【】感動が抑えられないフェルスタッペンからホンダへの無線。新時代の王者とDAZN中継最後の想い【中野信治のF1分析/第24戦】
12月14日
ヤス・マリーナ・サーキットを舞台に開催された2025年F1最終戦/第24戦アブダビGPはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季8勝目/自身通算71勝目を飾り、3位となったランド・ノリス(マクラーレン)が2ポイント差でキャリア初のF1チャンピオンに輝きました。
今回は緊迫のタイトル争いに対する私見。チェッカー後にフェルスタッペンが無線で伝えたホンダ/HRCへの感謝。一旦区切りの一戦を迎えた角田裕毅(レッドブル)に向けた想い、そして10シーズンにわたって解説を務めたDAZNのF1中継について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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アブダビGPで繰り広げられた2025年最後のレース、タイトルを争ったランキング首位ノリスとランキング2位フェルスタッペンは実にシンプルな戦いぶりでした。ノリスは表彰台圏内でフィニッシュすれば、フェルスタッペン、ランキング3位のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が優勝した場合でも、ノリスが初戴冠という優位性を維持した状況で週末を迎えました。
予選ポールポジションはフェルスタッペンが手にしました。ただ、ノリスはフロントロウから表彰台圏内に入れば、無理して優勝を狙う必要はありません。そこで、マクラーレンは予期せぬセーフティカーや赤旗中断といった、予定外の事態が起こった場合でも、ノリスかピアストリのどちらかがタイトルを獲得できるよう、ノリスがミディアムタイヤ、ピアストリがハードタイヤと、ピアストリにもタイトル獲得の可能性を残すなか2台でタイヤ選択を分けました。
対するレッドブルは、フェルスタッペンがミディアムタイヤ、裕毅がハードタイヤを履きました。とはいえ、フェルスタッペンが逆転タイトルを手にするには、ポールポジションからトップをキープするしかできることはありません。フェルスタッペン自身はポール・トゥ・ウインを獲ることに専念し、あとはシャルル・ルクレール(フェラーリ)やジョージ・ラッセル(メルセデス)といった他陣営がノリスをかわし、ノリスが表彰台圏外に下がることを待つしかありませんでした。
シンプルに、表彰台に上がることができればリスクを負う必要がないノリス。勝つこと以外はないフェルスタッペンという対決構図は、直接的なポジション争いが少なくとも、1周1周手に汗握る展開を生み出しました。ノリスは1周目にピアストリに2番手の座を明け渡すも、その後は落ち着いた走りで後続に隙を与えず、危なげなく3位でチェッカーを受けて、自身初のF1ワールドタイトルを掴み、シーズンを終えました。

個人的に、ノリスのようなドライバーが自動車レースの最高峰であるF1で世界タイトルを獲得したことは、新しい時代の幕開けのように感じます。表現が難しいのですが「優しい人でもF1チャンピオンになれるんだ」と、私は感じました。
ノリスはチャンピオンに輝くまで、今年だけでもコースの中ではチームメイトとの接触や他車とのアクシデントなど、決して順風満帆ではありませんでした。だだ、ノリスは自分が発するコメントや態度を通じた『コース外での争い』を好まないひとりです。ノリスという優しい青年が世界王者に輝くことは、今のF1が望んでいる若いファン層を獲得する上でも、F1が現状よりもさらに人気を集める後押しになるのではないでしょうか。
そして一時はランキング首位浮上も、シーズン中盤以降は苦しい戦いが続いたピアストリは、あの苦戦の要因がなんだったのかは定かではありません。ただ、苦戦続きで忸怩(じくじ)たる思いはあったでしょう。目標のタイトルには届きませんでしたが、苦戦していた時期を耐え抜き、そんな時期を経てシーズン最終盤に復調を見せたピアストリの精神性、忍耐強さには感動しました。悔しさと苦しい時期を経たピアストリというドライバーは、2026年に爆発的な成長と走りを見せてもおかしくはないなと感じます。

■フェルスタッペンの無線で泣きそうに。2026年角田裕毅への期待
感動といえば、決勝でトップチェッカーを受けたフェルスタッペンがパルクフェルメに向かう最中、無線でホンダに向けて「ここまで一緒に戦ってくれたホンダのみんなには、最高の成功をもたらしてくれたことに感謝しかない」とコメントしたシーンがありました。DAZN中継の解説をしながら、私は本当に涙を流しそうになりました。
フェルスタッペンというドライバーがそう伝えてくれたことに対する嬉しさ。そしてホンダという日本の会社がF1という世界でどれほど凄いことを成し遂げてきたのかを、F1の歴史に名を残すフェルスタッペンが伝えたことで、世界中のレースファンの方々にも届いたのではないかと思います。そして、それは凄く意味のあることだと思っています。
F1はドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権を争うスポーツですから、フェルスタッペンとレッドブルといった、ドライバーやチーム(コンストラクター)の活躍に注目が集まるのは当然です。ただ、その戦いをレッドブル・パワートレインズを支えることで貢献し続けたホンダの凄さは、フェルスタッペンも痛感していたのでしょう。それをホンダとの最後のレース、それもチェッカー後の無線というかたちで伝えてくれたことがなによりも嬉しかったです。

そして、裕毅にとってアブダビGPはレギュラードライバーとしては一旦の区切り一戦でした。しかし、フリー走行3回目でピットレーンを進むなか、アン・セーフ・リリースされたアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)に接触されてしまい、フェルスタッペンと同じフロアを使用できなくなるという、まさに逆境のなかで予選を迎えました。
それでも予選Q3まで残り、フェルスタッペンにトゥ(スリップストリーム)を与えるサポートに徹したことは、裕毅の成長を存分に感じましたし、ドライバーとしてのポテンシャルをしっかりと示したと思います。決勝でノリスが後ろからきた際には、タイヤのコンディションも大きく違ったため、ノリスにかわされたことは仕方がなかったと思いますね。裕毅のなかでやるべきことはきちんとやれたのかなと思います。

2026年シーズン、裕毅はレッドブルのテスト&リザーブドライバーを務めます。テストドライバーはクルマの開発を手助けし、どれだけチームに対し有益な情報を与えられるかが求められる仕事になります。また同時に裕毅はリザーブドライバーを務めるので、レギュラードライバーであるフェルスタッペン、そしてアイザック・ハジャーが出走できないという状況になれば、裕毅が走ることになり、そうなれば2026年シーズン中にレースに出る可能性もあります。
そのため、レギュラーではなくとも裕毅は依然として、つねに万全の状況でレースウイークに向けて準備し続ける必要があります。レースに出ない週末であっても、テスト&リザーブドライバーという少し外側の立場からグランプリを見る機会を得ることで、新たな視点が裕毅に加わるでしょう。その時間を自分自身にプラスになるように繋げてほしいと願っています。

■DAZN中継でF1解説を務めた10年
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)

