「全員が自分たちの文化に忠実であり続けた」ルールを維持してダブルタイトルを達成したマクラーレン【代表のコメント裏事情】
三つ巴のまま迎えたF1最終戦アブダビGPでは、木曜日にドライバーズチャンピオンシップを争う3人による記者会見が行われたのに続いて、金曜日にはマクラーレンのザク・ブラウン(マクラーレン・レーシングのCEO)とレッドブルのローレン・メキース代表が、キック・ザウバーとしての最後のレースとなるジョナサン・ウィートリー代表とともに会見に登壇した。
この会見で注目されたのは、シーズンを通して“パパイヤ・ルール”と言われるふたりのドライバーを平等に扱う姿勢で戦ってきたマクラーレンが、この期に及んでまだチームオーダーを発動しないのかどうかだった。
ブラウンは「タイトルがかかった我々のふたりのドライバーにとっては、この週末は非常に重要であることは間違いないが、我々は“いつも通り”を心がけ、ここまでの23戦でやってきたことと同じ姿勢で、今週末もレースに臨むつもりだ」と、パパイヤ・ルールに関する明言を避けた。
そこで司会者が「数週間前、チームオーダーを出すくらいならマックス・フェルスタッペン(レッドブル)にドライバーズタイトルを奪われた方がましだとおっしゃっていました。タイトル決定戦前夜となったいま、その考えに変わりはありませんか?」とブラウンにマイクを向けると、ブラウンはこう回答した。
「チームオーダーに関して言えば、両ドライバーが世界選手権優勝の可能性を保持している限り、これまで通りだ。彼らは自由にレースできる。当然、我々は現実的かつ実践的に対応する。週末が進み、レースが展開するなかで、一方のドライバーが他方より明らかに優位な状況だと明確になった場合、我々はドライバーズタイトル獲得を目指すチームであるため、優位に立つドライバーを優先して、タイトルを勝ち獲るために可能な限りの措置を講じるだろう。つまり、我々のチームオーダーとは、両者に同等に優勝する機会を与えることを前提としてきたものだ。しかしレースの展開上、両者とも優勝が不可能と判明した場合は、チームの最善の利益となる行動を取り、ドライバーズチャンピオンシップの獲得を目指す」
つまりブラウンは、状況次第では、パパイヤ・ルールにとらわれずに、一方のドライバーにチームメイトのサポート役を命じる可能性を示唆した。

というのも、アブダビGPのレースが始まる前の段階で、選手権トップのランド・ノリス(マクラーレン)と同2位のフェルスタッペンとの差は12点だった。アブダビGPでフェルスタッペンが優勝してもノリスが3位に入れば、ノリスがチャンピオンとなる。もしフェルスタッペンがトップを走り、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が3番手を走り、4番手がノリスだった場合、このままではマクラーレンはふたりともチャンピオンになれないので、ノリスをピアストリの前に出して3位を確保することも辞さない構えを見せた。
こうなると、レッドブルとしてはフェルスタッペンとマクラーレン勢の間に2台以上のマシンが入らないと、たとえフェルスタッペンが優勝しても12点差をひっくり返すことができない。ブラウンの発言を聞いたメキースは、次のように語った。
「ドライバーたちがクリーンに戦うのは当然のこと。もし、我々がマックスを先頭に立たせるほど競争力が高いマシンを準備できたとしても、それだけではタイトルを手にすることはできない。マックスとマクラーレンとの間に複数のマシンが必要だからだ。マックスがチャンピオンになるためには、強い(チームメイトの角田)裕毅が必要であり、強いメルセデスとフェラーリも必要となる。そうなれば、最終ラップまで全員が緊迫した間違いなく素晴らしい戦いになるだろう」

土曜日の予選でフェルスタッペンはポールポジションを獲得したものの、チームメートの角田裕毅は10番手。頼みのメルセデスやフェラーリ勢もマクラーレンを上回ることができず、ノリスが2番手、ピアストリが3番手につけ、マクラーレン勢が有利な状況で日曜日を迎えた。
ただし、予選を終えた段階ではピアストリにも逆転王座の可能性は残されており、マクラーレンとしては安易にチームオーダーを出せない状況となっていた。つまり、マクラーレンはチームの大原則である「チームメイト同士でも自由にレースできる」というこれまでのパパイヤ・ルールを維持して、ふたりはレースをスタートした。それを物語るのは、1周目にピアストリがノリスをオーバーテイクしたことだ。
一方、レッドブルもやれることはすべて試みた。メルセデスとフェラーリがマクラーレン勢の前へ出られないという状況を見ると、10番手の角田をステイアウトさせて、早めにピットストップしたノリスが接近してきたら、可能な限りブロックするよう命じた。
しかし、それはノリスにとって、想定内だった。
「角田が何か仕掛けてくることは事前にわかっていた。2021年に(セルジオ・)ペレスがルイス(・ハミルトン)にしたように、僕を妨害して苦しめるかもしれないって考えていたからね。かなりギリギリだったけど、なんとか素早く切り抜けた。でも、本当に危なかった。あと5cm近づいていたら終わりだったね」

マクラーレンのアンドレア・ステラ代表は第21戦サンパウロGPの会見でこう語っていた。
「2007年も2010年も、私にとっては忘れることのできないシーズンだ。ひとつは勝利し、もうひとつは敗北に終わった。共通しているのは、どちらの場合も最終戦でランキング3位だったドライバーが、最終的にチャンピオンシップを勝ち取ったということだ。決して諦めず、何事も当然と思わないこと──これはあらゆるスポーツに見られる教訓だ」
2007年の三つ巴戦、2010年の四すくみ戦に続く、今回の三つ巴戦。マクラーレンは過去のジンクスを跳ね除けただけでなく、過去のふたつの最終戦とは異なる戦い方でチャンピオンを手にした。ステラもこう言って喜びを噛み締めていた。
「ドライバーズチャンピオンのタイトルはシーズンごとにひとりのドライバーしか獲得できない。ランドとオスカーの我々のドライバーふたりが、4度のワールドチャンピオンであるマックス・フェルスタッペンと優勝を目指して争う状況は、我々が望んでいた戦況だった。その理想を実現することは簡単ではなかったが、我々はマクラーレン流で成し遂げた。マクラーレンの全員が自分たちの文化に忠実であり続け、驚くべき結束力を示した。この成功でみんなの努力が報われたことを心からうれしく思う」
ステラとブラウン率いるパパイヤ軍団にしかできない見事なダブルタイトル獲得だった。
