最も走行距離の少ないエンジンで初日からメリットを享受。レッドブルとの最後の1戦を優勝で締めくくる:ホンダ/HRC密着
ホンダ・レーシング(HRC)にとって、今回のF1第24戦アブダビGPは2025年の最終戦というだけでなく、レッドブル・ファミリーと共に戦う最後の1戦でもあった。しかも、レッドブルのマックス・フェルスタッペンにはまだチャンピオンの可能性が残されていた。
その重要な1戦にHRCがどのエンジン(ICE)を使うのかが注目された。というのも、1週間前の第23戦カタールGPでは予選後に、フェルスタッペンの「エンジンからの振動がひどい」というコメントを受けて、すでに使用しているエンジンに国際自動車連盟(FIA)の許可を得て、交換していたからだ。
カタールGP後、HRCは予選後に下ろしたフェルスタッペンのエンジンを調査した。「データを精査しても異常は発見できず、さらに現場でメカニックらによるメンテナンスを行っても、問題がなかった」(折原伸太郎/トラックサイドゼネラルマネージャー)という。
そこでHRCはカタールGPで予選後に下ろしたフェルスタッペンのエンジンを再度、アブダビGPに搭載することをレッドブルに提案した。HRCがそこまでこのエンジンの使用にこだわるのは、それが手持ちのエンジンのなかで最もマイレージが少ないフレッシュなものだったからだ。
フェルスタッペンは第21戦サンパウロGPで予選後にセットアップを変更するためにピットレーンスタートを決断していた。その際、パワーユニットも新品に交換しており、サンパウロGP後はアブダビGPまで連続して使用する予定でいた。マクラーレン勢が6〜8戦使用してきたエンジンで最終戦に臨もうとしていたのに対して、フェルスタッペンのエンジンは3〜4戦しか走っていないため、サンパウロGPで投入した5基目は馬力面でライバルに対してアドバンテージがあった。
フレッシュなエンジンを使用するアドバンテージはピーク時のパフォーマンスだけではない。折原GMはこう説明する。
「通常であれば、金曜日のフリー走行では(予選以降に使用する)パフォーマンスモードは限られたラップ数しか使用しないのですが、マイレージに余裕があるのであれば、金曜日から積極的にパフォーマンスモードを使用し、より予選に近い状態でセットアップを煮詰めていくことができます」

フレッシュなエンジンを使用した場合の振動によるデメリットとメリットを天秤にかけ、HRCとレッドブルはフレッシュなエンジンをフェルスタッペンのマシンに搭載する決断を下した。もし金曜日のフリー走行で再び酷い振動に見舞われたときは、交換も辞さない構えで臨んだ。
果たして、金曜日のフリー走行でのフェルスタッペンのフィードバックは「振動はあるものの、カタールGPほど酷くない」というものだった。これにより、HRCとレッドブルはフレッシュなエンジンを土日も継続して使用する決断を下した。

こうして、フェルスタッペンは土曜日の予選でポールポジションを獲得し、日曜日のレースでも優勝。しかし、タイトル争いをしていたライバルのマクラーレンのランド・ノリスが3位に入ったため、フェルスタッペンは2点届かず、惜しくも5連覇はならなかった。だが、レース後のHRCのスタッフに悔し涙はなかった。
「我々はやるべきことはすべてやり、ポール・トゥ・ウインという結果もついてきた。それ以上は我々の手が及ばない部分なので、どうしようもありませんでした。(チャンピオンを獲って有終の美を飾れなかったことは)悔しいですが、最後までチャンピオンシップ争いができたことは幸せだったし、レッドブルとの最後の1戦を優勝で締めくくれたことはよかったと思います」
「またレーシングブルズとは最後のシーズンをチーム史上最高のコンストラクターズ選手権6位で締めくくれました。こうした戦いに我々が貢献できて、うれしく思っています。アブダビGPでは金曜日に6号車(アイザック・ハジャー)のエンジンにトラブルの予兆が発見されたので、金曜日の夜に交換しました。これで最後の4戦は週末にすべてエンジンを交換して、メカニックは大変だったと思いますが、ホンダとしては最後の最後までやれることはやって、シーズンを締めくくることができました」
HRCとレッドブル・ファミリーのパートナーシップはアブダビGPの2日後のポストシーズンテストをもって、終了。レッドブルとは152戦、レーシングブルズ(トロロッソ、アルファタウリ時代を含む)とは173戦を戦い、通算72勝(レッドブル71勝、アルファタウリ1勝)という素晴らしい成績を残して、幕を閉じた。

