックス・フェルスタッペンとの差を縮めていたからだ。カタールGPのスプリント予選では、RB21がワールドチャンピオンにとってさえ手に負えない状態だった時に、彼より上位の予選順位をつかんだ。さらに角田は、スプリントレースでは、トラックリミット違反の回数超過による5秒ペナルティを受けながらも、順位をひとつも落とすことなくスプリントレースを5位でフィニッシュした。
決勝予選ではQ1敗退となったが、それでもQ1でのチームメイトとのタイム差は0.3秒未満だった。この差は、シーズン序盤2戦のローソンにとっては夢のような数字であり、2024年後半のセルジオ・ペレスにも達成が困難だったものだ。そして決勝で角田は、見事な挽回により1ポイントを獲得し、総合的に見ればポジティブな形でカタールの週末を締めくくった。

その6日後、アブダビの予選Q2で角田は、フェルスタッペンとの差を0.3秒未満に抑えた。しかし角田はQ3では自分の順位を追及するより、チームメイトにトウ(スリップストリーム)を与えることを優先した。フェルスタッペンは、この予選で重要なポールポジションを獲得している。
決勝で角田は、ファーストスティントで10番手を維持したものの、再び戦略上での犠牲を払い、使い古したタイヤでランド・ノリスを抑え込んでロスを強いるという役割を担った。角田は本来であれば入賞できたはずだが、結果的に14位でレースを終えることになった。

翌シーズンにレースシートがないと分かっていながら、こうした貢献を行ったことは、角田の成熟さとプロフェッショナリズムを示している。さらに彼独特の個性もあり、彼がグリッドから消えることを惜しむ声が多いのも理解できる。
2025年シーズンを終えた今、角田は胸を張っていい。ほとんど不可能に近い条件の中で、彼は立派な仕事を成し遂げた。私としては、これが彼のグランプリキャリアの終わりだとは思っていない。
マルコはしばしば、突然ドライバー変更を行ってきた。そのマルコがいなくなった後でも、レッドブルが似たような判断を下す可能性はないではない。

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筆者ハービー・ジョンストンについて
イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。
悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。
ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。
穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。