1ストップを成功させたアントネッリ。代表も48周を走り切ったタイヤマネージメントを称える【ルーキー・フォーカス】
F1第22戦ラスベガスGPが開幕する前、普段は雨を歓迎しているフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)はこう言った。
「夜の雨は楽しくない。乾いていてもグリップはすごく低いのに、雨になったら……。観ている側は面白いだろうけど、運転する側はそうじゃない」
ポイントリーダーのランド・ノリス(マクラーレン)も、こう語っていた。
「このサーキットはストリートで白線やペイントが多いから、雨が降ったら相当ひどくなるだろう」
そんななかで開幕したラスベガスGPは2日目に雨が降り、昨年のサンパウロGP以来、約1年ぶりのウエットタイヤで予選が開始した。7度王者に輝いたルイス・ハミルトン(フェラーリ)ですらQ1で敗退する生憎の路面コンディション。ルーキーたちが滑りやすいコンディションに悩まされるのは当然だった。アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)はブレーキでタイヤをロックさせてしまい、予選17番手に終わった。予選で4番手に入ったチームメートのジョージ・ラッセル(メルセデス)も、こう語っていた。
「できれば雨は避けたい。なぜなら、(ドライコンディションだったら)唯一勝てるかもしれないレースだから」

レースデーの土曜日のラスベガスは朝から快晴。予選は雨に泣かされたアントネッリだが、レースはドライコンディションで始まった。
スタート直後の混乱をかわしたアントネッリは1周目に17番手から14番手へとポジションアップに成功。直後にバーチャル・セーフティカー(VSC)が出ると、2周目にすかさずピットインして、ソフトからハードにタイヤを交換した。ラスベガスGPは1ストップ作戦が計算上、最も速いレース戦略だとピレリが予想していたことを考えると、このままハードタイヤでチェッカーフラッグまで走り切る作戦だった。



ただし、アントネッリがこの作戦を成功させるためには、ふたつの関門があった。ひとつは、チェッカーフラッグまでの残りの48周を1セットのタイヤで走り切るためのタイヤマネージメントだ。それがいかに難しいかは、アントネッリと同様にVSCを利用してピットインしたのはピエール・ガスリー(アルピーヌ)しかいなかったことでもわかる。リアム・ローソン(レーシングブルズ)とガブリエル・ボルトレート(キック・ザウバー)も2周目にピットインしているが、これはマシンにダメージがあったため。また1周目には角田裕毅(レッドブル)もピットインしているが、こちらは27周目に2回目のピットインをすることとなった。
そんななか、アントネッリはタイヤを労わりながらも、着実にポジションを上げていった。しかし、早めにピットインする1ストップ作戦を敷いていたアントネッリには、もうひとつの関門が待っていた。それは、スタート時にマシンがわずかに動いたとして、スチュワード(審議委員)から5秒ペナルティを科されていたことだ。
もし、まだピットインしていなければ、フリーエアーで戻れそうなタイミングでピットインし、そこで5秒ペナルティを消化して、コースに復帰した後、追い上げることもできただろう。だが、2周目にピットストップを済ませていたアントネッリには、それはできない。そのため、4番目にチェッカーフラッグを受けたものの、アントネッリの5秒以内でチェッカーフラッグを受けたオスカー・ピアストリ(マクラーレン)にポジションを奪われて、暫定結果は5位となった。
ところが、レース後の車検でマクラーレン2台は失格処分となり、アントネッリのポジションはふたつ上がって、最終的に3位となった。
トト・ウォルフ代表はこう言ってアントネッリを称えた。
「正直、1ストップが現実的だとは思っていなかった。でも、周回を重ねるごとにフロントタイヤのグレイニングを克服して、速さが戻った。非常に価値ある3位だ」
前戦サンパウロGPでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が史上8人目の『ピットレーン・トゥ・ポディウム』を達成した。今回のアントネッリは17番手から、さらに5秒ペナルティを克服しての表彰台。フェルスタッペンの記録にも負けないくらい、脅威のポジションアップだった。
